それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 3-Kindness Piece〉 八話

 その時、フレイアの顔つきが変わった。その理由は俺にもわかった。

「なんか、妙な感じだな」
「イツキにもわかるようになった? 誰かがこっちを観察してる。距離や人数まではわからないけど」
「なるほど、この感じが「敵意を感じる」ってことなのか。でも俺たちを観察して意味あんのか?」
「その意味を見出すとすればデミウルゴスでしょうね」

 フレイアが荷台の小窓から外を見た。右に左にと視線を移して、今度は反対側の小窓から外を見た。

「なにかわかったか?」
「左に二人、右に一人。メディアには馬車を守ってもらって、グランツ、私、イツキでなんとかするのが一番いいでしょう。フタバちゃんはここでメディアに守ってもらって」
「えっと、はい。わかりました」

 双葉が残念そうに言う。なにもできないことを憂いている、という顔だった。

「グランツ。準備はいい?」
「話は聞いてたよ、行こうか。でもイツキは一人で大丈夫なの? 相手は決して弱くないよ?」
「任せろよ。これでもいろいろ考えてんだ。ヤバくなったら助けてもらうさ」
「誰に?」
「フレイアに」
「結局私なのね。まあいいわ、行きましょうか」

 馬車から飛び降りて華麗に着地。少し先で馬車が停止した。

 グランツが右へ、俺とフレイアが左だ。

 黒いローブを羽織ったヤツらが姿を現した。顔は見えない。白い仮面を被っているからだ。逃げ切れないと踏んだのか、それともそういう命令を受けているのか。そうでなければ逃げるのが得策なはずだ。

 基本的に一対一の状況。レベルが低いので俺だけは圧倒的に不利である。

 ローブの中からナイフを持った手が伸びてきた。距離感を狂わせるためか、顔面に向かって一直線だった。 

 このままで距離が分かりづらいのならば避けてしまえばいい。きっと敵もそれくらいわかっているだろうが、俺にはそうするしか道がない。

 右へと回避。そこにミドルキックが置かれていた。でもそれくらいは想定済みと、右肘と右膝で防御した。肘と膝で防御すれば、多少だがダメージを与えられる。相手の攻撃が強ければ強いほどに、相手に与えるダメージが大きくなる。

 ローブのヤツが一瞬怯んだ。

「ここだ!」

 左ストレートで顔面を狙う。が、避けられた。回避方向は左側。右側に避ければ、こっちの攻撃を食らうとわかっているからだ。だから俺はすぐに回し蹴りに切り替えた。

 これでも戦闘回数は少なくない。なんとなく「戦う」ということに対しての耐性がついている。

 攻撃をした際、相手に選択肢を与える。どう避けるのか、どう防御するのか。端的に言えばその回避方法や防御方法を潰すような選択肢をこっちが仕掛ければいい。

 敵が距離を取った。今度は右拳を腹に見舞う。体勢が崩れたところで、俺はソイツの顔を掴んだ。

「これが俺の戦い方だ!」

 手に巻いた包帯を強化。同時にファイアを全力で発動させた。

「燃えつきろ!」

 炎というよりも爆発のような攻撃。魔術を遠距離で使えないのなら、至近距離で直接叩き込んでやればいい。

 ローブが揺れた。まだ意識がある。

「ならもう一発!」

 続けて顔面にファイアを使う。それでもまだ動こうとするから、もう一回、もう一回と、合計三発のファイアを顔面にぶち込んだ。

 腕がだらりと垂れ下がり、それは俺が勝ったことの証明であった。

「ヒュー、結構やるじゃん」
「見ててくれたのか、フレイア」
「あんま強くなかったし、こっちは早く終わったのよ」
「ちょっと苦戦した俺に対しての当てつけかよ」
「敵も戦闘向きって感じじゃなかったし」
「なにも言えねー、レベルも低いし弱い自覚があるから何も言えねーよー」
「そう言いなさるな。でもその包帯はそういう使い方があったんだね」
「双子に言われたんだ。自分の攻撃で自分が傷つくのなら、傷つかないような方法を取ればいいって。その属性への耐性をつけるのは大事だけど、耐性がつくまでには当然時間がかかるからって」
「包帯を強化して耐性を無理矢理作ると。いい策だと思うよ。ただ、なんというか、包帯も相まってさらに変な病気が加速したようにも見えるというか」
「カッコイイだろ?」
「わざわざ顔じゃなくてもいいと思うよ」
「顔面を掴んで爆発させるのは男のロマンだ!」
「たぶん私には一生わからないんだろうなーって思うよ」

 やれやれと肩をすくめ、倒したヤツの元へ行ってしまった。ロマンがわからないやつめ。

 ゲーニッツと双葉以外の四人で、襲ってきた三人を縛り上げ、近くの木にくくり付けた。

「ほらほら起きて」

 グランツが若い男の頬をペチペチと叩いた。男が目蓋を開けた。戦闘時に三人の仮面はどこかにいったらしい。

「起きたね。それじゃあ質問しようか。キミたちはデミウルゴスの一味?」
「……」

 男は目を閉じ、口を閉じ、なにも言うまいという態度だった。

 それはきっと、グランツのスキルを知っているからだろうと、俺は思った。俺だけじゃない。だから、俺もフレイアもグランツもメディアも、全員顔を見合わせて「やっぱりな」という顔をしたのだ。

「言うわけない、か。でもその態度でわかっちゃうんだよね。ボクのことを知っていてこちらを偵察した。ということはデミウルゴス以外にあり得ないんだから。政府がこんな回りくどいことをするはずないしね」
「政府の人間とはさっきまで仕事してたわけだしね。特に政府と魔女派には不可侵条約みたいなものもあるし」

 フレイアが髪の毛を指でくるくるさせながら言った。

「そういうこと。こちらの動向を探っていいことなんてない。話を訊くならお偉いさんが自ら来るでしょう。なによりも、魔女派をどうにかするのであればボクらのことを嗅ぎ回っていても意味がない」
「……」

 それでもなお沈黙を守る男。こちらの話を聞いても眉一つ動かさない。こういう訓練でも受けているんだろうか。

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