それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈actuality point4-Second Name〉 二話
メリルと正面から戦って勝てるわけがない。そんなのは俺が一番わかっている。一緒に戦った経験があるからこそ、俺はメリルには勝てないんだ。
だが、真っ向勝負だけがすべてじゃない。俺ができることはすべてやらなきゃ、未来はどうやっても変えられない。
「待てよボウズ」
その声に、もう一度振り向いた。
「こうなったら仕方ねえ」
ガシガシと頭を掻き、そっぽ向きながらゲーニッツがため息をついた。
「見届けてやるよ、お前がそのメリルってやつを説得するところ」
「いやでも、それだと時間が……」
「人質に取られる人間がいなければ負ける要素はなさそうだし、いいんじゃないかしら」
メディアまでこんなことを言ってる。グランツはすでに空気だ。
こんなふうに言われたら、俺の方が引くに引けないじゃないか。
「わかった。影から見ていてくれ」
「ヤバそうな時はお前を掻っ攫ってそのまま町を出る。説得に失敗しても二度目はねーからな」
「そうしてもらえるとこの上なくありがたい。んじゃ、行ってくる」
こうして、俺はメリルがいる宿に向かった。
歩きながらライセンスでメッセージを送った。
〈イツキ:今から会いたいんだけど、今どこにいる?〉
〈メリル:宿にいますよ。イツキさんがいた宿からそこまで離れていません。右に直進して、二つ目の角を右、その通りには他に宿がないのですぐわかるかと思います〉
〈イツキ:わかったすぐに行く〉
それっきり返信はなかった。おそらく、メリルも俺の行動の意図がわかっている。だから返信がないんだ。
宿の前にやってくると、そこにはメリルが立っていた。
「どうしたんですかイツキさん。こんな時間に」
と、笑顔で出迎えてくれた。この笑顔にはどういう意味が込められているのだろう。
「悪い、女の子が出歩くような時間じゃないな。でも、思った以上に返信が早かった。起きてたんだろ?」
「ええ、まあ」
「たぶんお前は、俺がここに来た理由に心当たりがあるはずだ」
彼女の顔から笑顔が剥がれ落ちていく。そう、これは仮面なんだ。
「全部、気がついていたんですね」
「最初はわからなかったよ。でも、なんていうか、偶然な。それで、お前はどうする? 俺を連れて帰るか?」
「それが命令ですから」
チャキッと、一瞬で銃口が向けられた。この状況も想定内だ。
「俺が生きてれば、多少怪我してても問題ないか?」
「そうです。足と腕を撃ち抜いて、動けなくしてから連れて帰ります」
「本当はそんなことしたくないんだろ?」
「アナタを連れて帰るのが私の任務です。そこに私情を挟むべきではありません」
「そこの私情の部分を教えてくれって言ってるんだ」
「……言ったところで、なにが起きるというんですか」
メリルの顔が険しくなった。怒っているような、悲しんでいるような、複雑そうな顔をしていた。
「出会ってからの時間は短いけど、メリルはデミウルゴスでの役目に負い目を感じてるんじゃないか?」
「アナタになにがわかると言うのですか?」
「わからん。わからんけど、そう思ったんだ」
「時間の無駄ですね。私はデミウルゴスに拾われ、その一員となった。私の居場所はここで、それ以外にはありません」
「じゃあ新しい居場所を提供できればデミウルゴスを抜けてくれるのか?」
「そういう問題では――」
「そういう問題だ。来るのか、来ないのか」
メリルは顔を伏せ、次に顔を上げた時には明確にわかるほど悲しい顔をしていた。
「私が清廉潔白だとでも思っているんですか? 両親に捨てられ、身体を売ることでしか生計を立てられず、町が滅んで行き場を失くした私。そんな生き方しかできなかったのですよ。アナタは私の表面しか見ていない。だから救おうなどと思うのです。私は、心も体も汚れてるんですよ」
言いたくなかったと、そう訴えているようにも見える。こんなことを言わせてしまった俺にも間違いなく非はある。でも今は、それでも今は彼女を救いたい。
「それがどうした。それでもお前は人殺しとかしたくないんだろ? 人さらいなんてしたくないんじゃないのか?」
