久遠

メイキングウィザード

第27話 祭の思い


「げ」

 直江は思わずそうつぶやいた。
 シルヴィアと共に街を巡っていた最中、ちょうど角を曲がったところで彼らと鉢合わせてしまったからである。

「な〜お〜えぇえええ!!!」

 直江を発見するや否や彼の元に突撃して胸ぐらを掴んだのは特捜隊の吾郎である。

「こっちは殺人事件の犯人探してるっていうのに、てめえは女と何よろしくやってんだこらあああああ!!」
「こ、これには事情があって……」

 そんな彼らの元に鳴華が向かって来る。
 シルヴィアによって洗脳されている鳴華は、シルヴィアと直江の両名に何か問題があればすぐに駆けつけるよう命令されているからだ。
 しかしすぐ近くまで来た彼女をシルヴィアが「問題ない」と制止する。

「事情だと直江てめえ、女二人連れてハーレムしてるわけはどんな事情だこらあああ!」

 吾郎の後ろでは四ノ宮がやれやれといった感じで首をすくめている。
 祭にいたっては直江をもの凄い剣幕で睨みつけてほっぺたを強烈なほどに膨らませていた。

「ま、祭ちゃん……」

 あたふたする直江を見て面白いと感じたのか、その腕にシルヴィアが絡みつく。

「あら直江さん。楽しいお友達がいるのね。でもせっかくのデートなんだから……」

  こういう時に限って豚って呼ばないんだな、こいつ。
 吸血鬼の特徴である赤い目をカラーコンタクトで偽装しているので今の彼女が吸血鬼だと発覚することはないだろう。
 祭のほっぺたが今にも弾けそうなほどに膨らんでいる。

「違うよ祭ちゃん!」
「もう知らん!直江の剣の稽古も見たらへん!」
「だから誤解だって誤解……」
「知らん知らん知らん!」

 そっぽを向く祭。
 だがそんな彼女に近づいて行く者がいた。

「祭」

 黒いローブを身にまとったハンター、鳴華だ。

「………鳴華……お姉ちゃん?」

 驚いて目を見張る祭。
 鳴華は麻上の血を引く者、祭はそんな麻上に師事する門下生。立場は違えど同じ場所で共に剣術を磨き合った仲だった。

「……なんで……てっきりロンドンに行ったんやと……」

 祭は今の彼女がシルヴィアによって洗脳状態であることを知らない。
 だが誰よりも驚いたのはシルヴィアである。

 ……どうしてこの子はいつも勝手に動くことがあるのかしら……。

 シルヴィアの手駒に本来意志はない。足を舐めろ、泥水をすすれと命令すれば歯向かうことなく命令を実行する。しかしこの鳴華だけは違う。動くなと命令すれば、他の者は何があってもじっと立っているのに対して、この女は平気であぐらを組んで座るのだ。
 それもこれも麻上という血のせいか。
 もうこれ以上何かあって洗脳が解けても困る。

 ………下がりなさい。

 そう鳴華にテレパシーめいた何かで声も出さずに伝えると、彼女は命令を聞いてどこかに去ろうと祭に背を向けた。

「鳴華お姉ちゃん!」

 祭が呼び止めようとするが洗脳状態の彼女には届かない。
 でもそんなことは祭にはわからない。

「……やっぱりまだ怒ってるん……?」

 記憶に浮かんでくるのは麻上の元で剣を振るっていた日々。
 過酷な修行の毎日だった。だがその合間には安らぎの時間がちゃんとあった。
 鳴華や他の門下生達。そして、師である女性と過ごす日々が癒しだった。

 しかし………そんな日々を私は壊してしまった………

「うちが……うちが先生に……あんなことしたから」

 その言葉に反応して、鳴華が再び足を止めた。
 シルヴィアが驚いて、何度も下がれと命令するが効かない。
 鳴華は振り返ると、祭に向き直る。

「お前は先生を切った。だがあれは間違いではない。お前は正しいことをした」

 一瞬、洗脳されているはずの鳴華の瞳に光が灯った。だがその目はすぐに再び陰をさして今度こそ鳴華はその場を去った。
 よほど過去に何かあったのだろう。傷心した祭はその場で膝をつき、吾郎が気づかう。
 シルヴィアはそんな彼女のある一点を見つめて考えていた。

 ………見つけた。

 それは祭の指につけてあるリングだ。
 あれこそ同族が私から奪ったもの。そして見つけたのはそれだけではない。
 シルヴィアの好敵手であった伝説のハンターは数年前、同じハンターに殺されたときく。


 いや、殺されたというよりは処刑されたといったほうが正しいか。
 彼女は重罪を犯し、そしてその場で斬り殺された。

 彼女を処刑した人物は当時相棒であり弟子でもあった一人の少女。立花祭である。


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