それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 3-Who's Guardian〉 九話
着替えを済ませて部屋を出た。こう、同じ部屋で女の子と一緒に着替えるのもなんとなく慣れてしまった。一々廊下に出るのも面倒になったと言ってもいい。が、フレイアの下着姿には今でもドキドキしている。いつまでも見ていたいくらい色っぽいからな。
階下に降りて双葉とフレイアと朝食をとる。そしてそのまま流れるように家を出た。
フレイアは反対方向に走り去ってしまった。異常なほどにに速く、数秒後には見えなくなってしまった。他人に見られるのだけはやめてくれよ、ホントに。
家を出てすぐ、優帆が家から出てきた。
顔を合わせるのがなんとなく気まずくて、思わず顔を背けてしまった。
「お兄ちゃん」
脇腹を小突かれた。
その意味はわかっている。昨日のことを謝罪して仲直りしろ、ということなんだろう。しかしそれができたら苦労はしない。
いや、仲直りしたいのはやまやまだ。今までのようにちゃんと会話はしたいのだが、胸の中でなにかが引っかかって言葉が出てこない。
双葉が小さくため息をついた。
その直後、背中を押された。
「ちょ、なんだよ」
「先行ってて。私はゆうちゃんと行くから」
小声で言ってから、もう一度俺の背中を押した。
頼りっきりで申し訳ないという気持ちはある。が、ここは双葉に任せるのが一番いい。同性だからというのもあるだろうけれど、優帆の幼なじみの一人というのもあった。
一度優帆を見た。彼女はまだ下を向き、カバンを強く握りしめていた。
双葉を見ると小さく頷いていた。
だから、俺は一人で登校することにした。
一人で歩く通学路は、なんだか少しだけ寂しかった。
考えてみれば、ここ最近は一人でいる時間なんてなかった。だからこそ余計に寂しいのだ。隣には必ずフレイアか双葉か優帆がいた。
「優帆も、いたんだよなぁ……」
考え始めれば罪悪感だけが残ってしまう。
ただ一言、たったの一言だ。それでも優帆が傷ついたのは事実だ。多少面倒くさいな、とは思うけど、こうやってケンカすることも昔は多かった。繊細なのか神経質なだけなのか、まあどっちもなんだろう。
双葉も普通に接してくれてはいるが、ちゃんと説明はしていないので腑に落ちない部分はあるはずだ。それでも一緒にいてくれるのだから、こちらも罪悪感しかない。
フレイアはフレイアで何度も死んでしまっている。こちらもまた俺のせいだ
歩きながら頭を抱えてしまった。こんな姿を通行人に見られたら忌避の目を向けられてしまいそうだ。
そんなことをしているうちに学校に到着してしまった。
「うしっ」
頬をパンパンと叩いて校内へ。どこかで気持ちを切り替えなければいけない。ずっと落ち込んでいてもなにも始まらないのだ。レッツポジティブシンキングだ。
久しぶりに、たっつんとサダと共に短い学校生活を楽しむとしよう。
ホームルームの前には雑談をして、授業と授業の間には雑談して、お昼休みには花札なんかをして青春を謳歌していく。時間を無駄にしているような気がしないでもないが、これはこれで楽しいからおーけーだ。
放課後を迎た頃にスマフォが震えた。双葉からメッセージが入っていた。
『今日の夜、ゆうちゃんを夕食に招待するからちゃんと謝ること。七時まで帰ってこ来ないで』
お兄ちゃん、ちょっとだけ傷ついたぞ。まさか妹に「帰って来ないで」と言われる日が来るとはな。特に文章に残ってしまっているので、双葉からメッセージが来る度に思い出してしまうじゃないか。
「なあつっきー今日暇か?」
靴を履き替えながらたっつんが言う。
「まあ、そこそこ暇だな。七時まで帰って来るなって言われちまったし。しかし俺が暇でもお前は部活があるだろ」
「来週からテストだろ? だから今週は休みなんだよ。うちってサッカーめちゃくちゃ強いわけじゃないからな」
「強くないって言っちゃったよ」
「すごい数の高校があって、結局全国に行かれるのなんて一握りなわけよ。つまりだいたいの高校は全国行く前に落ちるわけさ。うちの学校も同じ」
「無駄に達観してるな」
「かといって頑張ってないわけじゃないぜ? 学校側が休めって言うから休んでるだけ。練習自体は好きだしな」
「お前って割りとコツコツやってくタイプだよな。似合わん」
「言い方が酷い。でもサダだってコツコツタイプだろ」
「ゲームで言うところのスケルトンみたいな言い方やめろ」
ここでようやくサダが突っ込んできた。