「だとしても、私の居場所はここにしかないと言うんですよ!」
「大丈夫だ」
「……え?」
「怖がるなよ。俺が居場所を作るよ。だからさ、血がにじむほど唇を噛んで、デミウルゴスの手伝いなんてしなくていい」
手を差し出して、微笑んだ。
「そんなことされたら、どうしたらいいかわからないじゃないですか……」
間違いない。彼女は優しい女の子なんだ。
どれだけ人を殺そうとも、どれだけ悪いことをしようとも、彼女の本質は変わらなかった。それならば、それに相応しい場所があるはずなんだ。
「おいメリル、どれだけ時間をかけるつもりだ」
建物の影から小太りの男が出てきた。月明かりの下ではあるが、軍服のような格好をしている。灰色の軍服、胸には赤い紋章。あれがおそらくデミウルゴスの紋章なのか。二頭の龍がお互いの尻尾を食い合ってるような紋章だ。
「申し訳ありません、今すぐに」
メリルが銃を構え直した。アイツが彼女の上官ってわけか。
「そうそう、それでいいんだよ。孤児だったお前を拾ったのは、この私なんだから」
ヒゲをちびちびと触りながら男が言った。
孤児だったメリルを拾った。だが、なにかおかしくはないか。デミウルゴスという組織は、俺が出会ったヤツらはそんなことをするようなヤツらには見えない。
「なあメリル、お前の同僚はみんな孤児だったんじゃないか?」
「なぜそれを知っているのですか?」
「それってさ、デミウルゴスが自分たちで孤児を生み出したとは考えられないか? 孤児がたくさんいる町を盗賊かなんかに襲わせて、行き場を失くした孤児を自分たちで引き取る。そして、自分たちの駒として育てていく」
「そんなことは、ないと、思います」
「確信はないんだろ? なんで確信がないんだ?」
「それは……」
「俺が代わりに言ってやろうか。今まで任務をこなしてきて、いろんな不満や疑念が積もり積もってるんじゃないのか? 心の中で、これはおかしいって思ってるんじゃないのか」
「そんな、ことは……」
「そうじゃなかったら躊躇なんてしねーだろ」
「なにをしてるんだメリル! そいつの脚を撃ち抜け!」
そう言われ、メリルは下唇を強く噛んだ。
だが、真っ向勝負だけがすべてじゃない。俺ができることはすべてやらなきゃ、未来はどうやっても変えられない。
「待てよボウズ」
その声に、もう一度振り向いた。
「こうなったら仕方ねえ」
ガシガシと頭を掻き、そっぽ向きながらゲーニッツがため息をついた。
「見届けてやるよ、お前がそのメリルってやつを説得するところ」
「いやでも、それだと時間が……」
「人質に取られる人間がいなければ負ける要素はなさそうだし、いいんじゃないかしら」
メディアまでこんなことを言ってる。グランツはすでに空気だ。
こんなふうに言われたら、俺の方が引くに引けないじゃないか。
「わかった。影から見ていてくれ」
「ヤバそうな時はお前を掻っ攫ってそのまま町を出る。説得に失敗しても二度目はねーからな」
「そうしてもらえるとこの上なくありがたい。んじゃ、行ってくる」
こうして、俺はメリルがいる宿に向かった。
歩きながらライセンスでメッセージを送った。
〈イツキ:今から会いたいんだけど、今どこにいる?〉
〈メリル:宿にいますよ。イツキさんがいた宿からそこまで離れていません。右に直進して、二つ目の角を右、その通りには他に宿がないのですぐわかるかと思います〉
〈イツキ:わかったすぐに行く〉
それっきり返信はなかった。おそらく、メリルも俺の行動の意図がわかっている。だから返信がないんだ。
宿の前にやってくると、そこにはメリルが立っていた。
「どうしたんですかイツキさん。こんな時間に」
と、笑顔で出迎えてくれた。この笑顔にはどういう意味が込められているのだろう。
「悪い、女の子が出歩くような時間じゃないな。でも、思った以上に返信が早かった。起きてたんだろ?」
「ええ、まあ」
「たぶんお前は、俺がここに来た理由に心当たりがあるはずだ」
彼女の顔から笑顔が剥がれ落ちていく。そう、これは仮面なんだ。
「全部、気がついていたんですね」
