ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~

うみたけ

幻の巨乳先輩……その正体は……?

「あの、三年生にすごく胸の大きい、スタイル抜群の先輩がいるって聞いたんですけど…ご存じないですか?名前は駒形先輩っていうらしいんですけど……」
「胸のデカい奴……? いや、少なくとも俺はそんな奴知らんな。他の学年と他校とかじゃないのか?」
「いえ、それが違うみたいで……。――お忙しいところありがとうございました! もし何か思い出したら教えてください! 僕は2年3組の藤岡っていいますので」
「おう。じゃあな。頑張れよ」

 そう言って去っていく先輩を見送りながら思わずため息がこぼれた。

「今回も収穫なしか……」

 陽平に唆されて始めた三年生への聞き込みも、今の先輩で5人目。
 二手に別れて聞き込みをしているため、陽平の方の状況は不明だが、こちらは全くもって収穫なし。どの先輩も、まるで口裏を合わせているかのように『そんな奴知らない』という回答ばかりでさすがに嫌気がさしてきた。

「これ、マジで駒形先輩幽霊説あるんじゃね?」

 この日々科学技術が目覚ましく進歩する現代において、非常に非科学的なことを言っているのは重々承知している。が、ここまで誰も知らないという状況を目の当たりにすると、『あれは本物だ! 幽霊なんているはずがない!!』と自信を持って言えなくなってくるというものだ。

「まぁ、異常気象だの超常現象だの、いろいろと信じられないことが起こる世の中だ。幽霊の一人や二人いてもいいんじゃね?」

と、自分に言い聞かせていると、

「奏太~そっちはどうだった?」

逆側半分のクラスの聞き込みを受け持っていた陽平が戻ってきた。

「とりあえず俺の中では8割方駒形先輩は幽霊だったという説で固まってきたところだ」
「諦めんなよ! お前、そんな簡単にオカルト信じるほど素直な性格してねぇじゃん!」
「そうだな。正直に言おう。ぶっちゃけ、俺はこれ以上聞き込みやるのが面倒だから、さっさと結論出して帰りたい。ただそれだけだ」
「なるほど。それじゃあ夏休みの宿題の約束はなかったことに――」
「結論を急ぐのはまだ早い! さぁ! もう一度気合い入れ直して聞き込みに行くか!!」
「前言撤回だ。奏太、お前は間違いなく素直だよ……自分の欲望にはな」

 自分の欲望に素直な男・藤岡奏太……うむ。全くもって異議はない。

「まぁいいや。――とはいえ、先輩が幽霊って可能性がかなり高くなったのは事実だ。俺の方では先輩だけじゃなく先生にも聞いてみたが、みんな知らないって言うし……」
「おいおい、先生すら知らないとなると、マジで駒形先輩幽霊説で確定なんじゃね?」
「ああ……そうなんだよな……」

 なんやかんやで聞き込み前は全く信じてなかった幽霊説が現実味を帯びてきて、二人の間に変な緊張感が立ち込めできた。
 しかし、そこへ……

「あれ? もしかして藤岡君か?」

俺達二人の中でも有力化してきた幽霊説をひっくり返す人物がやって来た。

「え……? そうですけど……」

 声をかけてきたのは俺と同じくらいの身長の男子生徒。色白で細身、手足が長い中性的な顔立ちのイケメンだ。上靴の色を見る限り先輩であることは確かなんだが……

「よ! どうした、わざわざ3年生の教室までやってきて?」

誰だ、この人は……? 何か知り合いっぽいけど、俺はこんなイケメン全然知らんぞ……?
 一応陽平の方にアイコンタクトで『知ってるか?』と確認してみるが、首を横に振るだけ。
 俺の名前を出してきている以上、人違いって線は無さそうだし……ということは小学校とか中学校とか、昔の知り合いか? ……ダメだ。全然思い出せん。っていうか、俺に年上の知り合いなんていたっけ?

「あの……すみません。失礼なんですが、どちら様ですか……?」

 俺は目の前の先輩が誰なのか思い出すことを早々に諦め、この後の気まずさを覚悟しつつ直接確かめるという選択肢を選んだ。
 しかし、

「あー、そっか! さすがにこの見た目じゃ気付かないよな!!」

先輩は俺の言葉に全く嫌な顔することなく、むしろ上機嫌で笑うと、

「これなら分かるかな――藤岡奏太君、もう落とし物はしてないかな?」

声色を2オクターブくらい高く変えてニヤリと笑った。

「え……も、もしかして……?」

 そのごく最近聞いた声色に、俺だけでなく隣にいた陽平までもが目を見開き、そして顔を引きつらせ、声を揃えた。

「「まさか……駒形、先輩……?」」

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