それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈expiry point 2-Disaster Again〉 十話

 ふと、優帆が俺を避けるようになった時のことを思い出した。避けると言っても学校内でのみで、うちには普通に来てたような記憶がある。

「お前さ、なんで急に俺を避けるようになったの?」

 いい機会だと思って聞いてみた。どんな答えが返ってきてもいいように、ちゃんと覚悟はしておこう。

「別に、避けてないし」
「いやいや嘘じゃん。中三くらいから全然学校で話さなかったじゃん。高校に入ってからもそうだったし」
「別になんとなくだし」
「人のことオタクだのなんだのと言いながら、アニメも漫画もゲームも好きじゃん。正直俺はどうしたらいいのかわからんかったわ」
「じゃあ、今はどうしたらいいのかわかるの?」
「まあな。一緒にいれば昔とあんまりかわんねーし。で、なんで避けるようになったわけ?」

 一瞬だけ俺の方を見て、すぐに目をそらした。近くにあったクッションを抱きかかえ、体育座りをしはじめた。クッションで口元を隠し、ちょっと不機嫌そうにしている。

「急に、大きくなったから」
「正直に意味がわからない。なにが? 身長が?」
「そう。中学校に入った時は私の方が大きかった」
「そのせいでお前にはだいぶいじめられたような気がするわ。腕力でも勝てなかったし」
「中学二年になる頃には同じくらいになってて、二年生の後半にはもう追い抜かれて、三年からはもう私の身長は伸びなくて、イツキの身長だけ伸びてった」
「そりゃあね、男子ですから伸びますよ。つかそれが嫌だったの? そんなくだらないことで?」
「私にとってはくだらなくないもん」
「だってしょうがないだろ、そんなもん。自分で制御できるもんじゃない」

 優帆の身長は双葉と同じくらい、つまり小柄な方だ。俺の身長百七十ちょっとだとしても、確かに二十センチくらいは差がある。

「見上げないと話ができなくなってた。このまま伸び続けてどこかに行っちゃったら、ヤダな、って、思っ、て」

 クッションで完全に顔を隠してしまった。

 ツンケンしてるかと思ったら妙に素直で、強引だと思えばしおらしくて。そこが良いところなんだろうけど。

「伸び続けるって、そんなことあるわけねーだろ。それにどっか行ったりなんてしねーよ。学力がすげー高いわけでもないから、大学にしろ専門にしろ短大にしろ就職にしろ、俺は実家から通うつもりでいるしな」
「どこにも、いかない?」
「だからいかねーってば。そんな妄想で避けんなや。ったく、無駄に考えて損したわ」

 ソファーの背もたれに腕を乗せて天井を仰ぐ。憎まれ口を叩くのは俺も優帆も同じだ。でも内心ちょっと安心した。嫌われたわけじゃないんだと、本人の口から聞けたのはいいことだ。

 嫌いな人間の家に来るわけはないんだけどな。メンタル弱者はいろいろと考えてしまうものだ。

「そっか、行かないのか」

 チラリと、横目で彼女の方を見た。

 格好はさっきと変わらない。口元にクッションを当てて体育座りをしていた。けれど目を細め、心なしか頬が赤く染まっているように見えた。

 かと思ったら「なに見てんのよ!」と言われてクッションを投げられた。もうなにがしたいのかがわからない。女って生き物は難しいなと、この時改めて思うのだった。

 それから、今ではゲームセンターに置いてない格闘ゲームをして時間を潰した。負けが込んで来たタイミングで「ごはんだよー」と呼ばれてしまった。優帆の勝ち誇った顔が憎たらしかった。

 三人で食事をし、終わったらまたゲームをして、今度は二人だけでお風呂にいってしまった。「覗くなよ」とは言われたが、俺にそんな勇気はない。双葉に嫌われるのはこれからの人生にも関わる。

 それに、俺にはやることがあった。

 二人がリビングからいなくなったのを確認し、急いで夕食を用意した。お盆に乗せて階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込んだ。

「これ、今日の夕食な」
「う、うん。ありがと。なんで息切れてるの?」
「急いで来たからに決まってんだろ……友人がきててな、いつもなら双葉の目を盗むだけでいいんだが、今日はなかなか難しい」
「なるほど。そんなに急がなくてもいいよ? 双葉が寝たあとでもいいし。お風呂にも入らせてもらってるわけだしさ、私のことは一番最後でいいよ」

 そう言ってもらえるとありがたい。というかフレイアの株が俺の中でどんどん上がっていく。美人で気遣いも出来て優しくて、こんな女の子いたら誰だって放っておかないだろう。

 なによりも巨乳だしな。

「じゃあ食器はあとで取りに来るから、ゆっくり食べてて」
「おっけー。ありがとね、イツキ」
「いいえ、こちらこそ」

 彼女の爽やかな笑顔に、俺も笑顔で返した。

 ドアを閉めてすぐに階下に戻った。これくらいの時間なら、さすがに二人も出てこないだろう。

 リビングに入る前に、何故か脱衣所のドアが開いた。

「あっ」
「えっ」

 おーっと、ここでバスタオル一枚の優帆とエンカウントしてしまったー!

 なんていう脳内アナウンスが流れてきた。

「お、おま、なんで……」
「忘れ物したから、取りに行こうとしただけなんだけど? アンタはなんでリビングから出てきてるわけ?」
「いやいやいや! ここ! 俺の家! 自分の部屋に戻って怒られるのおかしいでしょ!」
「うるせー! そんな言い訳聞きたくねーんだよ!」

 強烈なビンタをくらってしまった。一瞬目の前にお星様が見えたぞ。

 そのままプリプリしながら脱衣所に戻っていく優帆。その背中や首筋に、若干だが色気を感じた。そんなこと言ったらビンタじゃ済まないから、一旦思考をリセットしよう。

 リビングに戻ってソファーに座った。チャンネルを変えてニュースに切り替えた。

「はー、ひでぇ目に遭った」

 頬を擦りながら深く腰掛ける。レベルが上がって痛みに耐性ができたかと言えばそれも違うらしい。いや、もしかするとライセンスの概念というのは持っている時にしか発動しないのかもしれない。あとで確かめてみよう。

 五十型の大きめのテレビからニュースが流れてくる。その中で、奇妙なニュースに目が止まった。

「怪事件発生……?」

 最近になって「人であって人でないもの」の存在が世の中を騒がせているらしい。県内で二件ほど、他県にはまだそういった出来事はないようだ。

 ニュースでは人型の爬虫類らしい生き物が暴れている動画や、大きな猫のようななにかの写真が映し出されていた。いずれも警察によって射殺されたらしいが、その後どうなったのかまでは報道されていない。まだ死亡事件までには発展していないみたいだった。

「これ、間違いなくあれだよな」

 俺たちが戦った奴らの仲間だと見るのが正解だと思う。死亡者がいないことは幸いだが、こういう事件はこれからも増えてくるだろう。早くなんとかしなければ、俺やフレイアだけの問題ではなくなってくる。あんなモンスターと戦えるヤツなんて、この世界では限られてくる。今は拳銃でなんとかなったとしても、いずれは通用しなくなる。それは、あのモンスターと戦った俺だからこそわかることだ。

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