「最初はわからなかったよ。でも、なんていうか、偶然な。それで、お前はどうする? 俺を連れて帰るか?」
「それが命令ですから」
チャキッと、一瞬で銃口が向けられた。この状況も想定内だ。
「俺が生きてれば、多少怪我してても問題ないか?」
「そうです。足と腕を撃ち抜いて、動けなくしてから連れて帰ります」
「本当はそんなことしたくないんだろ?」
「アナタを連れて帰るのが私の任務です。そこに私情を挟むべきではありません」
「そこの私情の部分を教えてくれって言ってるんだ」
「……言ったところで、なにが起きるというんですか」
メリルの顔が険しくなった。怒っているような、悲しんでいるような、複雑そうな顔をしていた。
「出会ってからの時間は短いけど、メリルはデミウルゴスでの役目に負い目を感じてるんじゃないか?」
「アナタになにがわかると言うのですか?」
「わからん。わからんけど、そう思ったんだ」
「時間の無駄ですね。私はデミウルゴスに拾われ、その一員となった。私の居場所はここで、それ以外にはありません」
「じゃあ新しい居場所を提供できればデミウルゴスを抜けてくれるのか?」
「そういう問題では――」
「そういう問題だ。来るのか、来ないのか」
メリルは顔を伏せ、次に顔を上げた時には明確にわかるほど悲しい顔をしていた。
「私が清廉潔白だとでも思っているんですか? 両親に捨てられ、身体を売ることでしか生計を立てられず、町が滅んで行き場を失くした私。そんな生き方しかできなかったのですよ。アナタは私の表面しか見ていない。だから救おうなどと思うのです。私は、心も体も汚れてるんですよ」
言いたくなかったと、そう訴えているようにも見える。こんなことを言わせてしまった俺にも間違いなく非はある。でも今は、それでも今は彼女を救いたい。
「それがどうした。それでもお前は人殺しとかしたくないんだろ? 人さらいなんてしたくないんじゃないのか?」
「だとしても、私の居場所はここにしかないと言うんですよ!」
「大丈夫だ」
「……え?」
「怖がるなよ。俺が居場所を作るよ。だからさ、血がにじむほど唇を噛んで、デミウルゴスの手伝いなんてしなくていい」
手を差し出して、微笑んだ。
「そんなことされたら、どうしたらいいかわからないじゃないですか……」
間違いない。彼女は優しい女の子なんだ。
どれだけ人を殺そうとも、どれだけ悪いことをしようとも、彼女の本質は変わらなかった。それならば、それに相応しい場所があるはずなんだ。
「おいメリル、どれだけ時間をかけるつもりだ」
建物の影から小太りの男が出てきた。月明かりの下ではあるが、軍服のような格好をしている。灰色の軍服、胸には赤い紋章。あれがおそらくデミウルゴスの紋章なのか。二頭の龍がお互いの尻尾を食い合ってるような紋章だ。
「申し訳ありません、今すぐに」
メリルが銃を構え直した。アイツが彼女の上官ってわけか。
「そうそう、それでいいんだよ。孤児だったお前を拾ったのは、この私なんだから」
ヒゲをちびちびと触りながら男が言った。
孤児だったメリルを拾った。だが、なにかおかしくはないか。デミウルゴスという組織は、俺が出会ったヤツらはそんなことをするようなヤツらには見えない。
「なあメリル、お前の同僚はみんな孤児だったんじゃないか?」
「なぜそれを知っているのですか?」
「それってさ、デミウルゴスが自分たちで孤児を生み出したとは考えられないか? 孤児がたくさんいる町を盗賊かなんかに襲わせて、行き場を失くした孤児を自分たちで引き取る。そして、自分たちの駒として育てていく」
「そんなことは、ないと、思います」
「確信はないんだろ? なんで確信がないんだ?」
「それは……」
「俺が代わりに言ってやろうか。今まで任務をこなしてきて、いろんな不満や疑念が積もり積もってるんじゃないのか? 心の中で、これはおかしいって思ってるんじゃないのか」
「そんな、ことは……」
「そうじゃなかったら躊躇なんてしねーだろ」
「なにをしてるんだメリル! そいつの脚を撃ち抜け!」
そう言われ、メリルは下唇を強く噛んだ。
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