それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 3-Who's Guardian〉 最終話
今まで俺たちがいた場所になにかが刺さっている。地面に深々と、長く太い張りのようなものだった。その針は愛美から伸びている。腹辺りか。指が伸びるとかじゃなく、身体のどこからでもあれを出せるってなると相当面倒くさいな。
「押し問答をしてる時間はないんだ。今ので双葉も気付くだろうし、今すぐ俺の家に戻れ」
「アンタはどうすんの」
「やろうと思えばなんでもできる」
「死んだらどうすんの!」
また針が襲ってくる。優帆を抱きかかえて針を避けていく。
「俺は死なない」
「そんな証拠ないでしょ!」
「頼むから」
肩を掴んで視線を合わせる。優帆の目から涙が溢れた。
「死なないから、頼むから自分のことだけ考えてくれ」
「でも、でも……」
「お前に死なれたら俺が辛いんだよ。さあ行け」
優帆は顔を歪め、涙を流した。
「もう知らない!」
そう言って、俺から遠ざかったいった。
それでいい。お前はお前のことだけ考えていてくれ。
「これで加減をしなくてもよくなったな」
愛美の方を見ると、少しずつだがこちらに歩いてきている。きているのだが、身体がドロドロと解けているようにも見える。
「不完全なのか……?」
それでも針は飛んでくる。が、そのうちに針ではなくなった。鋭利な触手へと変化し、攻撃しては戻り、攻撃しては戻りを繰り返すようになったのだ。
「不完全なら、俺一人でも戦える」
触手は依然攻撃を続けていた。速度が早く、見てから避けるのはなかなか難しい。それでも直線距離でしか出せないようで、きちんと見て対処することは可能だ。
拳を構えたまま一気に懐に飛び込み、アゴに向かって拳を振り上げる。
「龍顎砕!」
クリーンヒット。彼女の身体が上空へと打ち上がる。でもそれを見ているだけでは意味がない。素早く飛び上がり、空中で無防備な彼女に一撃食らわした。
地面に叩きつけられながら、ピクピクと痙攣していた。
「うし、これくらいなら俺でもできる」
気持ちがいいものではない。彼女がこうなった原因を潰せなかった。
彼女の身体がどろりと溶けて、水のようになっていた。
「優帆になんて説明すりゃいいかな」
人間の形を失った彼女に背を向けた。頭を掻きながら歩き出し、ふと思うことがあった。
今まで戦ったヤツらは灰のようになってはいなかったかと。
急いで後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。なにもなかった。
そう、水のようになってしまった愛美はそこに存在しなかった。
ピチャリという音がして右を向く。次の瞬間、身体に衝撃が走った。視線を腹に向けると、なにかが突き刺さっていた。左側からだ。
「クソっ」
急いで飛び退くがもう遅い。球体になったいくつもの「彼女だった物」が後を追ってくる。
一人でなんとかできるだなんて思った俺がバカだった。
球体が俺を囲む。壁や地面に張り付いていた。ここでようやく、スライムのような状態なんだなと気がついた。
遠くの方でフレイアと双葉の姿が見えた。そして二人もまた、あの球体と戦っているようだった。
「一人じゃなかったのかよ」
もうそういうところまで来たって感じだ。
前回は無差別に一般人をモンスターに変化させてた。でもたぶん、今回は違う。計画的に社員を利用したんだ。
でもなんで社員が協力してるんだ。同僚が死んだってことになれば、自分から協力するなんてバカがすることじゃないか。
いや違うのか。協力してるんじゃない。協力させられている、ないし脅されているのか。じゃあなんで脅されているんだ。誰に脅されているんだ。
球体からの触手攻撃を避けつつそんなことを考えた。だが完全に避けることはできなかった。腕にも足にも触手を刺された。背中を刺された痛みも徐々に強くなってきている。
そして触手を避けたあと、膝がガクリと落ちた。
