それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 2-Disaster Again〉 一話
ゆっくりと目をあけた。起き上がって自分の身体を見る。
再び現実世界に戻ってきた。
隣を見ると、前回とは違ってちゃんとした服装のフレイアが眠っていた。
「起きてくれフレイア」
二度、三度と肩を揺らすとフレイアの目蓋が開かれていく。
「イツキ……? ああ、こっちの世界に来たんだ……」
フレイアの顔が苦痛に歪んだ。辛そうに頭を抑えて、呼吸も心なしか乱れている。
「どうした? 頭、痛むのか?」
「ちょっとだけね」
「今までは二人とも死んでたけど、今回は俺だけが死んだ。もしかしたらそれが関係してるのかもしれないな」
「かも、しれないわね。アナタを殺した直後に私も意識を失ったっぽいからよくわからないけど。悪いんだけど頭痛薬とかもらえる?」
「おう、ちょっと待っててくれ」
頭からタオルケットをかけ、急いで階下に降りる。薬箱から頭痛薬、コップに水を汲んで部屋に戻った。
薬を飲んでから、フレイアはもう一度横になった。
「――今日、俺の妹が殺される」
「知ってる」
「双葉を殺したヤツは俺がなんとかする。お前はここで休んでてくれ」
「大丈夫よ。薬ももらったし」
「大丈夫なもんか。こんなに苦しそうじゃねーか。そんなヤツになに頼めってんだ」
「イツキがフタバちゃんを確保する。私が敵と戦う。これで完璧よ」
「青い顔してなに言ってんだか……」
「それにね、私、あの服また着たいんだ」
「あの服?」
「イツキが買ってくれたやつ。できれば持ち帰りたいなって思ってるくらい気に入ってたの」
「そんなに気に入ってたのか」
「うん。イツキのセンス、私嫌いじゃないんだ。だからさ、服をサッと買ってきて、家の中で待機するって選択肢はダメ?」
「いいけど、どうすりゃいいんだ」
「私がずっと家にいるからイツキが買ってきて。服の場所くらい覚えてるでしょ? 私が買いにいったら、敵が強かった場合にイツキも殺されちゃうし」
「おお、頭いいな。じゃねーよ。そんな場合じゃねーと思うんだが……」
そこまで言ってから頭を掻いた。フレイアの潤んだ瞳を見ていたら、それ以上の言葉が出てこなかった。
「わかった。ちょっと行ってくるわ」
レディースの服を男が一人で買うっていうのはかなり勇気がいる。しかし、ここで引き下がっては男がすたる。いや、すたってもいいような気はするが、ここは買いに行った方がいいような気がする。
頭の中はいろいろと考えすぎてぐちゃぐちゃだが、フレイアの私服姿は見たい。
双葉がいないのはわかっているので、サッと着替えてから財布と鍵とスマフォを持って家を出た。
ショッピングモールでは一直線にブティックへ。周囲の目はどうやっても気になってしまうものなので、フレイアが着られそうな服をいくつか買った。
当然、前回とは違う服だ。俺が着て欲しい服を着てもらう。うん、役得だ。全部で一万五千だったけど泣かない。
前回は夕方になるちょっと前くらいに家についたはずだ。今から帰ればお昼前には戻れるだろう。
早歩きでショッピングモールを出る。と、そこで声を掛けられた。
「一葵じゃん。一人?」
「げ、優帆……」
「げってなによ。そんなに私の顔見たくなかったわけ?」
彼女は腕を組んで不満そうな顔をした。そう、俺が出会ったのは隣の家に住む葦原優帆だ。しかもヤツの後ろには、ケバい化粧をした女が二人。「あ、深山じゃん」「超ウケル」なんて言われた。優帆は別のクラスだが、ケバい二人はクラスメイトだ。これでも中学校から一緒なので、学校ではあまり接点がなくてもお互いのことは知っている。
「見たくなかったわけじゃないさ。ただ今はちょっと急いでるからまた今度な」
そう行って横を通り過ぎようとした。が、腕をガシッと掴まれる。
「待ちなさいよ」
「おーい! 急いでるんだってホントに!」
「クッキーの感想聞いてないんだけど」
「ええ? ああ、あのクッキーか」
空に視線を向けて思考する。確か机の上に置いてそのままだったような気がするぞ。いや、制服のポケットだったか。よく思い出せないがたぶん部屋にあるだろう。