「サダだって暇だろ? どうせ帰って筋トレしかやることないんだから」
「お前俺のことバカにしてるだろ」
「え? してるけど?」
あーあ、結構目一杯殴られてやがる。
「で、暇なの? 暇じゃないの?」
「まあ、暇だが」
「んじゃ三人でカラオケな。久しぶりじゃねーの」
チラリと、サダがこちらに視線を送ってきた。
「わかったわかった、行くよ。サダも行くだろ?」
「イツキがそう言うなら行くか」
「はっ、金魚のフンかよ」
あーあー、懲りずにすぐ煽るからまた殴られる。
こういうやりとりも久しぶりだ。なんだか楽しくなってくる。
三人でどうでもいい話をしながら学校を出た。どうでもいい話とは、テレビのバラエティー番組がどうとか、あの先輩が可愛いとか、あの後輩を彼女にしたいとか、最近の音楽がどうとかそんな話だ。
家にいれば異世界だとか現実世界だとか、死ぬとか生きるとかの話が中心になってしまう。なにも考えないで他愛ない会話ができるのが、今はとてつもなく嬉しかった。
カラオケでは二時間の予定で入った。俺が七時までなので時間を合わせてもらったわけだ。
俺は最近の曲はあまり知らないので、小学校とか中学校によく聞いていた曲ばかりになる。コマーシャルとか歌番組で流れている曲は「知っているけど歌えない」という曲ばかりだ。
サダは俺と似たようなものだが、時々洋楽を入れてくる。それがまた上手いのだ。
たっつんは最近の曲ばかり。たっつんにはお姉さんとお兄さんがいる。そのため、自分でCDを借りたり買ったりしなくても兄弟から借りられるのだ。コイツはいつもカラオケのレパートリーで悩むくらい曲を知っている。
ドリンクバーで腹を膨らませると、夕飯が食べられなくて双葉が怒り始めてしまう。サダとたっつんはガブガブと飲んでいるが別に羨ましくはない。
時刻は七時前、カラオケから出て二人と別れた。こんなに普通の時間を送ったのはいつぶりだろう。こっち時間的には一週間も経っていないが、俺はその二倍は生きているわけで、しかもその生きてきた時間が妙に濃密だった。だから時間の感覚がおかしくなっているんだろう。
家路の途中、たくさんの人たちが歩いていた。当然なのだが新鮮に見えた。会社から帰るサラリーマン、学校から帰る学生、客引きの店員、遊び回る若者たち。そんな光景を見ていると、自分が置かれている状況の異質さがより際立っているような気がした。
階下に降りて双葉とフレイアと朝食をとる。そしてそのまま流れるように家を出た。
フレイアは反対方向に走り去ってしまった。異常なほどにに速く、数秒後には見えなくなってしまった。他人に見られるのだけはやめてくれよ、ホントに。
家を出てすぐ、優帆が家から出てきた。
顔を合わせるのがなんとなく気まずくて、思わず顔を背けてしまった。
「お兄ちゃん」
脇腹を小突かれた。
その意味はわかっている。昨日のことを謝罪して仲直りしろ、ということなんだろう。しかしそれができたら苦労はしない。
いや、仲直りしたいのはやまやまだ。今までのようにちゃんと会話はしたいのだが、胸の中でなにかが引っかかって言葉が出てこない。
双葉が小さくため息をついた。
その直後、背中を押された。
「ちょ、なんだよ」
「先行ってて。私はゆうちゃんと行くから」
小声で言ってから、もう一度俺の背中を押した。
頼りっきりで申し訳ないという気持ちはある。が、ここは双葉に任せるのが一番いい。同性だからというのもあるだろうけれど、優帆の幼なじみの一人というのもあった。
一度優帆を見た。彼女はまだ下を向き、カバンを強く握りしめていた。
双葉を見ると小さく頷いていた。
だから、俺は一人で登校することにした。
一人で歩く通学路は、なんだか少しだけ寂しかった。
考えてみれば、ここ最近は一人でいる時間なんてなかった。だからこそ余計に寂しいのだ。隣には必ずフレイアか双葉か優帆がいた。
「優帆も、いたんだよなぁ……」
考え始めれば罪悪感だけが残ってしまう。
ただ一言、たったの一言だ。それでも優帆が傷ついたのは事実だ。多少面倒くさいな、とは思うけど、こうやってケンカすることも昔は多かった。繊細なのか神経質なだけなのか、まあどっちもなんだろう。
双葉も普通に接してくれてはいるが、ちゃんと説明はしていないので腑に落ちない部分はあるはずだ。それでも一緒にいてくれるのだから、こちらも罪悪感しかない。
フレイアはフレイアで何度も死んでしまっている。こちらもまた俺のせいだ
