それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 3-Kindness Piece〉 十六話

「起きて、起きなさいイツキ」

 身体を大きく揺すられて一気に目が覚めた。目を開けると、電灯があまりにも眩しくて上手く瞼が開かない。いや、これは電灯じゃない。メディアが光の球体を魔法で作り出しているんだ。目の前にあるから眩しいけど、光量自体は大したことない。

「なんでメディアがこの部屋にいんだ……?」
「細かいことは後で説明するわ。今すぐに用意して」
「用意ってなんの?」
「宿を出る準備よ」
「おいおい、外はまだ真っ暗だぞ……」

 無理矢理目蓋を開けて壁掛け時計を見た。時刻は深夜の二時。まだまだ全然夜じゃないか。

「こんな時間に起こしたのだから、なにか問題が発生したってことくらいは勘付きなさいな」
「ん、それもそうか」

 メディアの前だが、この際恥ずかしいとか言っていられない。

 その場で寝間着をサッと脱いで着替えを済ませた。メディアが入り口付近で、顔を赤くして俯いていたのがあまりにも意外だった。こう、もっとそういうのに慣れていてものすごく大人の女性という感じだったのに。

「これ、私物を入れておきなさい。アナタ、バッグとか持ってないでしょう?」
「おう、ありがと」

 茶色いリュックサックを手に入れた。

 リュックサックにいろいろと詰め込んでいく。着替えやら買ったアイテムやら財布やら、とにかくテキトーにぶち込んだ。

 ガントレットとグリーブを身に着け、最後にリュックサックを背負った。

「うし、準備完了だ」
「行くわ。くれぐれも慎重にね」

 メディアが光の球体を消してから部屋を出た。俺もその後ろからついていく。

 真っ暗な廊下を忍び足で進み、足音を消したまま階段を降りた。

「具体的にどんな自体なのか教えてくれ」

 ぼそぼそとメディアに問う。

「デミウルゴスよ。夜回りをしていたグランツが見つけたの」
「フレイアと双葉は?」
「ゲーニッツが抱えて先に出た。一応街を出て北にある森で待ち合わせになってる。でも猶予は一時間。一時間経っても来なかったら自己判断での行動になる。だからできるだけ早く向かわなきゃいけない」
「なるほどね。それもそうか」

 この町に来る際、デミウルゴスに待ち伏せされていたのだ。俺たちの居場所が突き止められるのも時間の問題だったんだ。

 宿を出て、右左と周囲を確認。そこからはエンハンスを使って早めに町を駆け抜ける。それでも大通りは避け、できるだけ細くて目立たない路地を利用した。

 町を出て、ようやく少しだけ気持ちが落ち着いた。緊張が解けた、という方が正しいかもしれない。

「油断はしないで。こういう場合はわざと野放しにしていることが多いから」
「もしかして仲間と合流してから叩こうっていうこと?」
「物分りがよくて助かるわ。だから私たちはこのまま森に向かうことはできない。一時間以内に敵を撒かなければいけない」
「了解した。じゃあここからは全力疾走か」
「同時に隠蔽法術を使う」
「それって人間にも有効なのか」
「モンスターに対してよりは効果は落ちるけど、魔力や気配は薄めることができるわ。その代わりにエンハンスで消費する魔力は抑えて。じゃないと意味がないから」
「難しいこと言うな。できるだけ頑張るけど」
「そうして頂戴。じゃあ、行くわよ」
「おうさ」

 こうして、俺とメディアという珍しい取り合わせのまま、真っ暗な平原を駆けていく。全力疾走に近いけれど、それでも少しだけ速度は落としていた。こうしなければ隠蔽法術の意味がないからだ。

 平原の左手に見えてきた低い山に登り、森に入り、ぐねぐねと移動しながら山をあとにした。

 湖の横を通り抜け、大きな川に架かる橋を渡り、待ち合わせの森までやってきた。

 かなり順調だ。けれど、あまりにも順調すぎるのは良くない予兆でもある。でもメディアがちゃんと周囲を警戒してるし、俺だって自分なりに警戒してるつもりだ。

 速度を緩めて森に近付く。森の前にはすでにゲーニッツが待っていた。地面にはフレイアが寝かせられていて、なぜか双葉がしゃがみこんでいた。

 でもそれだけじゃない。一人の少女が、ゲーニッツの陰から姿を見せた。。

「メリル? お前こんなとこでなにやってんだ」

 あの白い髪の毛は、暗闇に慣れた目だと夜でもはっきりと見える。空が曇っているので月は見えない。それでも彼女だとわかる。髪の色だけじゃなく、身長や立ち姿でわかった。

「これが、私の任務なので」

 嫌な予感がした。

 メリルが素早く銃を構えた。俺もまた、拳を胸の前で構える。

「どういうことか、説明くらいはしてくれるんだろうな」
「デミウルゴス。この名前を言えば、わかってもらえると思います」
「お前がデミウルゴスの一味って?」
「……そういうことです」
「質の悪い冗談だ。銃をしまうなら今だぞ」
「ごめんなさい。でも、それはできないんです」

 そう言いながらも、メリルはトリガーを引かなかった。

「少し、交渉をしませんか」
「交渉って、なんのだよ」
「イツキさんが大人しく捕まってくれれば、アナタの仲間には危害はくわえません」
「マジで言ってる? というかそれを単独で判断できるくらい組織に信頼されてるってこと?」
「本気ですよ。それに、これでも私は幹部クラスのちょっと下くらいの地位なのです。それで、大人しくこちら側に来てはもらえませんか?」
「俺が大人しく従うと思うか?」
「従うとは思っていません。でも――」

 急に人の気配が近づいてきた。いや、違う。最初から隠れてたんだ。

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