それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈expiry point 2-Disaster Again〉 十一話

 最初に戦ったヤツはただ暴れるだけだったしそこまで強くなかった。なのに二回目に戦ったヤツには思考があった。それでいて最初のヤツよりも強かった。あまり時間をかけてはいられない。

 目を閉じて上を向いた。右手の人差指と親指で眼と眼の間をつまむ。考えることは山ほどあれど、それを実行するだけの行動力はない。

 変異した人間と戦うにはそれなりの戦闘力が必要だ。俺やフレイヤのような力。重火器が効くかどうかまではわからないが、少なくとも魔法を使った方が有効だろう。

 それでも俺たちが全てを背負い込むのは不可能に近い。分布もわからない。原因もわからない。闇雲に飛び出したって、今度は俺たちが異端扱いされるだろう。

 どうする、どうしたらいい。

「わっかんねーな……」
「なにがわかんないって?」

 気がつくと、隣に優帆が座っていた。

「うおっ! 急に現れんなよ」
「急にじゃないけど、ちょっと前からいたけど」
「またまた、嘘でしょ?」
「本当だから。ずっと考え事してたみたいだから黙ってたの」

 優帆はシャクっと棒付きのアイスをかじった。

 濡れた髪の毛、ふわっと香るシャンプーの匂い、少し大きめのパジャマ。いつも化粧をしているけれど、すっぴんでも問題ないくらいに整った顔立ち。自分のすっぴん姿に自信があるのか、それとも幼馴染みだから気にならないのか。そこまではわからない。

「なに? 風邪でも引いた?」
「どうしてそうなる」
「顔赤いけど。ひょっとして、私のパジャマ姿に見惚れちゃった? まあ久しぶりだもんねこういうの。成長した幼馴染みに胸キュンしちゃったかー」

 そう言いながらパジャマの襟を摘んで「ほれほれ」と中を見せようとする。

「やめなさい、はしたないぞ」

 内心「うおー! 中はどういうパラダイスなんだー!」と思わないでもないけどグッと堪えた。

「今ノーブラなんだけどな、チャンス逃しちゃうぞー」
「あーもう! いいから! 双葉と遊んでなさい!」

 ちょっとだけ理性がグラつくので勘弁して欲しい。本当にちょっとだけだけど。本当にちょっとだから。

 優帆は「つまんないのー」と言ってソファーから立ち上がった。

「これ、もうお腹いっぱいだからあげる」

 俺の口にアイスが押し込まれた。優帆が食べていたアイスだとわかると、なんだが急に恥ずかしくなってきた。口は冷たいのに顔は熱い。最後になんていう爆弾を落としていきやがった。

 ドアからこちらを覗いていた優帆は、歯を見せて楽しそうに笑っていた。わざと、なんだろうか。

 女子二人は双葉の部屋に行ってしまった。これから眠くなるまでガールズトーク的な儀式を始めるんだろう。

 これ幸いと、ドア越しに「ちょっと出かけてくる」と声をかけた。双葉から「気をつけてね」と返ってきたので、優帆がついてくることもないはずだ。

 俺はフレイアにジャージを着せて外に出た。当然俺もジャージに着替えた。

 時刻は十二時。夜に女性を連れ出したからって、別にいかがわしいことを考えているわけではない。

 ひと気のない場所を探し、近くの小学校のグラウンドにやってきた。俺も双葉も優帆も通っていた小学校だが、ここには警備員がいない。大きめの道路に面しているわけでもないので、隅の方ならば誰かに見られる心配もない。

「で、ここで稽古をつけてほしいと」
「来る時にも言ったが、まあそういうことだ」

 家を出て来る際に、フレイアには結界を張ってもらった。魔法に反応し、なおかつモンスターを寄せ付けないらしい。しかも危険が迫るとフレイアが感知するというすぐれもの。凄い。

 ただし、これもかなりメンタルポイントを消費すると言っていた。

「確かに、戦うすべは必要だと思うわ。特にイツキは一気にレベルを上げすぎた。腕力や脚力が上がっても、それを使うための技術と経験が圧倒的に足りない。それにサブジョブも設定してないから、同レベルの冒険者たちにも劣ってしまう」
「自分でもわかってるよ、だから少しでも戦えるようになりたいんだ」
「そう、イツキもいろいろ考えてるんだね」
「考えたくて考えてるわけじゃないけどな。俺は確かに死んでもなんとかなると思うよ。でもさ、めっちゃ痛いし、できれば死にたくなんてないんだよ。そしたら、困ったことが起きて死んだり、殺してもらわなきゃならない状況を減らすしかないんだよ」
「いいね、いい顔してる。そういう頑張ってるイツキ、カッコイイと思うよ」
「よせやい、照れるじゃねーか」
「それが格好だけじゃないところを見せてもらわなきゃね」

 グラウンドの片隅で、俺たちは数メートルの距離をとって向かい合う。

「テキトーに打ってきていいよ。避けて、守って、空いた場所に私が打ち返す。それで感覚を覚えて。こういう行動をした時に自分に隙ができるポイント、逆に自分が相手の隙だと思うポイントを覚えるの。そうすればこちらの攻撃も、こちらの隙もコントロールできるようになるわ」
「相手にポイントを絞り込ませないってことだな?」
「そういうこと。よくわかってるじゃない」
「一応、俺の師匠はフレイアだからな。師匠に恥ずかしい思いはさせんさ」
「カッコイイこと言うじゃん。言葉だけじゃなくて、ちゃんと行動でも示してね」
「善処します」

 一礼してから右拳を胸の前へ、左手は開いて指先を相手に向ける。

「いくぞ!」

 魔法は身体強化だけ。フレイアも俺に合わせてくれているのか、エンハンスではなく純粋な魔法力で身体を強化しているように見えた。

 右で軽くジャブを放つ。フレイアが左に避けるのを見てから左手を伸ばして服を掴みにいった。

「甘い」

 左への移動はフェイク。すぐに切り替えしてきて、こちらの右拳の戻り際を使って綺麗に避けていた。

 サイドステップで彼女の後を追う。今度は左拳でのジャブ。一発、二発、三発。こちらは顔、胴体、肩口と的を散らしているのに当たらない。

 もう一発と左拳を出した時、フレイアが重心を下げて突っ込んできた。こちらの攻撃を避けてボディ狙いか。

 右手の平を相手に向けて、胸の前で防御の体勢を取った。

「そうすると思ってた」

 が、フレイアは攻撃を仕掛けてこなかった。俺の脇をすり抜けて、あっという間に右側面に回り込まれた。

 ここで間違いが一つ。彼女の動きを目で追ってしまったこと。わかっていても咄嗟の反射には抗えない。

 腹部に衝撃が走る。次の瞬間には吹き飛び、俺は地面に倒れ込んでいた。

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