それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 3-Kindness Piece〉 最終話

 俺たちを囲うように、前後左右にデミウルゴスの兵士が現れた。全員ライフルみたいな銃を持っている。当然のように、銃口はこちらに向けられていた。

「この状況で、仲間を危険に晒すような人だとも思えないので」
「やってくれるじゃねーの」

 つまり全員が人質ってことか。フレイアはいつ回復するかわからない。双葉はまだ低レベルで、きっと戦闘になったら一番最初に命を落とす。

 正直、このデミウルゴスという組織のことを俺は知らない。俺を狙う理由もわからない。町一個巻き込んで、これだけの兵力を持っている組織。しかも兵士のレベルはそこそこ高い。

「交渉の中の一つとして聞いておきたい」
「なんでしょうか」
「デミウルゴスの目的というか、なんで俺に執着するのかを聞きたいんだ」
「きっとそう質問するでしょう、と上からも言われています。なので率直に答えます。答えはノーです」
「いや、イエスかノーかの質問じゃないと思うんだが」
「答えられないということです。そもそも私も聞かされていないので。知っているのは幹部クラス以上になりますから。私もまた、ただの駒に過ぎないのです」
「そんなんでいいのかよ。お前の意思はないのか」
「ありませんよ、そんなもの」

 そう言いながら、彼女が視線を逸した。

 なんだかんだ言ってはいるがとんでもなくわかりやすい。メリルは自分の気持ちを隠しているし、この状況はきっと彼女が望んいるものではない。

 でもやりようがあるか、と言われると難しい。問題はメリルではなく、俺たちに銃を向けているその他の兵士だ。フレイアはあの調子だし、双葉も自力では切り抜けられないだろう。その証拠に、上手く切り抜けられないからこそゲーニッツも大人しくしているんだ。

「じゃあやれよ。今すぐ引き金を引いてみろ」
「私は上司から生け捕りにしろと言われているのです。撃った弾が原因で死んでしまうと面倒です。ですから、私の交渉に応じて欲しいのです」
「断ったらどうする?」
「アナタの仲間を殺します」
「まあ、そうなるよな」

 ジャキっと、周囲の兵士が一斉に銃を構え直した。まるで決め事のように音が揃っていて、それがなんだか気持ちが悪かった。

 この時点で、俺ができることなんて多くはない。おそらく遠くからこの状況を見ているであろうグランツに合わせるか。ゲーニッツとメディアと連携して暴れまわるか。グランツを待つにしても暴れまわるにしても、結局はフレイアと双葉をどうにかしなければ背水の陣から抜け出せないのは事実だった。

 最後の選択肢は、俺が死ぬしかない。

「ふう」と一息吐いた。

「俺がそっちに行く。俺を縛り上げたら他のヤツらを開放してくれ」
「話がわかる人でよかったです」
「話がわかるんじゃねーだろ。ただ脅しただけだ。一方的にぶん殴られて、地面に倒れてるヤツを踏みつけてるのと変わらねーよ」

 彼女はなにもいわなかった。

 ゆっくりと、メリルへと歩み寄っていく。できることなら、このメリルという少女も助けたい。なんらかの要因でデミウルゴスの下についている彼女を、俺の手で助けたい。

 そう考えているうちに、メリルの前までやってきた。

「ほれ」と、両手首を合わせてメリルの前に差し出す。メリルは「そうですね」と、腰元から縄を取り出して俺の手首を縛った。

 次の瞬間、後頭部をなにかが直撃した。

 痛みよりも「なにが起きたのか」という感じだった。痛いことは痛いのだが、なにがどう痛いのかがわからないくらい衝撃が強かった。

 驚いたメリルの顔を見ながら、俺は地面に倒れていく。時間がスローモーションのように感じていた。だから、他の人たちの表情もよく見えた。

 ゲーニッツは澄ました顔だった。

 フレイアが顔を上げて立ち上がろうとしている。

 その代わりに双葉が地面に突っ伏していた。

 地面に倒れ込むのと同時に、炎が周囲に現れた。この感じだと円形、俺たちを囲うようにして誰かが魔術を使ったのだ。

 銃声がけたたましく響いた。周囲にいた兵士の物だろう。俺の体も銃撃によって何度も跳ねた。とても痛いはずなのに、頭のどこか悪いところでも打ったのか、その痛みすらも自分のものではないようだった。

 頭を撃たれたと衝撃でわかった。目の前が真っ赤に染まっていく。

 ドサリと、俺の前に何かが落ちた。

 血だらけの双葉を抱えたフレイアだった。

 いや、フレイアだと思う。自分の血で前がよく見えない。フレイアだったとしても、フレイアも双葉も真っ赤に染まっていて、もう助からないとわかる状況だ。

「ああ、上手くやれなかったか……」

 手を伸ばし、二人に触れた。触れるまで少し時間がかかってしまったが、なんとか触ることができた。これで、なんとかなるはずだ。

 一層大きな衝撃が背中に降り注いだ。

 どこかで似たようなことがあったな。

 そんなことを思いながらも、俺は落ちてくる目蓋に逆らうことができなかった。






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