それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 2-Disaster Again〉 十二話
「おおおおおお……」
めちゃくちゃ痛い。結構本気で殴られたっぽい。
仰向けで空を見上げる俺を、フレイアが見下ろしていた。
「今、なんでダメだったかわかる?」
「本体の動きに釣られた、かな」
「合格。人だからさ、大きな物の動きには咄嗟に目がいってしまう。遅れてくる右拳の攻撃に対して無防備になってしまった」
指をピンと立て、フレイアが丁寧に説明をしてくれた。
攻撃とは基本的に自分より前に出すもの。けれど今のは身体を相手にねじ込んで、視線を誘導してからフックを打ってきた。当然攻撃力は落ちるけれど、不意打ちになれば有効打になりえる。
「これが隙ってやつね。隙っていうのは様子見をして伺うものじゃない、自分から率先して作るものよ。どうすれば相手の意識を断ち切れるか。逆にどうすれば相手に意識させられるか。ジャブだって「ジャブが来るぞ」って意識させるために打つの。それを様子見だけに使うのはもったいないわ」
「ふむ、本能だけってわけにもいかないか」
「でも頭で考えたからって行動に移せるわけじゃない。だからこそ引き出しを増やしておく。この状況が来たらこの引き出しとこの引き出しを開ける。そういう引き出しを増やしておくと考えて行動するんじゃなくて、引き出しを選択すればいいだけになる」
「言いたいことはわかるが、それができれば苦労しないっていうね」
「そのための組手じゃない。さあ立った立った」
腕を捕まれ、無理矢理立たせられた。自分から言い出したことだとは言え、ハードな夜になりそうだ。
それから俺はフレイアにボコられ続けた。何度も地面に叩きつけられたし、何度も吹っ飛んだし、何度も気を失いかけた。傷ついても回復させられるもんだから余計にきつかった。
地面に腰を下ろす。正直、立っているのでさえ疲れてしまう。
時計を見たら午前三時。さすがにこれ以上はキツイ。明日も学校だし、帰って寝なきゃならない。
本当ならば休日にやりたいところだ。けれどそんな悠長なことを言ってはいられない。一秒でも早く、フレイアの隣に並んで戦えるようにならなければいけない。
「そろそろ帰るか。さすがに眠い」
「時間も時間だしね。明日も学校でしょ?」
「そういうこと、朝が早いんだこれが。風呂にもまだ入ってないし」
「んじゃ、さっさと帰りますか」
俺が立ち上がろうとする前に、フレイアが俺の身体を担ぎ上げた。
「おまっ、ちょっ」
「れっつごー!」
その日、俺は風になった。
気がつけば家についていた。部屋の中に転がされて「お風呂入ったら?」と言われた。
「じゃあ、お先に」
が、上手く立ち上がれない。外傷はないけど力が入らない。
「なにしてるの? ひっくり返った虫みたいにもしゃもしゃして」
「いや、わざとじゃないんだなこれが。疲れてるせいか身体が上手く動かない」
「ふむ」
フレイアが顎に指を当てて天井の隅を見た。
「よし、それでは私が風呂に入れてあげよう」
なにを言っているのか。とても嬉しいがこちらの心の準備もある。いやー準備などいらない今すぐに行こう。
「今すぐに行こう!」
「その代わり眠ってもらうけどね」
俺の額に彼女が右手を当てた。
「あん? どういう――」
目の前がぐるぐると回るようだ。ちょっと気持ちが悪い、でもなんだか身体がふわっと浮くような感覚もある。
ああ、魔法でも使われたんだろうなとすぐにわかった。
「おやすみ、イツキ」
彼女の声を聞きながら、俺の意識は落ちていく。
最後に思ったのは「俺の楽園はまだ遠い」ということだった。きっとこれは神の啓示なのだ。お前にはまだ早いという、童貞神のお告げに違いない。
そう思わなければやっていかれない。
