Red&Wolf

キロ

3話

あの日から赤ずきんは毎日森に行っては狼に会いに行きました。
「狼さん!!狼さん!!」
「また来たのか、赤ずきん。本当暇なやつだな。」
そう言いながらも狼は赤ずきんに色々な話をしてあげました。
基本的には狼の人生についてでしたが、いつしか聞いているだけだった赤ずきんも自分の事について話すようになりました。
「赤ずきん。少し元気が無いようだが……どうしたんだ?」
「え?…な……なんでもないよ!!」
「いいや。その反応は何かある時の反応だな。嘘ついてるのバレバレだ。なにがあった?」
しばらく黙り込んでいましたが、1つ深呼吸をしてから赤ずきんは今日聞いた話を狼に話し始めました。
「実はね、街の人達がね…狼さんの事を悪者って言ってたの。」
「悪者?」
「うん。人形(わたし)に意志を持たせた悪者……って。」
苦しそうな表情を浮かべる赤ずきんの頭をそっと撫でる狼。
「狩人さんが言ってたの。狼さんがいなくなれば人形(わたし)を思い通りに動かせるって。」
一瞬、狼の表情が厳しくなっていました。そんな事気にせずに赤ずきんは話を続けます。
「そうしたらまた狩人さんたちは私を利用するんだ。また……人形に戻っちゃう……。やっぱり私は人形のままでいた方がいいのかな?」
「なんでそう思うんだ?」
いつもとは違うどこか怒りが見える声。その声が狼の声だと分かるのに赤ずきんは少しだけ時間がかかりました。
「お前は人間だろ?意志を持った、感情のある人間だろ?なぜわざわざあいつらの人形になろうとする?」
狼の目には涙を流す赤ずきんが映っていました。
「だって………その生き方しか知らない……。生まれてからその生き方しか教えてもらってないんだもん…。皆、私のことを人形としか見ていない……。だから……だから…」
狼は静かに赤ずきんを抱きしめました。
「……ごめん。……ごめんな。赤ずきん。」
「なんで狼さんが謝るの?……狼さんは悪くないよ?悪いのは……皆…私を人形として扱う皆なの。」
「……それでも…ごめん。」
赤ずきんの頬に雫が落ちてきました。
それが狼の涙だと気づくのにそう時間はかかりませんでした。


月が高く上がった頃、狼は1人木にもたれかかっていました。
月の光に照らされている狼の表情はどこか苦しんでいました。
「悪者………か。」
悲しく笑う狼。
「人形……って……悲しいじゃんかよ…いいのかよ…それで……。」
狼はここにはいない赤ずきんに向けて言葉を紡いでいきました。
「1番人間らしいのにさ…。それを殺して人形でいる必要があるのかよ……。俺は…無いと思うけどな。」
狼の目には涙が溢れていました。
頭に浮かぶのは赤ずきんの素敵な笑顔。
「……それが見られなくなるのは…嫌だな…」
狼は涙をぬぐい、月を見ました。
悲しそうに笑う赤ずきんの姿が一瞬だけ見えたような気がしました。
「そんな顔するなよ。安心しろよ赤ずきん。お前は俺が守ってやる。そのためなら……」
静かな森の中、聞こえてくる狼の声はとても力強い声でした。
「…そのためなら、俺は、悪者にでもなってやるよ。」

「童話」の人気作品

コメント

コメントを書く