ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~

うみたけ

プロローグ~始まりの逆プロポーズ~

「なごみ、もう泣くなよ」
「そ、奏太君…で、でも…」
「別にもう会えなくなるわけじゃないんだし、高校に上がるくらいにはまたこっちに戻ってくるんだろ?」
「う、うん…」

 中学2年生の夏。俺は幼馴染の少女と別れの挨拶をする羽目になっていた。
理由はなごみの親の転勤による引っ越し…もう中学生とはいえ、俺たち子供の力ではどうしようもなかった。
 そして、遂に迎えた…迎えてしまった引っ越し前日。
俺達二人は最後に小さい頃から二人でよく遊んだ公園にて、別れを惜しみ。
間もなくこの町を去る俺の幼馴染は小さな子供のように泣きじゃくっていた。

「だから泣く必要なんてないんだって。ほら、メールとかでも連絡取れるんだしさ!」

 こんな場面でありきたりな言葉しか出せない自分のボキャブラリーの少なさを若干嘆きつつ、それでも一生懸命にそんな少女をなんとか元気づけようとする俺。

「でも…」

しかし、俺は知っていた…10年来の付き合いになる目の前の泣き虫少女が、一度泣き出すとなかなか泣き止まないということを…。

 今回の引っ越しは一時的なことで、数年後には再びこっちに戻ってくるという。
別にこれが今生の別れというわけでもない。
だがしかし…たとえ数年とはいえ、しばらく会えないのは事実であり、実は俺だって泣きたいくらいだ。
それでも、俺はそんな気持ちをぐっと堪えて笑った。――だって、離れ離れになる前に、大好きな女の子の一番好きな表情…笑顔をこの目に焼き付けておきたかったから…。
 だから…俺はこんな約束をしてしまったのだろう。

「よし、分かった!じゃあ、お前が笑ってくれたら、何でも一つお前の言う事聞いてやるよ」
「ほんとに…?」
「ああ、本当だ!」
「…じゃあ、私と結婚してくれる…?」
「…え?」

 言われた瞬間、俺は一瞬頭の中が真っ白になり、フリーズした。
 目の前には俯き加減で頬を染めつつ上目使いという反則的な仕草で問いかけてくる我が幼馴染の姿が…。
惚れてまうやろー!!――思わずそんな一昔前、若干流行ったギャグを叫んでしまいそうになりつつも、寸前のところで何とか踏みとどまった。…っていうか、これが無くてもぶっちゃけ前から惚れてたんですけどね…。
 この可愛い顔立ちも、小柄な体型も、普段は内気で恥ずかしがっているけど誰かが助けを求めている時は自分のことなんてお構いましに一生懸命になれる優しい性格も、すぐに騙される純粋で素直なところも…俺は彼女の全てにずっと前から惚れていた。
 そして、俺は今、そんなずっと想いを寄せている女子から告白…いや逆プロポーズされているのだと、ようやく頭が理解すると…

「い、いいぜ?」

 顔は見る見るうちにインフルエンザにかかって40℃越えを記録した時の熱がぬるく感じるくらいの熱を帯びていき、顔は自然とニヤけ、返事する声はこれでもかという程裏返った。
心の中では歓喜の雄たけびを上げてガッツポーズを繰り返しつつ、なごみの前では恰好つけようと必死に誤魔化そうとしたが…まぁ、おそらく動揺し、舞い上がって、照れまくっているのはバレバレだったことだろう。

「ほ、本当!?」
「お、おう」

 一方、俺をこんな状態にした張本人はというと…こちらの返事を聞いた瞬間、取り繕うことなくぱあっと表情を明るくさせて大喜び。
こういう単純で素直なところも好きなんだよなぁ。と、そんなことを考えながら再び頬を赤らめていると…

「本当に本当!?」
「うおっ!どうした、急に!?」

興奮しているのか、なごみは急に距離を縮めて言い寄ってきた。

「結婚してくれるって、本当?ドッキリとかじゃない!?私本気にしちゃうからね!?
「あ、ああ、大丈夫だって!本気で本当だよ!」
「離ればなれの間浮気しちゃダメだからね?」
「当たり前だろ!?」
「嘘ついたら針千本だからね?」
「お、おう。わかったよ!」
「それからそれから――」
「ああ!もう!わかったって!!将来俺とお前は結婚する!――それでいいんだろ?」

 二人の距離はどんどん近づき、少し俺の方から顔を近づければキスできてしまう程の距離まで近づいたところで…これ以上はあまりの恥ずかしさに耐えられん…と、興奮気味に質問攻めしてくるなごみを、俺は強引に遮った。

「うん、約束だよ!」
「お前こそ気が変わったとか言っても知らねぇからな」
「大丈夫!私はずっと奏太君が大好きだから!!」
「お、おう…」

あんまり大声で恥ずかしいこと言うなよ…。そう思いつつも、俺は内心浮かれまくっていた。

「じゃあ、元気でな」
「うん!奏太君もね!!――私、奏太君の妻として恥ずかしくない女になって帰ってくるからね!」

この見るからに嬉しそうで、見ているこっちが照れてしまいそうな満面の笑顔…この笑顔が俺は大好きだった。
そして、離れ離れになる前にこの笑顔を見ることができただけでなく、結婚の約束までしてしまうなんて…。
断言しよう。この時、俺は間違いなく人生の絶頂期を迎えていた。

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