「ヤバっ……」
命取りであると直感した。
いくつもの触手が俺の身体を貫き、引き抜かれた。
力が入らず、アスファルトに身体が打ち付けられてしまう。
「一葵!」
優帆が走ってくるのが見えた。
「逃げろって、言ったのに……」
優帆が俺に駆け寄って、俺の身体を抱き上げた。スライムたちはどうして見逃したのだろう。
「死なないって言ったじゃない!」
「まだ死んでないだろ」
「どうやって助かるのよ……」
「もう、無理じゃねーかな」
「どうして、こんな……」
さめざめと優帆が泣いた。ぽたりぽたりと、俺の顔に雫が落ちる。こんな顔、させたくなかったんだけどな。
どんどんと目の前が霞んでいく。
「ごめんな」
「なにがよ」
「たぶん、お前のことも助けられねーわ」
「私が助かっても、アンタがいなきゃ意味ないじゃない」
「どういう意味だよ」
「言わせないでよ、そんなこと」
「言ってくれなきゃわかんねーんだが……」
彼女が唇を噛み、躊躇うように口を開けた。
「私が――」
だが、その先を言うことはなかった。
優帆の身体が彼女の物だとわからなくなるくらい、スライムの触手で貫かれていた。
身体だけじゃない。顔面もだ。
見慣れてはいるけど、優帆の顔は間違いなく可愛い部類だ。たくさんの笑顔も泣き顔も見てきた。
それを、俺が壊したんだ。
よく見えなくても、彼女が壊れたことはわかっていた。わかっていたから、目頭が熱くなってきた。
「俺のせいだ……」
フレイアと双葉が駆け寄ってくるが、それさえも触手で貫かれてしまった。
最後に彼女たちが俺を抱きかかえた。身体はボロボロなのによく頑張ったもんだ。
でもどうしてだろう。今思えば、俺が死ぬ時は毎回フレイアや双葉と一緒にいる気がする。
じゃあ、どうして触れているんだろう。
そんなことを考えているうちに、俺は黒い泥に覆われていく。目を閉じれば、ドスドスと、身体がなにかに蹂躙されていく感触がやってきた。痛いことを痛いと叫ぶこともできなかった。
またやり直しか。
すでに、そんなことしか考えられなくなっていた。
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「押し問答をしてる時間はないんだ。今ので双葉も気付くだろうし、今すぐ俺の家に戻れ」
「アンタはどうすんの」
「やろうと思えばなんでもできる」
「死んだらどうすんの!」
また針が襲ってくる。優帆を抱きかかえて針を避けていく。
「俺は死なない」
「そんな証拠ないでしょ!」
「頼むから」
肩を掴んで視線を合わせる。優帆の目から涙が溢れた。
「死なないから、頼むから自分のことだけ考えてくれ」
「でも、でも……」
「お前に死なれたら俺が辛いんだよ。さあ行け」
優帆は顔を歪め、涙を流した。
「もう知らない!」
そう言って、俺から遠ざかったいった。
それでいい。お前はお前のことだけ考えていてくれ。
「これで加減をしなくてもよくなったな」
愛美の方を見ると、少しずつだがこちらに歩いてきている。きているのだが、身体がドロドロと解けているようにも見える。
「不完全なのか……?」
それでも針は飛んでくる。が、そのうちに針ではなくなった。鋭利な触手へと変化し、攻撃しては戻り、攻撃しては戻りを繰り返すようになったのだ。
「不完全なら、俺一人でも戦える」
触手は依然攻撃を続けていた。速度が早く、見てから避けるのはなかなか難しい。それでも直線距離でしか出せないようで、きちんと見て対処することは可能だ。
拳を構えたまま一気に懐に飛び込み、アゴに向かって拳を振り上げる。
「龍顎砕!」
クリーンヒット。彼女の身体が上空へと打ち上がる。でもそれを見ているだけでは意味がない。素早く飛び上がり、空中で無防備な彼女に一撃食らわした。
地面に叩きつけられながら、ピクピクと痙攣していた。
「うし、これくらいなら俺でもできる」
気持ちがいいものではない。彼女がこうなった原因を潰せなかった。
