それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 3-Kindness Piece〉 二話

 そして、俺と双葉への質問が終わり、予定通りに双子がやってきた。双葉の出現によって少しくらいは時間がずれるかと思ったがなんとかなったようだ。

 問題はここからだ。

 双子がクエストを持ってくる。魔女派のメンバーはこれに同意。そしてゲーニッツが酒場へ。

 俺はここで行動を起こさないといけない。そうでなければ同じことを繰り返してしまう。

「ちょっと待ってくれ。ゲーニッツにも一緒に来て欲しい」

 ゲーニッツが部屋を出て行く前に、俺がそう言った。

「なんでだ? 別にこれくらいのダンジョンならなんとかなるだろ? 俺が必要だとは思えないが?」
「俺は未来を見た。だから言える。あのダンジョンで冒険者を襲っているのはめちゃくちゃなモンスターだ。黒いスライムで、核ごと分裂する。だからいくら核を壊してもダメなんだ」
「核ごと分裂する黒いスライム……? お前それ、ブラックラバーじゃねーか?」
「ブラックラバー? そういう種類なのか?」
「そうか、お前はレベルが低いからわからねーか。本来こんなところにいるようなモンスターじゃねーんだが」
「レベルは?」
「150は超えてるな。もし本当にそんなのがいれば、そりゃレベル100程度の冒険者じゃ勝ち目はねーよな。本当にいれば、だが」

 ゲーニッツがグランツに目配せをした。グランツは小さく一つ頷く。

「なるほど、マジっぽいな。詳しく話を聞かせろ」

 よし、風向きが変わった。グランツのPスキルのおかげで信頼度が違う。厄介なスキルだなと思ったが、こうやって使わせてもらえば上手くことを切り抜けられる。

 目を閉じて眉間を揉み込む。こうやって考えていることをアピールするのだ。

「地下二十一階、結構歩いたところから生臭さが強くなった。広いところに出て、黒いスライムがいる。みんなでなんとか倒すんだけど、帰り道にまた襲われる。そこで、アルが殺される」
「ちょっと! なんで私が死ぬのよ! それにアルって呼ばないで!」
「待ちなよアル。どうやら本当らしい。キミはその未来を変えたい、と」
「そういうことだ。それにはたぶんゲーニッツが必要だし、そのブラックラバーっていうモンスターへの対処も考えなきゃいけない」
「そうだね。ブラックラバーか……このメンツでかかればなんとかなるだろうけど。問題は分裂してもモンスターとしての機能を失わないってことだね。ゲーニッツはなにか対処法を知ってる? ちなみにボクはわからないよ」
「ブラックラバーの核は、核であって核ではない。あれは呪いだ。だから核をぶったたく前に呪いを解かなきゃならないんだが、呪いを解く方法がまた面倒だ。一級品の法術師がいれば簡単なんだが、法術を極めようなんてやつはそうそういないからな」
「それなら私がなんとかできるわ。ブラックラバーの呪いの階級は?」

 メディアが静かに言う。

「二級だ」と、ゲーニッツが返す。

「二級の分裂系の呪いね。それならなんとかなるかもしれないわ。迷宮管理営業所で法術師にジョブチェンジしていきましょうか。でもそうなると私は解呪に専念するから、戦闘はそっちでなんとかしてもらわないと駄目ね」
「誰に向かって言ってやがる。俺が行くんだぞ」
「ふふっ、それもそうね。じゃあ、とりあえずジョブを変えて来るわ」

 メディアが部屋を出ていこうとしたので、俺と双葉とフレイアも付いて行くことにした。俺と双葉のサブジョブを設定するためだ。

 メインジョブは拳闘士のまま。サブジョブに法術師と魔術師を設定。剣術士とか槍術士も迷ったが、たぶん前衛職を複数覚えてるだけの器用さはない。

 双葉のジョブもメインはそのまま。サブに法術師、あとは薬学士を設定。前衛で剣を振っているような姿も想像できないし、バックスに徹するというのならば俺も安心できる。

「さっきメディアが言ってたんだが、二級の分裂系の呪いってどういうこと? まあ読んで字のごとくなんだろうけど、二級っていうのがよくわからない」

 メディアを待つ間、営業所の休憩室で訊いてみた。

「魔法には六級から一級まで階級があるの。一級が一番強く、六級が一番弱い。一級は魔女クラス、ないしそれに近い能力を持っていないと使えないの。二級の魔法が使えれば大魔法使いと呼ばれるわ」
「つまりブラックラバーはかなり強いってことか」
「普通じゃないわね、あれは。ブラックラバーの強さは戦闘力じゃなくて繁殖力、耐久力にあるから特にその強さが分かりづらい。で、魔法を分類するにはいくつかの段階があって、さっき言った階級が一つ、分裂系のような特性が一つ、最後に魔術なのか法術なのか呪術なのかっていう分け方をするの」
「その分裂系ってのはいろいろあるってことか」
「そういうこと。例えば魔術で炎を出すでしょう? あれは自然系って呼ばれるわ。エンハンスなどは強化系ね。でもね、例えば分裂系の魔術はあるけど、強化系の魔術はないの。でも呪術の中に強化系も自然系もある。あるものとないものが、その魔法に個々に設定されてるのよ」
「うーむ、なかなか難しいな」
「これから覚えていけば大丈夫よ。今は無理だけど、図書館とかで魔法書でも借りれば知識を深められるわ。あとはそうね、これも時間がある時にだけど、お金を溜めて魔法書を買うとかっていうのも選択肢に入るかな」
「魔法書っていくらくらいするの?」
「初級で安いのでも十万くらいかな」
「たけーなおい! 全然無理だぞ!」
「おいおいでいいのよ。それに魔法書がなくても、サブジョブに設定してあれば魔法は覚えられるしね。魔法書を読むことで習得が早くなったり、魔法書を読むことでしか覚えられない魔法もあるけど、イツキは使わなそうだし」
「そうね、たぶん使わないね。でもいくつかは買っておいた方がいい気がするんだよなあ」
「お、勉強する気あるの?」
「いや、双葉のためにな。勤勉だし、自分の身を自分で守れるようになってくれると、お兄ちゃん的には安心というか」
「でたわねシスコン仮面。ほら、フタバちゃん顔真っ赤にしちゃったじゃない」
「ふむ、やはり照れた顔も可愛い」
「隠す気もないのね……」

 そんなこともありつつ、フレイヤに金を借りて魔法書を三冊ほど購入した。初級魔術、初級法術、中級魔術だ。中級法術なんかはフレイアが持っているらしいので借りることにした。まあ、それも魔女派の総本山に行かないとないみたいだが。

 法術師が最初から有しているアーツはエンハンスとヒール。身体強化と治癒だ。

 魔術師が最初から有しているアーツは火属性のファイア、雷属性のライトニング、風属性のウインド。水属性や土属性もあるかと思ったが、水は水そのものを作りださなければならず、土は砂などを操作しなければいけない。別の行動が必要になるので最初からは使えないのだとフレイアが言っていた。

 確かに、火も雷も風も物理ではない。少しだけ魔術のことがわかったような気がした。

 メディアのジョブチェンジも終わったということでホープヴァリー洞窟に向かった。終わり次第現地集合ということになっていたからだ。

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