Red&Wolf

キロ

2話

ある日のこと。
この街に1つの噂が流れていました。
人を食べる狼が現れた…と。
もちろんその噂を聞いた人達は外出を控えるようになりました。
誰も死にたくないのだから当然です。
そんな中、赤ずきんだけは外に出ていました。
街はいつもの活気がなくなり、しーんと静まり返っていました。
自由の時間。
初めて持てた自由の時間に赤ずきんは嬉しさを覚えました。
どこに行っても誰にも邪魔されることのない素晴らしい世界。
その日から赤ずきんは人の目を盗んでは外へと飛び出し、森へ行くようになりました。
鳥達の歌声や風で揺れる花たち。
そこにある全てが彼女の心に響きました。
「私も……自由になれるのかな……」
時折見せる苦しそうな赤ずきんの顔。それを物陰からひっそりと見ている者がいることを赤ずきんは知りませんでした。


あれから数日経ったある日。
赤ずきんはいつものごとく森に遊びに行きました。
いつも通り森の中を歩いていました。
ふと、疑問が浮かびます。
やけに静かなのです。
いつもなら賑やかな小鳥の歌声が聞こえてくるのに、今日は何も聞こえてきません。
草木もどこか悲しげなのです。
赤ずきんは少し怖くなりました。
そんな時……
ガサ……ガサ…っと枯葉の上を歩く音が赤ずきんに近づいてきます。
「だ……誰?」
震える声で呼びかけると木の影から赤ずきんよりも大きい人が現れました。ただ普通の人とはどこか違います。そう…赤ずきんが出会ったのは狼の耳やしっぽを持つ男の人でした。
「……なんだ。子どもか。こんな所に何の用だ?」
「あ……遊びに……」
「………暇なやつだな。それに、人を食う狼が出たとか言っているのによく外なんかに出られるな。俺なら部屋で引きこもってるところだが?」
そう言うと狼は近くの木にもたれかかるように座り込みました。
「まぁ座れよ。」
隣をポンポンと叩くと素敵な笑顔で赤ずきんを見ました。


「狼さんはどうしてそんな格好になったの?」
「あ…あぁ。狼にしては人間好きだったからな。神様がそうしてくれたんだ。耳としっぽは残ってしまったがな。」
そう悲しそうに笑う狼を赤ずきんはずっと見ていました。
黒の髪に映える白の耳としっぽ。赤ずきんはそれに釘付けです。
「そんなに気になるのかよ。」
「うん。初めて見たから。」
「そりゃそうだろうな。そうそういねーよ。こんな狼。」
「でも、私はいいと思う。」
「………そうか。ありがとな。」
嬉しそうに笑う狼につられ笑う赤ずきん。
「なんだ。笑えるんじゃんか。」
「え?」
不思議そうな顔をすると狼はその理由を話してくれました。
「面白い話をしても笑わないし、あんまり表情に出てなかったからこいつ笑えないのでは?と思ったが……いいじゃねーか。その笑顔、俺は好きだぜ。」
そう笑顔を見せる狼。
赤ずきんは静かに頷き返しました。
日も傾き始め家に帰ろうとする赤ずきんに狼は1つの約束をしました。
「来れる時はいつでも来いよ。遊び相手になってやる。」
「うん!!ありがとう!狼さん!!!」
そう言って手を振る赤ずきん。狼には聞こえないぐらいの小声でこう告げました。
「また明日ね。狼さん」
赤ずきんが振り返るともうそこには誰もいませんでした。

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