ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~

うみたけ

私の好きな人

「奏太!おい、しっかりしろ!」
「奏太君!奏太君!!」

 結局あの後、太田君はケンイチとかいう男の人をあっという間に無力化してしまい、それを見た新町さん達も逃走。私達はなんとか助かったのだけど…

「私のせいで…!私のせいで、奏太君がっ…!!」
「なごみちゃん、落ち着いて!大丈夫!呼吸はちゃんとしてるから!」

 私のために体を張ってくれた奏太君が気を失ったまま目を覚まさない。
 どうしよう…どうしよう…もしこのまま目を覚まさなかったら…私のせいだ…私が変なキャラ作って新町さんを怒らせちゃったから…。

「奏太君…奏太君…!」
「俺、救急車連絡してくるから!なごみちゃんはここで――」
「うぅぅ…」
「「!!」」
「奏太君!?私!なごみだよ!?わかる!?」

 彼のうめき声が聞こえ、さらに必死に呼びかける。

「…なごみ…と、陽平?」
「よかった…気が付いたんだな」
「よかった!本当に心配したんだから!!」
「うおっ!?」

 嬉しさと安堵で今まで我慢していた涙が一気に溢れていたけど、そんなことどうでもいい。気づけば私は思いっきり奏太君に抱きついていた。ああ、良かった…。本当によかった…。

「悪かったな、心配かけて…。陽平もマジで助かった。――アイツらは?」
「ああ、アイツらなら大丈夫だ。男を無力化したら新町達もさっさと逃げてったよ」
「おいおい、不良相手に喧嘩まで勝つとか、さすが真のハーレム系主人公は違うな」
「だから、誰がハーレムだっつーの!」
「ま、今度なんかお詫びさせてくれ」
「しゃあねぇな。購買のパン1週間分で勘弁してやるよ」

 太田君がいることなど忘れて奏太君の胸に顔を埋める中、聞こえてくる男友達同士のやり取り。

「それじゃあ、俺、そろそろ行くから。――早く行かねぇとまた藤林に奢らされるからな」
「おお、すまんな、デート前に。まぁ、学校でデートって何する気が知らんが…お前らのマニアックな選択のおかげで助かったわ」
「いや、デートじゃねぇから!自主練だよ!じ・しゅ・れ・ん!!OK!?」
「お、おーけー…」

 そうか…何で太田君が来てくれたのかと思ったら、自主練だったのか。――って、しまった!そういえば私、まだちゃんと太田君にお礼してなかった!!

「それじゃあ俺は行くからな」
「ちょっと待って!!」

 私は慌てて奏太君から離れて立ち上がり、そのまま立ち去ろうとする太田君を呼び止めた。そして…

「え?何?」
「太田君!今日は助けてくれてありがとう!!お礼はまた今度改めてするから!!」

 太田君の方へときちんと向き直り、深く深く頭を下げた。

「ああ、そんなの気にしなくていいって」
「そういうわけにはいかないよ!太田君は私達の命の恩人なんだから!!――何でもいって!!」

 “恩は必ず返すべし”――波志江家の家訓の一つ。今日の恩は非常に大きい。私にできることなら何でもするつもりだ。

「うーん…あ、そうだ!」

 私の申し出に対して太田君は数秒悩んだ後、何か思いついた。
 なんだろう…。漫画とかだとエッチなこととか…?でも、彼の周りには私より可愛い子なんてたくさんいるし…などと勝手なことを考えながら少し緊張しながら次の言葉を待っていると、

「それじゃあ、これからはできるだけ毒舌は無しの方向で…」
「え?」

 苦笑交じりに彼の口から聞こえてきたのは本当に些細なものだった。
 え?そんなことでいいの?――予想外の御願いに思わず呆けてしまった。

「ほら、なごみちゃんの毒舌って結構効果抜群だから」
「確かにな」
「え?そ、それはごめんなさい…!!――というか、そんなことでいいの?」
「いいんだよ。別に俺は見返り欲しくて二人を助けたわけじゃないし」

 …なるほど。彼が女子にモテる理由、少しわかった気がした。(まぁ、勿論私は奏太君一筋だけど)

「わ、分かった…。でもいいの?どっちにしろあのキャラはもう辞めようと思ってたんだけど…」
「え、そうなの!?――ま、俺もそっちの方がいいと思うよ。多分今のなごみちゃんの方が奏太もタイプだろうし」
「おい、陽平。お前の好きなAV女優、お前のハーレム達に言ってやってもいいんだぞ?」
「だからハーレムじゃないっつーの!……でも、マジでそれは言わないでください、お願いします」

 太田陽平君…さすがは奏太君の友達。良い人過ぎる。

「――って、ヤベッ!藤林から電話だ!それじゃあ、俺はもう行くから!――じゃあな、二人とも」
「おう!またな」
「ありがとう!」

 私が引き留めてしまったせいで、彼女?を待たせてしまっていたようで…電話の相手を確認するやいなや、太田君は慌ただしく去って行った。

「今日は陽平様様だな」
「うん、そうだね」

 これで一連の事件は解決…ではない。私にはまだやらなきゃいけないことがある。

「奏太君」
「んあ?」

 改めて奏太君の方を向き直り正座し、

「今回は私のせいで巻き込んで…怪我までさせて、本当にごめんなさい!」

 床に頭をつけて謝罪した。私のことに巻き込んで、怪我までさせてしまった。
 謝ったところで怪我が治るわけでもない。許してくれないかもしれない。でも…それでも、私は心の底から謝りたい。

