それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point4-Second Name〉 四話

 朝起きて、寝ぼけ眼で立ち上がる。二度、三度とジャンプしてみるが脚の方は大丈夫そうだ。若干痛むが、予想以上に治りが早い。双葉のヒーリングがいい感じにきいてるんだろうか。

 朝食を摂るより前に女性陣の部屋に向かった。四回ノックしたが返事がない。

 ドアノブに手をかけてゆっくりと回す。警戒しながらドアを開けた。

「おいおい……」

 穏やかな寝息をたてて眠るフレイアとメリル。机に突っ伏して眠るメディア。丸くなって眠る双葉。なにかあったかと心配してしまった。

 双葉とメディアに毛布をかけて部屋を出た。フレイアとメリルも無事みたいだし、今俺ができるようなことはないだろう。

 階下に下りるとグランツとゲーニッツが朝食を摂っていた。

「見張りはもういいのか?」

 二人の向かい側に腰を下ろす。宿屋の女将がやってきたのでオムライスを注文した。朝から食べるものでもないような気もするが、まあいいだろう。

「二人の様子はどうだい?」

 ちょうど食事を終えたグランツがそう訊いてきた。

「ちょっと部屋を覗いた感じだと大丈夫そうだった。みんな寝てたけど」
「一晩中看病してたんだろうね。メディアと双葉ちゃんも疲れてて当然だよ」
「ったく、面倒事ばっかり持ってきやがる」

 ゲーニッツも食事を終えたのか、爪楊枝で歯と歯の間に詰まった食べ物をかきだしたいた。同時に、俺のオムライスもやってきた。

「これからどうすんだ?」
「テルバだな。この辺じゃ一番デカイ都市でな、港から船が出てる。この船に乗って海を渡るのが目的だ。ここからは早くて一時間、遅くて二時間くらいだが、森の中を進むことになるから馬車には頼れない」
「二時間ならこの町に寄る必要なかったんじゃないか?」
「ロークスとテルバを繋ぐ森は「霧の森」って言われててな、常に霧が出てるんだ。距離はそうでもないが、薄暗い中を進むのは体力がいる。これでもお前ら低レベル帯の心配をしてるんだよ」
「それは、まあ、ありがとう」
「もっとありがたく思え」

 そう言ってからゲーニッツが立ち上がった。それも見たグランツも立ち上がる。

「一時間後に出発だ。アイツらを起こして飯食わせておけ」
「ペットみたいな言い方すんなよ……二人はどこ行くんだ?」
「見回り以外ねーだろ。出発まで外にいる、なんかあればライセンスで呼べ」

 差し出されたライセンス。確か表面をくっつけるとフレンド登録できるんだっけか。

「わかった」

 俺もライセンスを出してゲーニッツとフレンド登録を済ませる。なぜかグランツも同じようにライセンスを持っていたので、こちらともフレンド登録しておいた。そういえばこいつらとフレンド登録してなかったんだな。双葉もメディアもメリルもしてない。後でお願いしてみるか。

 二人を見送り、急いで朝食を済ませた。一時間後に出ると言われたが、なにげに一時間は短い。すぐに女性陣を起こさなきゃいけない。

 二階に上がり、女性陣の部屋を四回ノック。中から「はい」という声が聞こえてきた。

 ドアを開けると、メリルが上半身を起こしていた。他の三人はまだ寝ているらしい。

「よくなったんだな、よかった」

 メリルが僅かに微笑んだ。

「ええ、ありがとうございます」
「その、なんだ。デミウルゴスがこれからどういう行動に出るかわかんないけど、メリルのことは守るから」
「私よりもレベルが低いのに、ですか?」
「そう言われると困るけど、そこはなんとかする」
「イツキさんならなんとかしてしまいそうで怖いです」
「なんとかするさ。だから信じてくれ。これからいろんなことがあると思うけど、俺はお前を裏切らない」
「そんなこと言われたら頷くしかないじゃないですか」
「それでいいんだよ。身体は動かせるか?」
「完治はしていませんが動くことはできます」
「よし、それなら他の三人を起こして朝食だ。ゲーニッツが一時間後に出るって言ってたからな」
「わかりました。私も手伝います」

