それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 2ーOne loss〉 七話

「ああそうだ、ここは俺とグランツとイツキの部屋な。女二人は隣の部屋で寝ろ」

 一応そういうのはちゃんとしてるのね。

 それだけ言い残して、ゲーニッツは部屋から出ていってしまった。

「なあフレイア、ゲーニッツはどこ行ったんだ?」
「たぶん酒場。もう仕事もないから呑みに言ったんだと思う」
「自由だな、あのオッサン」
「それが良いところでも悪いところでもあるわ」
「それと今晩泊まるのはいいんだけど、カルドナっていうのは町でいいのか?」
「カルドナは都市ね。〈蒼天の暁〉の本拠地でもある。政府の人間も買収してあるからかなり自由よ」
「なんか役所の闇を見た気がするわ……」
「たーのもー!」

 フレイアにいろいろと質問していると、ドアが大きく開かれた。小さな男の子? 女の子? が二人。双子かな。片方は目尻がつり上がった快活そうな子で、髪の毛を後ろで束ねているが伸ばせば腰くらいまであるかもしれない。光を跳ね返す艶やかな髪の毛は深い蒼だ。もう一人は目が細く物静かそうな子。髪は肩まであって長めのボブカットみたいな感じ。こちらも髪の毛は艷やかで、けれど色は薄い水色だ。

 二人共同じ服装で、おそらくはなにかの制服だ。青一色に白いラインが入っていて、帽子、コート、靴、全部そんな感じ。

「あれ、ヒュンタイク姉妹じゃないか。どうしたんだい?」

 グランツが笑顔で双子を迎え入れる。知り合いみたいだけど関係性が見えない。

「なあグランツ、あの二人は?」
「そうか、イツキは初めてだったね。この二人は軍事警察、通称軍警の軍人だ。一応軍警には警備部と軍事部があるんだけど、ヒュンタイク姉妹は軍事部のホープって言われてるくらい優秀なんだ。階級はまだ下の方だけど実力は折り紙付き」
「へぇ、あんなにちっちゃいのにすごいんだな」
「おいお前! 今私たちを見てちっちゃいって言ったな! 私もリアも十六だぞ!」

 ボブカットの少女がそう言った。瞳は大きいが目尻が上がっていて、彼女の強気な内面が押し出されているようだ。

「ご、ごめん。というか俺と一個しか違わないのか……」
「なんだ、お前十五歳なのか」
「ちげーよ十七だよ」
「どっちでもいい。今後私たちのことをちっちゃいなどと言うな。いいな?」
「わかったわかった。もう言わないよ……」

 小さい身体に大きな声。声が高いので耳がキンキンする。

「ねえ、アナタは誰? 見たことないわ」

 気がつくと、もう一人の女の子が俺の近くまで来ていた。近いというか近すぎる。ほぼ目の前だ。

「俺の名前はイツキ=ミヤマだ。キミは?」
「私はシンドリア=ヒュンタイク。あっちは妹のアルセイナ。私もアルもレベルは105。私のジョブは双剣士だけど、法術士と弓術士をサブジョブにしてる。アルは鎌装士で、サブジョブは魔術士と投具士。私は彼女をアルと呼び、彼女は私をリアと呼ぶ。イツキもそうしてくれるとありがたい」
「ちょ、ちょっとリア! こんなよくわからないヤツになに言ってんのよ!」
「よくわからなくない。ゲーニッツにグランツ、それにメディアとフレイアもいる。新しいギルドメンバー、ということで間違いないと思う」
「さすがリア、よくわかってるじゃないか。いい子だ」

 ニュッと手がノビて来て、リアの頭を優しく撫でた。グランツだ。彼が頭を撫でると、リアは嬉しそうに微笑んだ。

「やめろタラシ! リアに手を出すな!」

 アルによってグランツの手がバシッと打ち上げられた。彼女たちの方が身長が低いのではたき落とすということができないんだろう。

「ごめんごめん。で、今日はどんな用事かな?」
「今日も依頼だ。ホープヴァリー洞窟に出向いた冒険者が次々に失踪している」
「失踪というか、ダンジョンから帰ってこない。だからホープヴァリーに行って、どういう状況なのかを確認して欲しい。もしも本来いるモンスター以外がいるならばそのモンスターも倒してもらいたい。モンスターでなく人であった場合、できるれば捕獲、できなければ殺害も辞さないというのが政府の考えです」

 リア、アルの順に概要を説明してくれた。

 なるほどな、この依頼っていうのがクエストなんだな。うん、異世界にきたなって感じがするな。これで死んだりしなきゃ、これでもかっていうくらい楽しんだのに。レベルとかスキルとかクエストとか、俺みたいなゲーム好きな人が面白いと思わないわけがない。

 今となっては面白さもクソもないけど。

 けど、なんというか、別の感情は少しだけある。それがなんであるかは、正直俺にもよくわからない。もやもやとしていて、でも妙な義務感があるような、そんな気がする。

「ホープヴァリーか。推奨レベル100のダンジョンだね。それならゲーニッツがいなくてもなんとかなるかな。二人はゲーニッツがいた方がいいかい?」
「どっちでもいいわ。ただ、いた方が安心という意味ではいてくれた方がいいかもしれないわ」
「ボクらの中では一番高レベルだから、その意見もよくわかる。でもあの人もう呑んじゃってると思うんだよなぁ……」
「ゲーニッツは酒を呑むとなにしでかすかわからないし、それならいない方がいいわ。グランツ、メディア、フレイアがいれば問題ない。それに行くなら早めに行きたい。こちらも仕事なもんでな」
「おーけー、じゃあグランツにはボクから連絡を入れておくね。問題はイツキ、なんだよね」

 視線が俺に集まる。全員俺よりもレベルが高い上、ホープヴァリー洞窟ってダンジョンが推奨レベル100なんだ。俺が注目されていても仕方ないか。

 そんな視線を遮ったのはフレイアだ。

「大丈夫よ、推奨レベルよりも高い冒険者ばっかりなんだし、一人くらい低レベルがいたって問題ないわ」

 レベル50ってまだ低レベル帯なのか……普通のRPGなんかじゃ中盤とかに差し掛かっててもおかしくないはずなんだが。まあダンジョンの一つもクリアしてないんだし低レベルと言われても反論はできない。

「フレイアがいいと言うのだ、いいんじゃないか?」

 一口お茶を飲み、メディアが微笑みながらそう言った。この感じ、間違いなく面白がってるな。この人は結構Sっ気があるタイプだ。

「今回のクエストはホープヴァリー洞窟を踏破しろっていう内容じゃないし、ヤバくなったら転送装置で先に帰ってもらえばいいか。じゃあ、イツキも一緒で」

 この男、しれっと言ってくれるじゃないか。

「おいおい大丈夫なのかよ。俺、マジでなんの役にも経立たないぞ。レベルは50過ぎてるけどまともにモンスターとだって戦ったことないんだぜ? どういうモンスターがどういう行動してくるかっていうパターンへの対策もしてない」
「ダイジョーブダイジョーブ、テキトーに殴ってレベルでも上げててよ。困ったらボクらで倒すからさ。だからキミはクエストとか関係なく、レベル上げとかダンジョン視察とかその程度だと思ってくれればいい」
「お荷物がいても問題ないってことか」
「ホープヴァリーは何度も潜ってるからね。そうと決まればサクッと終わらせちゃおう」

 その声を聞いて周りが立ち上がる。つられて俺も立ち上がった。

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