それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈actuality point4-Second Name〉 一話
「あっ……ああ……くそっ……」
額に手を当てうつむいた。滴るほどの汗が手にべっとりとついたが、それすらも気にならないほどに憔悴していた。
優帆を助けられなかった。このままいけば優帆はまた危険にさらされる。なんとしても彼女だけは助けなければ、どうにかして彼女を逃さなくては。そう考えれば考えるほどに、時間が足りないことを思い知らされる。
今は今、過去は過去、そして未来は未来だと割り切らないとやっていけない。わかっていても、自分の中で処理できない。
「今度の敵はメリルか、どうする、どうしたらいい」
ダメだ。考えるな。行動しろ。
握りこぶしを軽く作って、額をトントンと叩く。
急いでベッドから降りて支度を済ませる。時刻を確認。メディアが来るまでは一時間以上ある。一時間あれば対処はできるはずだ。
メディアが来ていないということは、ゲーニッツとフレイアと双葉もまだ宿にいるはず。だが部屋にはグランツもゲーニッツもいない。二人共夜回りでもしてるんだろう。
大丈夫だ、大丈夫だと自分に言い聞かせて部屋を出た。
女性部屋をノックすると、中からメディアが出てきた。
「どうしたの、こんな時間に」
「時間がないんだ。すぐに支度してくれ」
「よくわからないのだけれど、説明してくれるのよね?」
「あとでちゃんと説明する」
メディアの向こうでは双葉とフレイアが寝ていた。少しだけ、肩の荷が降りた気がする。
「フレイアはまだ本調子じゃない。こんな体調で外に出すわけにはいかないわ」
「俺の未来予知を信頼してくれ。頼む。近くまでデミウルゴスが来てるんだ。今すぐ出ないとマズイことになる」
「マズイことって?」
「全員死ぬ。グランツもゲーニッツも、双葉とフレイアを人質に取られて、そのまま殺される」
メディアの瞳を見ると、月明かりの中でも懐疑の光が見てとれた。
「ふう……アナタの未来予知には一度救われているし、信じるのが一番みたいね。敵の数をこちらの戦力では押せないの?」
「フレイアも双葉もいるし、それは無理だと思う。敵の数も多い」
「わかった、言うとおりにするわ。すぐ二人を起こすわ」
「ありがとう。俺はグランツとゲーニッツの荷物をまとめておく」
「宿の入口で合流しましょう」
「わかった」
急いで部屋に戻って三人分の荷物を肩にかけた。二人共、綺麗に荷物をまとめておくなんて律儀じゃないか。
宿の外に出ると、寝ぼけ眼の双葉と、ぐったりとしたフレイアがいた。フレイアはメディアに身体を支えられていた。
「大丈夫、だから……」
そういって、ふらふらしながらメディアから身体を離すフレイア。心配ではあるが、今は一人で動いてもらうしかない。
「グランツとゲーニッツは?」
「連絡した。しばらくしたら来るわ」
待っているほどの時間はないのだが、と思った矢先に二人揃って現れた。タイミングがいいのはいいことだ。
「双子を助けた件があるし、俺はボウズを信じていいと思う。このまま逃げるが、いいか?」
ゲーニッツが言うと全員が頷いた。正確には一人を残して、全員が頷いた。
「お前が言い出したことなのに、なんでお前が納得してねーんだよ」
そう、頷かなかったのは俺一人。
「やり残したことがある」
「言ってみろ」
「メリルを、救いたい」
「メリル? 誰だそりゃ」
「昨日一緒にティアマトの血液を取りに行った冒険者だ」
「助けたいなら助けりゃいいじゃねーか。デミウルゴスに人質にでも取られるのか?」
「メリルがデミウルゴスの人間なんだ」
「それを救うって? 意味がわかんねーぞ。お前の未来ではデミウルゴスの手で俺たちが殺されるんじゃねーのかよ」
「そうだ。でも、彼女は自分の意思で俺たちを殺すわけじゃない。上から命令されてやってるだけだ」
「命令だろうがなんだろうが敵であることには変わりねーんだよ。殺すか逃げるか、その二択だ」
「いや、彼女はすぐに殺せたはずの俺を殺さなかった。なんだか暗くて、あれが彼女の本心だとも思えない」
「お人好しもいい加減にしろよ。こっちは命がかかってんだ。行くなら一人で行くんだな」
「もとよりそのつもりだ。みんなはこのまま町の外に逃げてくれ。デミウルゴスの兵士たちとメリルが合流する前にケリをつける」
ゲーニッツが額に手を当て「マジかよ」と言った。強く言えば俺が引くとも思ったのだろう。
俺がゲーニッツたちの力を頼っているのは、最初に会った時も、それは今だって変わらない。でもこれだけは付き合わせるわけにはいかないんだ。
「ワガママを言っている場合じゃないでしょう? アナタも一緒に逃げるのよ」
諭すように言うメディア。しかし、俺はそれに従うことはできない。
メリルとは出会って間もない。俺が彼女のなにを知っているかと言われると反論できない。それでも彼女を救いたいと思うし、彼女の気持ちと行動が一致していないのは事実だ。
俺と一緒にティアマトの血液を取りに行ったのだ。まったく疑われてない状況で最後まで付き合ってくれたのだ。山で俺たちを殺すことだってできたはずだ。メディアだってフレイアの看病で忙殺されていた。後ろから殺すことだってできた。誰かを人質に取れば、前回のようにゲーニッツだっておとなしくなる。
でも、彼女はそれをしなかった。
それが、なにかの合図のように感じたのだ。
「お前一人でなんとかなるとでも思ってんかよ。レベルが上ったと言ってもまだまだ半人前じゃねーか」
「だからメリル一人の時に説得するんだ。今回は俺一人で解決する」
「それができるかできねーかわかんねーから話をしてる」
「やると言ったらやるんだ。この件に関しては絶対に引かない。俺が引かないんだから、みんなは生きるために逃げるしかない。さあ行ってくれ」
背を向けて歩き出す。
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