 俺がメディアとフレイアをメディアを、メリルが双葉を起こした。

 が、速攻で部屋から追い出されてしまった。それもまた仕方がない。

 部屋に戻って荷物をまとめていると、女性陣の部屋から足音が聞こえた。そして階下へと消えていった。

 話し声も聞こえていたので、あの四人なら上手くやれるだろう。

 ちょうど一時間後に宿を出ると、ゲーニッツとグランツが待っていた。なんで荷物を全部俺に任せるのか。

「さていくか。早ければ一時間程度で抜けられる森だ、気を引き締めろよ」

 ゲーニッツの言葉に全員が頷いた。フレイアもメリルも本調子ではないので、そこは俺たちがカバーしなきゃいけないだろう。

「あの……」

 全員が歩き出そうかという時にメリルが言った。

「なんだ、どうかしたのか」

 メリルの前にゲーニッツが立つ。ゲーニッツの身長が高く、メリルが低いので威圧しているようにも見える。

「私はついていっても大丈夫なのでしょうか」
「あ? ついてきたきゃついてくればいいんじゃねーか? 背中から撃たれるようなことがあれば別だけどよ」
「そんなことはしません。デミウルゴスにはもう見限られたと思うので」
「じゃあいいだろ。これからどうするかなんてのは歩きながら考えりゃいい。んじゃ行くぞ」

 興味をなくした、と言わんばかりにゲーニッツが背中を向けた。そしてのっしのっしと歩き出した。

「気にすんなよ。行こうぜ」

 メリルの肩を叩くと「ありがとうございます」と、彼女らしい答えが帰ってきた。

 目指すはテルバ。都市というくらいだから大きいんだろう。いろんな物もありそうだし今から楽しみだ。

 病人と怪我人がいる、ということで森の入口までは馬車を使った。これがまたとんでもないじゃじゃ馬で、速度は早いがガタンゴトンと何度も揺れた。若干酔った、のは俺だけじゃないらしい。

「大丈夫か双葉……」
「お、お兄ちゃんこそ……」

 そう、現代っ子二人が完全に戦力外であった。

「ほら行くぞ」
「鬼かよ……」

 ゲーニッツが歩けば、グランツとメディアがついていった。メリルが心配そうに背中を擦ってくれていた。フレイアは俺に背を向け、双葉の背中を擦っていた。

「くそ、行くか」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないけど行くしかないだろ?」
「はい、これ」
「なにこれ」

 差し出されたのは黒くて小さな豆のようなもの。

「酔い止めです。噛んで飲み込んでください」

 同時に金属製の水筒を渡された。噛んで飲むなら水なんていらないだろう。

 それが間違いだった。

 噛んだ瞬間に広がる苦味は今まで感じたことがないほど強烈だった。俺はブラックコーヒーを苦いと感じる人種だが、コーヒーなど目にならないほどの苦さ。そしてなにより不味い。苦味の奥から青臭さと腐臭、下の上では苦味だけじゃなくしょっぱさとほのかな甘味が転がっていた。

「――!」
「水! 水飲んでください!」

 メリルに言われて急いで飲み込んだ。

 もう二度と飲みたくないと思う味だった。が、気がつけば吐き気はどこかにいっていた。

「クソ不味いけど、即効性バツグンだな」
「でしょ?」

 メリルが微笑む。笑ってる方がやっぱり可愛い。

「双葉には?」
「フレイアさんに渡しておいたのでもう飲んだと思いますよ。ほら」

 双葉の方を見れば目を白黒させていた。兄妹そろってなにしてんだよ、と心の中で突っ込まざるをえなかった。

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