それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 3-Kindness Piece〉 十五話

 ティアマトの膝が落ちてきた。下にいる俺に向かって頭が落ちてきた。

「いくぜ! これが答えだ!」

 ギリギリまでひきつけて、ティアマトの顎に向かって思い切りアッパーをぶちかました。攻撃に伴う爆炎が周囲の気温を一気に上げる。降っていた雪でさえ止んだとさえ感じる。

 こうして、ティアマトの身体が地面に倒れた。

「あっぶねーな。押しつぶされるかと思ったぜ……」

 でも、これで血液を採取できる。

「ディア、血を取ってもらえるか」
「ええ、予備にいくつも採取するから、試験管を一人二つ持つように」
「うーい」

 ディアが手際よく血液を採取していく。少し大きめの注射器で何回も血を抜き取る。

「もっとバイオレンスなのかと思ってた」
「皮膚が柔らかいからこれでいいの。さ、できたわ」

 試験管が差し出された。受け取ると、それがガラス管でないことがわかった。

「これ、材質なに?」
「シリコンよ。柔らかいから割れることもない。その代わり、短期間で使わないと鮮度が落ちる。わかったらさっさと行きましょう」

 その時、ライセンスが震えた。

 ポケットから出して見てみると、インフォメーションに新着情報が届いていた。

「新アーツ習得……?」

 レベルは三つ上がっているが、今までこんなふうに出たことはなかった。

 アーツの画面を開くと、確かに新しいアーツが追加されていた

「龍顎砕……ドラゴン系のモンスターの顎を狙って攻撃し、倒すことによって取得か。なるほど、こういうのもあるのか」
「おいボンクラ。立ち止まるな」
「口悪すぎでしょ……」

 ディアに急かされて、彼女たちの元へと走っていった。

 山を降りながら双葉に確認すると、双葉はレベルが七つ上がったらしい。長時間の間攻撃と防御を繰り返したからだろう。やはりちまちま攻撃するよりも経験値がもらえるんだろう。

 来た時と同じように隠蔽法術で山を降りた。目的が終わったと言っても早く帰らなきゃフレイアを治せない。

 足早に山を降り、町へと帰った。

 宿に戻って血液を渡すと、ディアが消えてしまった。当然と言えば当然なのだが、こう、なんだか寂しくなってしまう。あのちょっと当たりが強い感じ、嫌いじゃない。

 ティアマトは殺したのではなく倒した、という扱いなのでクリスタルは出なかった。きっと体力が回復したら起き上がるだろう。その代わり、雑魚を何体か倒していたのでそれを換金。無事にメリルからお金を返してもらえた。と言ってもグランツに金を返せばほとんどなくなってしまいそうだが。

 宿の前でメリルと別れた。彼女は「今までありがとうございました」と、深々と頭を下げて町の中へと消えていった。これで彼女とはお別れだ。ダンジョンに潜ることもなければ、一緒に食事をすることもないだろう。

 ゲーニッツたちも無事帰還し、フレイアにも薬を飲ませた。二日もすれば良くなるだろう、とメディアは言っていた。

 これで肩の荷が降りた。今日は良く眠れそうだ。

 食事をして、宿の大浴場へとやってきた。客も少ないので広々と使えるのはとてもいい。

「あー」なんて言いながら湯船に浸かっていると、自分の年がちょっとわからなくなる。

「隣、失礼するよ」

 スッと、グランツとゲーニッツが横にきた。

「おい! ビビるだろ! なんで音もなく入ってくんだよ!」
「さっきからいたからね? なんかいろいろ考え事してたみたいだから黙ってたけど」
「んー、まあフレイアのことがあったしな。双葉もかなり苦労してたみたいだし。早くよくならないかなーと」
「キミは本当にフレイアが好きなんだね」
「可愛いからな」
「否定しないところがすごいな……」

 グランツは苦笑いをしてそう言った。

「で、ようやく三人になったんだ。お前に言っておかなきゃいけないことがある」

 ゲーニッツが口を開いた。珍しいな、こいつから話しかけてくるなんて。

「良くない噂を聞いた。デミウルゴスの勢力がこの町にも来ている」
「デミウルゴスが?」
「ああ。アグレアの葉を取って帰ってくる時も遭遇した。全部返り討ちにしてやったが、最低でも二十人はいたな。あの数が襲ってきたってことは、この町にも間違いなく潜伏してる。気をつけろよ」
「あ、ああ。でもなんでここで言うんだよ」
「メディアには聞かれたくないからだ。メディアにはフレイアのことを全部任せた。もしデミウルゴスが襲ってきてもアイツは前線に出したくない。ほぼ寝ずにフレイアの世話をしていただろうしな」
「はっ、優しい……!」
「黙ってろ。もしもデミウルゴスが襲ってきたらメディアとフレイアを守る。いいな」
「おーけー、そういうことなら任せとけよ。レベルも71になったし、前よりも上手くやれるはずだ」
「そうか。期待してるぞ」

 ゲーニッツが俺の頭に手を当てた。そして、力を込めて立ち上がる。

「撫でるんじゃねーのかよ! 立ち上がるための補助じゃねーか!」
「男の頭を撫でても楽しくねーだろ、アホか」
「ふむ、まあ確かに」

 同時にグランツも立ち上がる。そして二人仲良く風呂を出ていった。

「身体が大きいヤツって、アレもデカイんだな」

 そんな言葉がポロっと出てきた。世の中は広いんだな。

 風呂から上がって女部屋をノックした。返事はない。

 ゆっくりと開けると、フレイアだけが寝かされていた。他の二人も風呂なのだろう。

 部屋に入り、ベッドの横に腰掛けた。外に出ているフレイアの手を握り、手の甲を撫でた。

 あんなに荒かった呼吸も落ち着いて、赤くなっていた顔も元の肌色に戻っている。

「よかった」

 頬を撫で、額に手を当てた。まだ熱がある。

「おやすみ、フレイア」

 なにかをするために来たわけじゃない。ただ、彼女の顔が見たかっただけだ。

 だから俺は部屋を出て行く。起こしても悪いからだ。

 部屋に戻るとゲーニッツとグランツが酒盛りをしていた。弱いのによく飲むオッサンだな。

「もう寝るのかい?」
「今日は疲れた。もう限界だよ」
「そうかい、おやすみ。いい夢を」
「ああ。双葉に会ったら、俺がおやすみって言ってたって伝えてくれ」
「わかった」

 布団に潜り目を閉じた。

 フレイア、双葉、メリル、ディア。四人の顔が瞼の裏で揺れ、そしてそのまま身体が重くなっていった。

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