久遠

メイキングウィザード

第29話 犯人


 街でまた人が死んだ。
 手口は前回と違う。
 背後から刃物で刺されたのだ。
 
何度も何度も刺され死体の一部は原型をとどめていなかったという。
 凶器は見つかっていない。

 警察が街のいたるところに配備され、住民を守るために、そして犯人を捕まえるために動いている。

 特捜隊のメンバーも動かないわけにはいかなかった。
 次なる被害者が出るまえに犯人を見つけ出さないとならない。

「それにしても犯人なんて、どうやって見つければいいのか僕にはさっぱり思いつかないねっ」

 四ノ宮と直江は夜の町を捜索する。
 吾朗と祭は別行動であった。
 直江は昼間のこともあり、祭と行動を共にしたいと言ったがそれを吾朗が却下した

「もうお前の横に女は歩かせん」

 ひがみである。
 二人は兜山近隣の住宅街を歩いていた。といっても行く先にあてがあるわけではなく、パトロールという名の散歩に等しい行動だ。
 二人ともいつものように武装はせず、四ノ宮も愛刀を持ってきてはいない。
 警察に発見される可能性が高いからだ。

「さっきから何を考えているんだい?ずっと黙ってるじゃないか」

 四ノ宮が黙って後ろからついてくるだけの直江に声をかける。

「いや、別に」

 そう言うが本当は祭のことが心配で仕方なかった。
 四ノ宮は溜め息つくと「こっちに行ってみよう」と山道に向かっていく。

「僕は思うんだけどね。ここまで騒ぎになってしまえば犯人はもう街で人を殺さないんじゃないかな?」
「もう殺人はおきないってことか?」
「そうじゃないさ。街では警察が目を光らせているから、殺人がおきるとすればこういう場所なんじゃないかなっていいたいだけさ」

 二人は荒れた道を進んでいく。
 普段は山登りが趣味の老人たちが大きなリュックサックを持ってここを歩いているのだろう。
 普通の人なら息切れして「そろそろ休憩しよう」なんて言い出しかねない急な道でも二人はすいすい歩いてゆく。鍛えている成果が出てきていた。
 やがて開けた場所に出る。

 夜の街が下に見えた。
 地面を葉が覆い、周りは木と崖に囲まれている。
 山登りの休憩スポットとして有名かもしれない。

「四ノ宮。僕たち、ちょっと登りすぎたみたいだ」
「そうだね」

 街の景色を見ていた直江はふと何かに気づく。
 背後から聞きなれた音がしたのだ。
 振りかえるとそこにがしゃどくろを手にした四ノ宮が立っている。

「おいおい直江くん。まだ抜ききってないのに振り向かないでくれよ」

 彼はヘラヘラと笑いながら鞘を捨てた。
 一瞬頭が追いつかない。

「四ノ宮。その刀どうした」
「もともとここに置いてたんだよ。朝あっちの茂みに隠しておいた」
「そうか……なんで今持ってるんだよ」

 直江は落ち着いていた。
 四ノ宮がここに刀を置いていて、今それを抜いているのには正当な理由があるからだ。
そう思っていた。

「直江くんにはどうして僕が特捜隊に入ったか理由を教えたことがあったかな?」
「いや……」

 四ノ宮が刀を携えたまま一歩直江に歩み寄る。
 直江は逃げることができない。後退しようにも後ろは崖だ。
 四ノ宮が構えると刃からカチャッと音がした。

「僕はね。何かの命を奪った時、どうしようもく興奮してしまうんだ」

 その目は爛々と輝いていた。


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