「ごめん、まだ食べてないんだ。帰ったら食べる」
「感想、百文字以上、メールで」
「わかった、わかったよ。食わなくても美味いのは知ってるから、心して食べさせてもらう」
優帆の手から力が抜け、そこでようやく自由にさせてもらえた。最後に「じゃあな!」と、手を振ってから走り出す。これ以上ここで時間を使うことはできない。なぜか若干赤面している優帆だが、正直俺にはよく意味がわからなかった。
電車に乗り、駅から家までマラソン状態で帰宅する。こんな楽しくない買い物もなかなかないだろう。すべてが駆け足過ぎて、これから敵が来るとかそういうのも忘れかけたくらいだ。
「た、ただいまはぁ」
「お、おかえり?」
部屋に入ってすぐにベッドに飛び込んだ。めちゃくちゃ疲れたぞ。冒険者としてレベルが上がったにも関わらずこんなに疲れるなんてな。
ベッドで横になる俺を無視するかのように、フレイアはビニール袋の中の服を取り出していた。俺の価値が洋服に負けた瞬間でもあるが、あの服をフレイアが着てくれると考えると割りとどうでもよくなってくる。
「おお、この前と違う」
「違う方が楽しめるかなと思って。さあ着てくれ、俺の目の前で!」
追い出されました。
ドアに背中を預けて彼女の着替えを待つ。問答無用で追い出すのはどうなんだろうか。彼女の腕力が強すぎて抵抗できなかった。あわよくば着替えシーンまで堪能してウィンウィンかなーなんて思ってたのだが。
と、横に顔を向けると双葉の部屋が目に入った。同時に、双葉が笑った顔を思い出す。
双葉のことは当然助けたい。十年以上一緒に暮らしてきた、一緒に育ってきた。今は両親が単身赴任で家にいないからアレだけど、それでも二人きりで生活できているのも妹が双葉だからだ。俺みたいなぐーたらでバイトもしないで、お小遣いはゲームや漫画やグッズで散財してしまうような俺には、双葉のようなできた妹じゃなきゃダメなんだ。
「いや、俺も相応しい兄にならねば」
ぼちぼち重い腰を持ち上げて、自分にできることを探した方がいいかもしれないな。
再び現実世界に戻ってきた。
隣を見ると、前回とは違ってちゃんとした服装のフレイアが眠っていた。
「起きてくれフレイア」
二度、三度と肩を揺らすとフレイアの目蓋が開かれていく。
「イツキ……? ああ、こっちの世界に来たんだ……」
フレイアの顔が苦痛に歪んだ。辛そうに頭を抑えて、呼吸も心なしか乱れている。
「どうした? 頭、痛むのか?」
「ちょっとだけね」
「今までは二人とも死んでたけど、今回は俺だけが死んだ。もしかしたらそれが関係してるのかもしれないな」
「かも、しれないわね。アナタを殺した直後に私も意識を失ったっぽいからよくわからないけど。悪いんだけど頭痛薬とかもらえる?」
「おう、ちょっと待っててくれ」
頭からタオルケットをかけ、急いで階下に降りる。薬箱から頭痛薬、コップに水を汲んで部屋に戻った。
薬を飲んでから、フレイアはもう一度横になった。
「――今日、俺の妹が殺される」
「知ってる」
「双葉を殺したヤツは俺がなんとかする。お前はここで休んでてくれ」
「大丈夫よ。薬ももらったし」
「大丈夫なもんか。こんなに苦しそうじゃねーか。そんなヤツになに頼めってんだ」
「イツキがフタバちゃんを確保する。私が敵と戦う。これで完璧よ」
「青い顔してなに言ってんだか……」
「それにね、私、あの服また着たいんだ」
「あの服?」
「イツキが買ってくれたやつ。できれば持ち帰りたいなって思ってるくらい気に入ってたの」
「そんなに気に入ってたのか」
「うん。イツキのセンス、私嫌いじゃないんだ。だからさ、服をサッと買ってきて、家の中で待機するって選択肢はダメ?」
「いいけど、どうすりゃいいんだ」
「私がずっと家にいるからイツキが買ってきて。服の場所くらい覚えてるでしょ? 私が買いにいったら、敵が強かった場合にイツキも殺されちゃうし」
「おお、頭いいな。じゃねーよ。そんな場合じゃねーと思うんだが……」
そこまで言ってから頭を掻いた。フレイアの潤んだ瞳を見ていたら、それ以上の言葉が出てこなかった。
「わかった。ちょっと行ってくるわ」
