それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 3-Who's Guardian〉 八話
テーブルの一辺に一人ずつ座る。そして、テレビを消した。
「さて、これからどうするかって話をしよう」
「どうするもこうするも、どこかで攻守を切り替えていかないと立ち行かないわ。いつまでもこうしてるわけにもいかないでしょ?」
「そりゃわかってるが、こっちの世界はあっちの世界とは違うんだよ。強硬策に出たら捕まる」
「でもこの世界には魔法はない。つまり、魔法に対しての対抗策はないのよ。武器を使わない遠距離攻撃、透明化による侵入、策はいくらでもあるわ」
「それ、お前できんの?」
「一応できる」
「体温とかも隠せる?」
「体温……?」
「温度を感知する機械とかあんのよ、この世界には。だから視覚的に透明になっただけだと割りと意味がない」
「そ、そうなの……」
顎に指を当てて下を向いてしまった。ブツブツと何かをいいながら自分の世界に入ってしまったらしい。
「だが、攻めないとマズイのは事実だな。かと言って双葉を危険に晒すのはなんとも……」
「もう巻き込まれてるからね?」
「それもそうだったわ」
ここで、脳裏に優帆の顔がチラついた。
なんでだよ、と思いつつもそれを振り払う。
「周囲に危険が及ぶのも困りもんだよな。学校に現れたりなんかしたら目も当てられん」
「それは私も思ってるよ。特に、隣に住んでるゆうちゃんとかは被害を受けやすいかも」
「優帆だけじゃない。この辺一帯の住人に被害が出る。いや、もう出てるんだよな。戻っ――」
おっと、これ以上はさすがにヤバイな。
「とにかく、今は守ることしかできない。確信に至る証拠かなにかがないと」
証拠……そういえばミカド製薬の社員証とかがあったな。
「ちょっと待っててくれ」
リビングを出て自分の部屋へ。引き出しの二段目を開け、ビニール袋をひっつかんでまた戻った。
「お兄ちゃん、なにそれ?」
「前倒したやつが持ってた物だ。財布、社員証、タバコにライター、そして黒いケースと使い終わった注射器だ。この注射器が人間を化物に変えるらしい。そして、倒したやつが持ってた社員証にはちゃんと名前も書いてある」
「株式会社ミカド製薬試験課係長・宮川清志……。これを使って、なにかするつもりなの?」
「ミカド製薬に発破をかける。コイツの名前を出して内部に侵入するんだ。コイツは化物になって死んだ。名前を出せば絶対に中に入れる。なによりも、俺たちは顔がバレてるっぽいからな」
「でも――」
「それはダメ」
ピシャリと、フレイアが言い放つ。
「な、なんでだよ」
「賢明とは言えないから。攻めに転じるにはまず情報収集。それが一番よ。明日、二人は普通に学校に行って。その間になんとか私が情報を集めるから」
「なんとかって、どうやって……?」
「ミカド製薬を監視する。妙な人が出てきたら後を追うわ」
「それじゃあお前ばっかりが危険じゃねーか。そんなことさせられるかよ」
「するしかないんだってば。顔もバレてる、住所もバレてる。きっと明日も動きがあるに違いないわ。完全に動く前に、こちらが先手を取る」
「しかしだな……」
「心配しないで。私は平気よ」
フレイアが明るく笑った。
この笑顔には何度も助けられてきた。彼女のためならばなんでもできるかもしれないと、そうとさえ思わせてくれる笑顔だ。
だから、怖いのだ。彼女が無茶をすることを、俺が認めてしまうことになるからだ。
「わかった」
信じるしかない。
俺と双葉は極力普通に振る舞わなければいけないのだ。今この状況で動けるのはフレイアしかいない。異分子、異物、非日常の住人。俺たちとは違う存在は、彼女しかいないのだ。
「おう、任せてよ」
また一層元気に笑うものだから、胸の中に罪悪感が積もっていく。いつか降り積もって高くなったら、俺は一体どうなってしまうのだろう。
「じゃあ明日の予定は決まったな。なにがあるかわからないし、今日は早めに寝るとするか」
なにかがあれば優帆を守ってやらなきゃいけない。俺だって別に強いわけじゃないが、それでも一般人よりもずっと強い。それなら、強いやつが守ってやるしかないんだ。
こうして、死ぬはずだった一日をまた超えた。
自室に戻って布団に潜る。
ここでふと、疑問が襲いかかってきた。
俺はどこまで超えればいいのか、と。死んで、戻って、やり直して。それを何度繰り返せば平常に戻れるのか。そもそも平常に戻ることができるのか。平常に戻ったらフレイアはどうなる。双葉はどうなる。妙な力を身に着けて、一般人とは違う生き方しかできないんじゃないかって不安になった。
やめよう。
布団を被って目をつぶった。
すると、背中側から抱きしめられた。この柔らかな感触、まあ、フレイアしかいないだろうな。
でも俺はなにも言わない。たぶんフレイアも期待していない。
