それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈expiry point 3-Who's Guardian〉 二話

 家を出て歩き出す。「勘弁してよ」と言いながらも、優帆はちゃんと俺の隣を歩いていた。いつもこんな感じなのだが、ツンデレも行き過ぎるとウザいというかなんというか。

「そういえば、朝なんかバタバタしてたけどなんかあったの?」

 ドキっとした。起きていたのかという気持ちと、フレイアを目撃されたかもしれないという不安がやってくる。

「いやー、ほら、双葉がいきなり用事があるって言うもんだからさ、いろいろ忙しかったんだよね」
「ふーん、そうなんだ」

 優帆は手を後ろで組み、ちょっと不服そうな顔のまま歩いていた。

 こうやってコイツと二人で歩くというのはかなり久しぶりだ。登校は今まで双葉がいたし、そもそも優帆と登校するということが今まであまりなかった。

 それも、コイツが俺と遊ぶ機会が減ったからだ。昔はこう、もっと普通に幼なじみしてたはずなんだ。それも優帆のメンタルが弱かったせいといえばそうなんだが。

「なあ優帆」
「なによ」

 ギロッと、なぜか睨まれてしまった。

「なんで俺は睨まれてるわけ?」
「話しかけてくるからでしょ」
「話しかけちゃダメなの? 幼なじみなのに?」
「勝手に幼なじみにしないでもらえる?」
「どうやってもその事実からは逃げられないからね? あ、そうだわかった。じゃあこれから俺とお前は他人な。よしそれでいこう。じゃあね、葦原さん」

 と、歩調を上げて優帆を追い抜いた。

「ちょ、ちょっとなによそれ! 葦原さんなんて、アンタ一度も呼んだことないでしょうが!」

 そうするとすぐに優帆が追いついてくる。

「いやでもボク幼なじみとかじゃないんで」

 また追い抜く。

「それは言葉の綾ってヤツだから! 本気で言ったわけじゃないから!」

 そしてまた追いついてくる。

「言葉の綾で人の心を傷つけていいと思ってるんですね葦原さんは。すごい人です。ボクとは違う世界に生きてる人みたいだ。ということで失礼します」

 なんて言いながら歩幅を大きくした。

 優帆は「うー!」と唸りながらついてきた。

「もう! ごめんってば!」

 彼女が俺の手を握ってきた。

「え、怖いんですけど……」

 立ち止まって振り向くと、優帆は少しだけ涙ぐんでいた。

「ホント、ごめんって」

 唇を横にキツく結い、必死に涙をこらえているのがよくわかる。

 昔もこんなことがあった気がする。というか、基本的にコイツはこうやって泣く。泣くこと、涙を流すことが悔しいのだろう。

「あー……悪かった。悪かったから泣くなって」
「な、泣いてないもん」
「いいからそういうのは」

 ポケットからハンカチを取り出し、手を伸ばして涙を拭った。

「やめてよ」
「自分で拭わないからだろ」
「だって、泣いてないんだもん。なんのことかわかんない」
「お前は何年経っても面倒くせーな」
「うるさい! アンタが悪いんじゃない」
「はいはい、そーっすね。ほら行くぞ」

 涙を拭き終わり、優帆の手を取った。ちょっと強引に手を引いて歩きだす。でも優帆はその手を振りほどこうとはせずに大人しく歩き始めた。

 後ろを見れば、目と頬を赤くした優帆がそっぽ向いていた。

「素直じゃねーなー」
「仕方ないじゃない……」
「お前らしいと言えばお前らしいけどな」
「だって、どうしたらいいかわかんないんだもん」
「普通にしてたらいいと思うんだけどね、俺は」
「これが普通だからわからないの」
「言われてみりゃそうか。なら、そのままでいいんじゃない?」
「いいの? いろいろ文句言ってたのに」
「いやだって無理なんでしょ? じゃあ結局そのままじゃん」
「やっぱりイヤなんじゃない」
「別にイヤじゃない。ん? ちょっと話がおかしな方向にいってるような気がするんだけど、俺がその良し悪しを決めていい問題なのか?」

 すると、彼女は皿に顔を赤くしてしまった。

 腕を振りほどき「うるさいー!」と言いながら走り出す。

「お、おい優帆! コンビニ! コンビニこっちだから! 反対側に走らないで!」

 なんかよくわからないが俺と優帆の関係は今日も平和らしい。

 しかし、優帆の性格の良し悪しについて、なんで優帆が俺に答えを求めて来るのだろう。自分がしたいようにして、なりたいようになればいいのに。

 そう思いながら彼女を追い駆けた。無駄に運動神経がいい優帆を追い駆けるのは、実は俺にとっては非常に辛い。ということはきっと彼女は知らないんだろうな。

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