レディースの服を男が一人で買うっていうのはかなり勇気がいる。しかし、ここで引き下がっては男がすたる。いや、すたってもいいような気はするが、ここは買いに行った方がいいような気がする。
頭の中はいろいろと考えすぎてぐちゃぐちゃだが、フレイアの私服姿は見たい。
双葉がいないのはわかっているので、サッと着替えてから財布と鍵とスマフォを持って家を出た。
ショッピングモールでは一直線にブティックへ。周囲の目はどうやっても気になってしまうものなので、フレイアが着られそうな服をいくつか買った。
当然、前回とは違う服だ。俺が着て欲しい服を着てもらう。うん、役得だ。全部で一万五千だったけど泣かない。
前回は夕方になるちょっと前くらいに家についたはずだ。今から帰ればお昼前には戻れるだろう。
早歩きでショッピングモールを出る。と、そこで声を掛けられた。
「一葵じゃん。一人?」
「げ、優帆……」
「げってなによ。そんなに私の顔見たくなかったわけ?」
彼女は腕を組んで不満そうな顔をした。そう、俺が出会ったのは隣の家に住む葦原優帆だ。しかもヤツの後ろには、ケバい化粧をした女が二人。「あ、深山じゃん」「超ウケル」なんて言われた。優帆は別のクラスだが、ケバい二人はクラスメイトだ。これでも中学校から一緒なので、学校ではあまり接点がなくてもお互いのことは知っている。
「見たくなかったわけじゃないさ。ただ今はちょっと急いでるからまた今度な」
そう行って横を通り過ぎようとした。が、腕をガシッと掴まれる。
「待ちなさいよ」
「おーい! 急いでるんだってホントに!」
「クッキーの感想聞いてないんだけど」
「ええ? ああ、あのクッキーか」
空に視線を向けて思考する。確か机の上に置いてそのままだったような気がするぞ。いや、制服のポケットだったか。よく思い出せないがたぶん部屋にあるだろう。
「ごめん、まだ食べてないんだ。帰ったら食べる」
「感想、百文字以上、メールで」
「わかった、わかったよ。食わなくても美味いのは知ってるから、心して食べさせてもらう」
優帆の手から力が抜け、そこでようやく自由にさせてもらえた。最後に「じゃあな!」と、手を振ってから走り出す。これ以上ここで時間を使うことはできない。なぜか若干赤面している優帆だが、正直俺にはよく意味がわからなかった。
電車に乗り、駅から家までマラソン状態で帰宅する。こんな楽しくない買い物もなかなかないだろう。すべてが駆け足過ぎて、これから敵が来るとかそういうのも忘れかけたくらいだ。
「た、ただいまはぁ」
「お、おかえり?」
部屋に入ってすぐにベッドに飛び込んだ。めちゃくちゃ疲れたぞ。冒険者としてレベルが上がったにも関わらずこんなに疲れるなんてな。
ベッドで横になる俺を無視するかのように、フレイアはビニール袋の中の服を取り出していた。俺の価値が洋服に負けた瞬間でもあるが、あの服をフレイアが着てくれると考えると割りとどうでもよくなってくる。
「おお、この前と違う」
「違う方が楽しめるかなと思って。さあ着てくれ、俺の目の前で!」
追い出されました。
ドアに背中を預けて彼女の着替えを待つ。問答無用で追い出すのはどうなんだろうか。彼女の腕力が強すぎて抵抗できなかった。あわよくば着替えシーンまで堪能してウィンウィンかなーなんて思ってたのだが。
と、横に顔を向けると双葉の部屋が目に入った。同時に、双葉が笑った顔を思い出す。
双葉のことは当然助けたい。十年以上一緒に暮らしてきた、一緒に育ってきた。今は両親が単身赴任で家にいないからアレだけど、それでも二人きりで生活できているのも妹が双葉だからだ。俺みたいなぐーたらでバイトもしないで、お小遣いはゲームや漫画やグッズで散財してしまうような俺には、双葉のようなできた妹じゃなきゃダメなんだ。
「いや、俺も相応しい兄にならねば」
ぼちぼち重い腰を持ち上げて、自分にできることを探した方がいいかもしれないな。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
75
-
-
35
-
-
361
-
-
22803
-
-
381
-
-
63
-
-
0
-
-
147
-
-
49989
コメント