彼女の身体がどろりと溶けて、水のようになっていた。
「優帆になんて説明すりゃいいかな」
人間の形を失った彼女に背を向けた。頭を掻きながら歩き出し、ふと思うことがあった。
今まで戦ったヤツらは灰のようになってはいなかったかと。
急いで後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。なにもなかった。
そう、水のようになってしまった愛美はそこに存在しなかった。
ピチャリという音がして右を向く。次の瞬間、身体に衝撃が走った。視線を腹に向けると、なにかが突き刺さっていた。左側からだ。
「クソっ」
急いで飛び退くがもう遅い。球体になったいくつもの「彼女だった物」が後を追ってくる。
一人でなんとかできるだなんて思った俺がバカだった。
球体が俺を囲む。壁や地面に張り付いていた。ここでようやく、スライムのような状態なんだなと気がついた。
遠くの方でフレイアと双葉の姿が見えた。そして二人もまた、あの球体と戦っているようだった。
「一人じゃなかったのかよ」
もうそういうところまで来たって感じだ。
前回は無差別に一般人をモンスターに変化させてた。でもたぶん、今回は違う。計画的に社員を利用したんだ。
でもなんで社員が協力してるんだ。同僚が死んだってことになれば、自分から協力するなんてバカがすることじゃないか。
いや違うのか。協力してるんじゃない。協力させられている、ないし脅されているのか。じゃあなんで脅されているんだ。誰に脅されているんだ。
球体からの触手攻撃を避けつつそんなことを考えた。だが完全に避けることはできなかった。腕にも足にも触手を刺された。背中を刺された痛みも徐々に強くなってきている。
そして触手を避けたあと、膝がガクリと落ちた。
「ヤバっ……」
命取りであると直感した。
いくつもの触手が俺の身体を貫き、引き抜かれた。
力が入らず、アスファルトに身体が打ち付けられてしまう。
「一葵!」
優帆が走ってくるのが見えた。
「逃げろって、言ったのに……」
優帆が俺に駆け寄って、俺の身体を抱き上げた。スライムたちはどうして見逃したのだろう。
「死なないって言ったじゃない!」
「まだ死んでないだろ」
「どうやって助かるのよ……」
「もう、無理じゃねーかな」
「どうして、こんな……」
さめざめと優帆が泣いた。ぽたりぽたりと、俺の顔に雫が落ちる。こんな顔、させたくなかったんだけどな。
どんどんと目の前が霞んでいく。
「ごめんな」
「なにがよ」
「たぶん、お前のことも助けられねーわ」
「私が助かっても、アンタがいなきゃ意味ないじゃない」
「どういう意味だよ」
「言わせないでよ、そんなこと」
「言ってくれなきゃわかんねーんだが……」
彼女が唇を噛み、躊躇うように口を開けた。
「私が――」
だが、その先を言うことはなかった。
優帆の身体が彼女の物だとわからなくなるくらい、スライムの触手で貫かれていた。
身体だけじゃない。顔面もだ。
見慣れてはいるけど、優帆の顔は間違いなく可愛い部類だ。たくさんの笑顔も泣き顔も見てきた。
それを、俺が壊したんだ。
よく見えなくても、彼女が壊れたことはわかっていた。わかっていたから、目頭が熱くなってきた。
「俺のせいだ……」
フレイアと双葉が駆け寄ってくるが、それさえも触手で貫かれてしまった。
最後に彼女たちが俺を抱きかかえた。身体はボロボロなのによく頑張ったもんだ。
でもどうしてだろう。今思えば、俺が死ぬ時は毎回フレイアや双葉と一緒にいる気がする。
じゃあ、どうして触れているんだろう。
そんなことを考えているうちに、俺は黒い泥に覆われていく。目を閉じれば、ドスドスと、身体がなにかに蹂躙されていく感触がやってきた。痛いことを痛いと叫ぶこともできなかった。
またやり直しか。
すでに、そんなことしか考えられなくなっていた。
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