「なっ!?お、おい!何だよ急に!っていうか何で土下座なんてしてんだよ!」

 しかし、そんな私の思いとは裏腹に、『なんでお前が謝ってるんだ!?』とでも言いたげに、私の行動に慌てる奏太君。

「だって、元はと言えば私が新町さんを怒らせるような態度取ったのが原因だし…奏太君に酷い怪我させちゃったし…」
「いや、いいって。そんなの気にしなくたって」
「そういうわけには――」
「そもそも拉致られたのは俺の不注意だし、俺をボコボコにしたのはあの不良男だろ?――お前が気に病むことなんて何一つねぇよ」
「で、でも…」

『お前が気に病むことなんてない』――奏太君のその優しさは嬉しい…。でも、ボロボロになった彼を目の前にして、その優しさに甘えることなんてできない。
と、一人俯き、葛藤する私だったが…。

「それに、あの変な毒舌キャラだって、なんか理由があったんだろ?」
「…え?」

 次の瞬間、奏太君の口から飛び出した、思ってもみなかった一言に、思わず私は顔を上げ、目を見開いた。

「しかも何となく察するに、その理由に俺も絡んでるんだろ?――なら尚更俺がお前を責めるのはお門違いだろ」

 本当に奏太君は優しい…。でも、責める理由ならある。

 確かにあれは“次に奏太君に会うときまでに、奏太君の助けが必要ないくらい強い女の子になってやる!”っていう思いから始まった。
 中学時代、奏太君が私と一緒にいるせいで周りの男子から仲間はずれにされたり、クラスの女子から嫌がらせを受ける私を助けるせいで女子からも煙たがられているのを知っていた。
 それでも…奏太君と一緒にいたくて…私は彼から離れることができず。そして、私はそんな自分が大嫌いだった。
 だから、引っ越しが決まった時、私は決めた。――引っ越しする前に彼に告白すること、それから次に会うときまでに“奏太君にふさわしい女の子”になることを…。

「確かに、私はこのまま奏太君にばかり迷惑をかけるのが嫌で、一人でも平気だって思ってもらえるような強い女の子になりたくて、変わることを決めた。――でもそれは…」

 でも、それは私の勝手な思い込み。
 少し冷静になればわかるはず――奏太君は別にあんな毒舌女望んでないって…。
 私が変わろうと思ったのは“奏太君のため”なんかじゃなかった…あれは…

「確かに最初は“奏太君のため”と思った。でも、それは違う。結局私が変わろうと思ったのは…奏太君が私に愛想を尽かすんじゃないかって不安だったからなの!ただ奏太君が私から離れるのが怖かっただけなの!!」

 あれは結局“自分のため”。私は自分のために行動し、結果奏太君には怪我までさせて、今まで以上の迷惑をかけた。
 そんな私が“責められない”なんておかしい。罰を受けないなんておかしい。

「だから、私はしばらく奏太君と距離を置こうと思うの」

 意を決して、そう告げた。
 言った瞬間、また涙がこみ上げてきたが必死にこらえた。だって、ここで泣くのはズルいと思ったから…。

「はぁ!?お前、それって、別れるってことか!?」
「別れたくはない。――でももし、私が奏太君に迷惑かけないような女の子になるまでに、奏太君に別の好きな子ができたら…その時は、諦める」

 私だって別れたくない。でも、今のままじゃ、また私は奏太君に迷惑かけちゃう。――それはもう嫌だ。

「このままじゃ私はずっと奏太君に迷惑かけ続けることになっちゃう気がするの。だから――」
「いいじゃねぇかよ、迷惑かけたって」
「いや、でも――」
「他人に迷惑かけない奴なんていねぇよ!現に俺だって、今日一人で空回りした挙句、陽平に迷惑かけた!」
「そ、それは――」
「でも!そんなの当たり前だ!だって、迷惑かけあって、助け合うのが友達ってもんだろ?――それより深い関係性の“婚約者”なら尚更だ」

 自分を責めようとする私の言葉を何度も何度も遮り、そしてどこまでも真剣な顔で告げる彼。

「だから、これからも遠慮せずにガンガン迷惑かけろよ。――俺は面倒事持ち込んでくるところも、全部含めてお前のことが好きなんだから」

 奏太君はそう言って笑った…普段は滅多に見せない優しい笑顔で。

「…本当にいいの?今度はもっと迷惑かけるかもしれないよ?」
「かまわんよ」
「…今度は今日みたいに助かるとは限らないんですよ?」
「心配すんな。そん時は俺がなんとかする」
「…自分で言うのもなんだけど、私と一緒にいると普段から面倒事に巻き込んじゃうよ?」
「知ってるよ。――っていうか、好きな奴にかけられる迷惑なんて迷惑のうちに入んねぇよ。お前だってそうだろ?」
「も、勿論!」

 不意に好きだと言われ、みるみるうちに顔全体が熱を帯びていく。

「じゃあ決まりだな。――なごみ、これからもよろしくな」
「――う、うん!」

 さっきまでこみ上げてきていた涙は嘘のように乾いていて、気付けば私は満面の笑みを浮かべていた。

「じゃ、そろそろ帰るか」
「うん!――あ!一個言い忘れてた!」

 自分でもびっくりした。
 中学の時から大好きで大好きで仕方なかった彼…。それなのに…

「あ?なんだよ?」
「チュッ」
「なっ!?」

 不意打ちで頬にキスすると、奏太君の顔は一瞬で真っ赤になった。
 既に大好きで大好きで…もうこれ以上好きになることなんてない――そう思っていた。でも…

「なごみ!お前いきなり何すん――」
「奏太君!――大好き!1」

 波志江なごみ、17歳。私は本日、彼のことをさらに好きになってしまいました。

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