歩きながら頭を抱えてしまった。こんな姿を通行人に見られたら忌避の目を向けられてしまいそうだ。
そんなことをしているうちに学校に到着してしまった。
「うしっ」
頬をパンパンと叩いて校内へ。どこかで気持ちを切り替えなければいけない。ずっと落ち込んでいてもなにも始まらないのだ。レッツポジティブシンキングだ。
久しぶりに、たっつんとサダと共に短い学校生活を楽しむとしよう。
ホームルームの前には雑談をして、授業と授業の間には雑談して、お昼休みには花札なんかをして青春を謳歌していく。時間を無駄にしているような気がしないでもないが、これはこれで楽しいからおーけーだ。
放課後を迎た頃にスマフォが震えた。双葉からメッセージが入っていた。
『今日の夜、ゆうちゃんを夕食に招待するからちゃんと謝ること。七時まで帰ってこ来ないで』
お兄ちゃん、ちょっとだけ傷ついたぞ。まさか妹に「帰って来ないで」と言われる日が来るとはな。特に文章に残ってしまっているので、双葉からメッセージが来る度に思い出してしまうじゃないか。
「なあつっきー今日暇か?」
靴を履き替えながらたっつんが言う。
「まあ、そこそこ暇だな。七時まで帰って来るなって言われちまったし。しかし俺が暇でもお前は部活があるだろ」
「来週からテストだろ? だから今週は休みなんだよ。うちってサッカーめちゃくちゃ強いわけじゃないからな」
「強くないって言っちゃったよ」
「すごい数の高校があって、結局全国に行かれるのなんて一握りなわけよ。つまりだいたいの高校は全国行く前に落ちるわけさ。うちの学校も同じ」
「無駄に達観してるな」
「かといって頑張ってないわけじゃないぜ? 学校側が休めって言うから休んでるだけ。練習自体は好きだしな」
「お前って割りとコツコツやってくタイプだよな。似合わん」
「言い方が酷い。でもサダだってコツコツタイプだろ」
「ゲームで言うところのスケルトンみたいな言い方やめろ」
ここでようやくサダが突っ込んできた。
「サダだって暇だろ? どうせ帰って筋トレしかやることないんだから」
「お前俺のことバカにしてるだろ」
「え? してるけど?」
あーあ、結構目一杯殴られてやがる。
「で、暇なの? 暇じゃないの?」
「まあ、暇だが」
「んじゃ三人でカラオケな。久しぶりじゃねーの」
チラリと、サダがこちらに視線を送ってきた。
「わかったわかった、行くよ。サダも行くだろ?」
「イツキがそう言うなら行くか」
「はっ、金魚のフンかよ」
あーあー、懲りずにすぐ煽るからまた殴られる。
こういうやりとりも久しぶりだ。なんだか楽しくなってくる。
三人でどうでもいい話をしながら学校を出た。どうでもいい話とは、テレビのバラエティー番組がどうとか、あの先輩が可愛いとか、あの後輩を彼女にしたいとか、最近の音楽がどうとかそんな話だ。
家にいれば異世界だとか現実世界だとか、死ぬとか生きるとかの話が中心になってしまう。なにも考えないで他愛ない会話ができるのが、今はとてつもなく嬉しかった。
カラオケでは二時間の予定で入った。俺が七時までなので時間を合わせてもらったわけだ。
俺は最近の曲はあまり知らないので、小学校とか中学校によく聞いていた曲ばかりになる。コマーシャルとか歌番組で流れている曲は「知っているけど歌えない」という曲ばかりだ。
サダは俺と似たようなものだが、時々洋楽を入れてくる。それがまた上手いのだ。
たっつんは最近の曲ばかり。たっつんにはお姉さんとお兄さんがいる。そのため、自分でCDを借りたり買ったりしなくても兄弟から借りられるのだ。コイツはいつもカラオケのレパートリーで悩むくらい曲を知っている。
ドリンクバーで腹を膨らませると、夕飯が食べられなくて双葉が怒り始めてしまう。サダとたっつんはガブガブと飲んでいるが別に羨ましくはない。
時刻は七時前、カラオケから出て二人と別れた。こんなに普通の時間を送ったのはいつぶりだろう。こっち時間的には一週間も経っていないが、俺はその二倍は生きているわけで、しかもその生きてきた時間が妙に濃密だった。だから時間の感覚がおかしくなっているんだろう。
家路の途中、たくさんの人たちが歩いていた。当然なのだが新鮮に見えた。会社から帰るサラリーマン、学校から帰る学生、客引きの店員、遊び回る若者たち。そんな光景を見ていると、自分が置かれている状況の異質さがより際立っているような気がした。
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