こうして、ラッキースケベに見放された俺の一日は幕を閉じた。
めちゃくちゃ痛い。結構本気で殴られたっぽい。
仰向けで空を見上げる俺を、フレイアが見下ろしていた。
「今、なんでダメだったかわかる?」
「本体の動きに釣られた、かな」
「合格。人だからさ、大きな物の動きには咄嗟に目がいってしまう。遅れてくる右拳の攻撃に対して無防備になってしまった」
指をピンと立て、フレイアが丁寧に説明をしてくれた。
攻撃とは基本的に自分より前に出すもの。けれど今のは身体を相手にねじ込んで、視線を誘導してからフックを打ってきた。当然攻撃力は落ちるけれど、不意打ちになれば有効打になりえる。
「これが隙ってやつね。隙っていうのは様子見をして伺うものじゃない、自分から率先して作るものよ。どうすれば相手の意識を断ち切れるか。逆にどうすれば相手に意識させられるか。ジャブだって「ジャブが来るぞ」って意識させるために打つの。それを様子見だけに使うのはもったいないわ」
「ふむ、本能だけってわけにもいかないか」
「でも頭で考えたからって行動に移せるわけじゃない。だからこそ引き出しを増やしておく。この状況が来たらこの引き出しとこの引き出しを開ける。そういう引き出しを増やしておくと考えて行動するんじゃなくて、引き出しを選択すればいいだけになる」
「言いたいことはわかるが、それができれば苦労しないっていうね」
「そのための組手じゃない。さあ立った立った」
腕を捕まれ、無理矢理立たせられた。自分から言い出したことだとは言え、ハードな夜になりそうだ。
それから俺はフレイアにボコられ続けた。何度も地面に叩きつけられたし、何度も吹っ飛んだし、何度も気を失いかけた。傷ついても回復させられるもんだから余計にきつかった。
地面に腰を下ろす。正直、立っているのでさえ疲れてしまう。
時計を見たら午前三時。さすがにこれ以上はキツイ。明日も学校だし、帰って寝なきゃならない。
本当ならば休日にやりたいところだ。けれどそんな悠長なことを言ってはいられない。一秒でも早く、フレイアの隣に並んで戦えるようにならなければいけない。
「そろそろ帰るか。さすがに眠い」
「時間も時間だしね。明日も学校でしょ?」
「そういうこと、朝が早いんだこれが。風呂にもまだ入ってないし」
「んじゃ、さっさと帰りますか」
俺が立ち上がろうとする前に、フレイアが俺の身体を担ぎ上げた。
「おまっ、ちょっ」
「れっつごー!」
その日、俺は風になった。
気がつけば家についていた。部屋の中に転がされて「お風呂入ったら?」と言われた。
「じゃあ、お先に」
が、上手く立ち上がれない。外傷はないけど力が入らない。
「なにしてるの? ひっくり返った虫みたいにもしゃもしゃして」
「いや、わざとじゃないんだなこれが。疲れてるせいか身体が上手く動かない」
「ふむ」
フレイアが顎に指を当てて天井の隅を見た。
「よし、それでは私が風呂に入れてあげよう」
なにを言っているのか。とても嬉しいがこちらの心の準備もある。いやー準備などいらない今すぐに行こう。
「今すぐに行こう!」
「その代わり眠ってもらうけどね」
俺の額に彼女が右手を当てた。
「あん? どういう――」
目の前がぐるぐると回るようだ。ちょっと気持ちが悪い、でもなんだか身体がふわっと浮くような感覚もある。
ああ、魔法でも使われたんだろうなとすぐにわかった。
「おやすみ、イツキ」
彼女の声を聞きながら、俺の意識は落ちていく。
最後に思ったのは「俺の楽園はまだ遠い」ということだった。きっとこれは神の啓示なのだ。お前にはまだ早いという、童貞神のお告げに違いない。
そう思わなければやっていかれない。
こうして、ラッキースケベに見放された俺の一日は幕を閉じた。
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