眼鏡女子と王子様

小森 美佳

今まで、なんの取り柄もないことが自分の取り柄だと思ってた。
クラスでも存在感がなく、教室に入ると「近づくな」、「キモい」と陰口を言われ、ある時は「メガネブス」とあだ名がついた。

友達なんて今までできたことない。
1人でも生きていけるのだから、むしろその方が気が楽で自分には必要ないものだと思ってた。

もちろん、彼氏だってできたこともない。
恋愛にも全く興味がなくて、告白されたこともなければ、好きになった人だっていない。


それなのに、
あの日をきっかけに、私の世界は変わった。

毎日が楽しくて、ウキウキして。
姿を見かけるだけでドキドキして、不思議と目で追ってしまう。

いないとモヤモヤするし、あんなにウキウキしていた自分がバカらしくなる。

なんだろう、この気持ち。


あの人と話したい!名前を聞きたい!
気がつけばそんな思いがよぎっていた。

胸元のネームプレートに書いてある「白川」は、確実に苗字だから、下の名前はなんていうのかな?
絶対にカッコ良い名前だろうな〜。

高校生かな? 
何処の高校に行っているのかな?
今、何年生なんだろう?
誕生日は? 血液型は? 
何処に住んでいるのだろう?

ひとつ聞きたいことを考えると、他にもどんどん聞いてみたいことが出てくる。






あの日、あの時、あの場所に行かなければ私は、あの人に出会うこともこんな気持ちを知ることも絶対になかったんだ。

そう思うと凄く嬉しくて、こんな私にも、生まれて初めて、出会えて良かったって思える人ができた。


その人は、とっても優しくて、紳士的でカッコよくて、スタイルも良い、まさに王子様みたいな人--。






名前も素性も何も知らない人に、
多分私は、出会ったあの瞬間から一瞬で恋に落ちていたと思う。



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