それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈expiry point 2-Disaster Again〉 最終話

 考えることが多すぎて頭が痛くなってきた。それだけじゃない。朝からの不調もあって酷く吐き気がする。

 双葉から離れ、優帆へと走っていく。たぶんこうなってしまったら、優帆を殺すしか方法がない。

 本当に、それができるのだろうか。

 拳が振り下ろされる。本来の双葉の拳の数倍はあろうかという大きさ。それほどまでに大きく、それでいて速い。

 ギリギリのところで避けた。拳は地面を砕き、その破片が目に入る。

 ヤバイと思ったその時、腹部に強烈な一撃がやってきた。

 次の瞬間には、コンクリートの壁にめり込んでいた。背中には激痛。身体は動かない。しかし、優帆はこちらへと歩いてくる。

 殺せるわけがない。確かに双葉のことは大事だ。守りたい。でも、優帆のことだって守りたいんだ。守りたかったんだ。

 自然と涙が出てくる。どうして上手くいかないのか。あの男もそうだが、どうして俺の日常を邪魔しようとするのか。

 優帆が俺の目の前で止まった。

「ゆう、ほ……」
「いつき、にげ、て」

 まだ意識があるじゃないか。顔だってもう優帆のものじゃない。紫色のモンスターだ。でもちゃんと生きてる。

 彼女の腕が俺へと伸びてきた。俺も手を伸ばし、その手に触れた。

 バキリと、指の骨が折れる音がした。

「ぐああああああああああああああ!」

 メキメキと、腕の骨が軋む。

 期待をした俺がバカだったのか。なにも期待してはいけないのか。

 そう思った瞬間、ドンッという衝撃音がした。優帆の姿が遠くへと吹き飛び、代わりに一人の女性が立っていた。

「泣くのはまだ早いと思うけど?」
「フレイア……!」
「体勢を立て直すわ。向こうのモンスターが一体だけなら逃げることもできるでしょ」
「待ってくれ! あれは優帆なんだ! なんとかして助けたい!」
「もう無理よ。わかってるんでしょう? ああなってしまった以上、私たちにできることはない」
「でも!」
「あれはもうユウホじゃない。割り切れ、イツキ」

 フレイアの肩を借りて立ち上がった。顔を上げて男の姿を探そうとした。だが、探すまでもなかった。

「一体だけ、なんて誰が言ったんです?」

 向こうの民家に三体、右の道の向こうから二体、二体の前に優帆ともう一体、反対の道に五体。

 振り向くと、屋根の上に四体。横の家の屋根にも三体。

「んだよ、これ……」
「ここに来る前に作っておいたんですよ。私より前に調査に行った者たちだって、キミには勝てなかった。それならそれで対策くらいするでしょ?」
「コイツらは元々人間じゃねーのかよ!」
「ええ、そうですよ。ちなみに言いますが、私はキミたち全員を実験材料にするつもりでここまで来ました。この意味、わかりますか?」

 ハッとして、双葉を置いた場所に目をやった。

 双葉の身体がどんどんと紫色に変色している。まだ肉体の変化は見られないが、変形するのも時間の問題だ。それは、優帆の変形を見ているからこそわかることだ。

 一目散に駆け寄り、双葉の身体を抱きかかえる。苦しそうに息をして、額には玉の汗を浮かべている。

「おい、てめぇ、なにしやがった」
「訊くまでもないでしょう? 妹ちゃんも一緒になってもらいました。次は、キミと、その女の子です」

 銃口がこちらに向けられた。

 が、問題はそこじゃなかった。それに気が付けないほどに俺も、フレイアも動揺していた。

 鋭い風切音がしてフレイアが吹き飛んだ。同時に俺も双葉と一緒に吹き飛ばされた。

 またコンクリートの壁にぶち当たった。けれど、痛いなどと言っている場合ではない。

 双葉を抱えたまま膝立ちになって周囲を見渡す。紫色のモンスターにやられたのはわかった。でもフレイアが気が付かないほどの攻撃ができるなんて到底思えない。

 フレイアは、少し遠い位置で立ち上がっていた。その足には、黒いスライムのようなものが付着している。

 敵は、紫色のモンスターだけではなかった。フレイアに察知されずに近づき取り付いた。そのせいで反応できなかった。

「キミが死ねばすべてが終わります。元々、私の任務はキミを殺すことですからね」
「なんで俺なんだよ。それに俺だけじゃねーだろ。この辺の住民も、優帆も双葉も巻き込んでんじゃねーか」
「任務に犠牲はつきものです。それに治す薬はなくとも、灰に返すための殺傷剤は開発できました。集団失踪事件のような報道をされるでしょうね」
「そんなんで済むわけねーだろ! 目撃者だって絶対にいるはずだ!」
「いません。目撃者は、全員殺します」

 また銃口が向けられた。

 周りをモンスターに囲まれた。双葉を抱えたまま戦って勝てるかと言われるとかなり難しい。そもそもこのモンスターは強い。フレイアならまだしも、俺が戦って勝てる相手じゃないんだ。

 モンスターの腕が上がる。そして、目にも留まらぬ速さで振り下ろされた。

 そこにフレイアが突っ込んできた。俺を守るためなんだろう。

 が、フレイアはいつも通りの動きができないようだった。

 俺の目の前に立ち、モンスターの攻撃を受け止めた。一体のモンスターからの攻撃だけ。つまり他のモンスターは健在なのだ。

 一方的だった。モンスターたちの攻撃が一発二発とフレイアの身体にめり込んだ。速度は速く、フレイアの身体が少しずつこそげ取られるようだった。

 足が飛んでいった。腕が飛んでいった。腹部に拳がめりこんだ。

「なんでこんな……」
「前に、出ちゃうんだよね、私」

 次の瞬間、頭が飛んだ。

 正確には地面にバウンドし、俺の足元に転がってきた。彼女の顔は、なぜか笑っていた。

 彼女の頭を拾い上げて、強く胸元に抱え込んだ。

「終わりですね、深山一葵くん」
「てめぇ、絶対に許さねーからな! 次会ったら、お前だけは俺の手でころ――」

 言い終わる前に空中に飛んでいた。

 下方に自分の身体が見えた。

 ああ、俺の首も吹き飛ばされたんだなと、そこでようやく理解した。

 人は首を飛ばされても少しだけ意識が残るという。まさか自分で体験するとは思わなかった。

 痛みはない。今あるのは、虚無だけだ。











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