暗闇の中で思う。明日、フレイアに何事もないように、と。
「さて、これからどうするかって話をしよう」
「どうするもこうするも、どこかで攻守を切り替えていかないと立ち行かないわ。いつまでもこうしてるわけにもいかないでしょ?」
「そりゃわかってるが、こっちの世界はあっちの世界とは違うんだよ。強硬策に出たら捕まる」
「でもこの世界には魔法はない。つまり、魔法に対しての対抗策はないのよ。武器を使わない遠距離攻撃、透明化による侵入、策はいくらでもあるわ」
「それ、お前できんの?」
「一応できる」
「体温とかも隠せる?」
「体温……?」
「温度を感知する機械とかあんのよ、この世界には。だから視覚的に透明になっただけだと割りと意味がない」
「そ、そうなの……」
顎に指を当てて下を向いてしまった。ブツブツと何かをいいながら自分の世界に入ってしまったらしい。
「だが、攻めないとマズイのは事実だな。かと言って双葉を危険に晒すのはなんとも……」
「もう巻き込まれてるからね?」
「それもそうだったわ」
ここで、脳裏に優帆の顔がチラついた。
なんでだよ、と思いつつもそれを振り払う。
「周囲に危険が及ぶのも困りもんだよな。学校に現れたりなんかしたら目も当てられん」
「それは私も思ってるよ。特に、隣に住んでるゆうちゃんとかは被害を受けやすいかも」
「優帆だけじゃない。この辺一帯の住人に被害が出る。いや、もう出てるんだよな。戻っ――」
おっと、これ以上はさすがにヤバイな。
「とにかく、今は守ることしかできない。確信に至る証拠かなにかがないと」
証拠……そういえばミカド製薬の社員証とかがあったな。
「ちょっと待っててくれ」
リビングを出て自分の部屋へ。引き出しの二段目を開け、ビニール袋をひっつかんでまた戻った。
「お兄ちゃん、なにそれ?」
「前倒したやつが持ってた物だ。財布、社員証、タバコにライター、そして黒いケースと使い終わった注射器だ。この注射器が人間を化物に変えるらしい。そして、倒したやつが持ってた社員証にはちゃんと名前も書いてある」
「株式会社ミカド製薬試験課係長・宮川清志……。これを使って、なにかするつもりなの?」
「ミカド製薬に発破をかける。コイツの名前を出して内部に侵入するんだ。コイツは化物になって死んだ。名前を出せば絶対に中に入れる。なによりも、俺たちは顔がバレてるっぽいからな」
「でも――」
「それはダメ」
ピシャリと、フレイアが言い放つ。
「な、なんでだよ」
「賢明とは言えないから。攻めに転じるにはまず情報収集。それが一番よ。明日、二人は普通に学校に行って。その間になんとか私が情報を集めるから」
「なんとかって、どうやって……?」
「ミカド製薬を監視する。妙な人が出てきたら後を追うわ」
「それじゃあお前ばっかりが危険じゃねーか。そんなことさせられるかよ」
「するしかないんだってば。顔もバレてる、住所もバレてる。きっと明日も動きがあるに違いないわ。完全に動く前に、こちらが先手を取る」
「しかしだな……」
「心配しないで。私は平気よ」
フレイアが明るく笑った。
この笑顔には何度も助けられてきた。彼女のためならばなんでもできるかもしれないと、そうとさえ思わせてくれる笑顔だ。
だから、怖いのだ。彼女が無茶をすることを、俺が認めてしまうことになるからだ。
「わかった」
信じるしかない。
俺と双葉は極力普通に振る舞わなければいけないのだ。今この状況で動けるのはフレイアしかいない。異分子、異物、非日常の住人。俺たちとは違う存在は、彼女しかいないのだ。
「おう、任せてよ」
また一層元気に笑うものだから、胸の中に罪悪感が積もっていく。いつか降り積もって高くなったら、俺は一体どうなってしまうのだろう。
「じゃあ明日の予定は決まったな。なにがあるかわからないし、今日は早めに寝るとするか」
なにかがあれば優帆を守ってやらなきゃいけない。俺だって別に強いわけじゃないが、それでも一般人よりもずっと強い。それなら、強いやつが守ってやるしかないんだ。
こうして、死ぬはずだった一日をまた超えた。
自室に戻って布団に潜る。
ここでふと、疑問が襲いかかってきた。
俺はどこまで超えればいいのか、と。死んで、戻って、やり直して。それを何度繰り返せば平常に戻れるのか。そもそも平常に戻ることができるのか。平常に戻ったらフレイアはどうなる。双葉はどうなる。妙な力を身に着けて、一般人とは違う生き方しかできないんじゃないかって不安になった。
やめよう。
布団を被って目をつぶった。
すると、背中側から抱きしめられた。この柔らかな感触、まあ、フレイアしかいないだろうな。
でも俺はなにも言わない。たぶんフレイアも期待していない。
暗闇の中で思う。明日、フレイアに何事もないように、と。
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