それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈actuality point 2ーOne loss〉 三話
「人混みに紛れていれば私たちが手を出さないとでも思った?」
フレイアが声をかけたその人物は、前回俺たちが話しかけた商人だった。腕輪や指輪が何個かなくなっているところを見て、装飾品で魔法力を隠していたんだとわかった。
「ちっ、面倒なことになったな」
そう言いながら、商人だった男は右手を上げる。すると、黒装束を着た人たちが一瞬にして彼と俺たちの間に割り込んできた。顔には黒い仮面、黒いマントを羽織り、マントの下には薄そうな黒い鎧。下半身は膝当てくらいなもので、ほぼただのズボンと言ってもいいがこれもまた黒い。
「てめぇ、俺たちと接触できるように商人たちの最後尾にいたんじゃねーだろーな」
「ふん、なにも知らないガキだと聞いていたが勘が鋭いな」
妙な違和感が頭の中をグルグルし始めた。緊張感のせいか聴き逃しそうになったが、今の話は絶対におかしい。
「今お前『なにも知らないガキだと聞いていた』って言ったな? どういうことだよ。どこで俺のことを知った? 誰に俺のことを聞いたんだよ」
俺は元々この世界にはいないはずの人間だ。だから俺のことをある程度知っているのはフレイアだけと言ってもいい。なのに俺の情報を誰から聞いたんだ。フレイア以外にいないけど彼女はずっと俺と一緒にいたんだ。
「そんなもの、俺たちの誰かを捕まえて聞けばいいだろ。まあお前らが生きてる保証はないけどな」
商人は腕時計に目をやった。なんだか焦っているような気がしないでもないが。
「イツキ、一気に畳み掛けるわ。大丈夫?」
「ああ、了解」
なるほど、この町が黒い膜に覆われる前になんとかしようってことか。逆に商人はその黒い膜が発生するを待っているはず。
フレイアが動き出した。全力疾走の彼女についていくのは不可能だから、必然的に背中を追いかける形になる。
あの黒いのは前回俺たちを攻撃してきたヤツだ。動きが速く、レベル100を超えるフレイアでさえ手足を切断された。暗闇の中じゃないにしてもまともに相手にはできそうにない。
まともには、だけど。
「女を殺せ! 男は連れ帰る! 五体満足で捕獲しろ!」
マントの連中が一斉に動き出す。かなりの速度だが日は高く、目で追えないほどではない。でもそれは冒険者だからで、一般人は間違いなく目で追えないだろう。住民に被害がいかないように、今はそれが大事かもしれない。
「イツキ!」
「わかってるよ! Aスキル、レプリカモーション!」
スキルを発動すれば、俺はマントのやつらと同じ速度で移動できる。攻撃力だってそれに近いところまで上昇するだろう。
実はこの町を走っている最中にいろいろ試していた。このレプリカモーションは「発動して相手の動きをコピーする」わけではない。目で見てきた動きをスキルによって再現する能力なのだ。だからインプットには能力を使わない。前回マントの兵士たちの動きを見続けたからこそ今それが発揮できる。
俺よりも兵士たちの方がレベルが上だ。だからアイツと完全に同じ動きができるわけじゃない。だが兵士たちも商人も面食らってる。これでいい、あとは一気に近付いて商人の方を締め上げるだけだ。
一瞬の隙をついて兵士たちをすり抜けた。
そしてトントン拍子にことが運び、俺は商人の後ろに周り腕を捻り上げた。無理矢理速度を上げたせいか、若干だが身体が重く感じる。
でもなんだろう、こんなに簡単に拘束できていいのだろうか。抵抗もほとんどなかったような気がする。
「これで形勢逆転だな。黒い鎧のおっさんはお前らの指揮官かなにかか?」
「ディートリヒを知ってるのか? ああ、なるほど。しかしヤツは俺の指揮官というわけではない。俺もヤツも地位は一緒だからな」
「地位が一緒……? あのイカツイおっさんとアンタが?」
「お前はなにか勘違いをしているな。俺は商人の格好をしているだけだぞ? むしろこうやって近付いてきてくれたことをありがたく思ってるくらいだ」
ブワッと、商人から空気が吹き出したような気がした。空気じゃない、この感じはめちゃくちゃ濃度が濃い魔法力だ。
急いで腕を離して後退するが、商人が振り向いて追ってきた。
「本当に、近付いてくれてありがとうよ」
腕を掴まれた。瞬時に全身を駆け巡るビリビリとした感覚。目の前がチカチカして、電気を流されたのかとわかるのに少しだけ時間がかかってしまった。その間に、俺は地面に組み敷かれてしまった。うつ伏せの状態、腕を後ろで締め上げられてしまっている。少し力を入れられただけで肩を外されてしまうだろう。現状でもかなり痛い。
「あの女はどうでもいいんだよ。必要なのはお前だ。だがまあ、よく見ればいい女じゃないか、いろいろと使い道がありそうだ。殺そうと思っていたがもったいないな」
商人が舌なめずりをした。視線の先にはフレイアがいる。彼女の身体を見て辱めているような気がした。
「ふざけんな……! お前らの好きになんてさせてたまるかよ!」
「目上に対してお前ってのは酷いだろ、俺にはフーゴって名前があるしな。で、どうする? レベルも低い、筋力も魔法力もない、スキルも中途半端。一体お前になにがあるんだ? どれだけ吠えても、吠えるだけじゃなにも変わらない。お前にはなにかを変える力なんてないんだよ」
気がつけばフレイアも地面に組み敷かれてしまっている。俺が人質になってるからだと、奥歯を強く噛み締めた。
前回も今回も、結局俺が足を引っ張った。少しレベルが上がったからって、少しスキルの使い方を学んだからって、少し相手の情報を持ってるからって、そう簡単に未来を変えることなんて出来やしないんじゃないか。こんな状況じゃ、そうやって自分を追い詰めることしかやれることなんてない。
目の前がぼやけていく。また彼女を殺してしまう。それ以上に彼女を辱めてしまう。俺のせいで、また誰かが不幸になる。
「下を向くな! お前はまだ生きてる!」
叫び声が俺の元に届いた。
顔を上げる。フレイアがマントの男に顔面を蹴られていた。サッカーボールを蹴るようにして振り抜かれた足。鼻血も出てるし、口内が切れたのか口端から血も出ていた。
カーっと顔が熱くなった。今すぐにでも振りほどいて彼女の元に走って行きたい。でもそれは無理だ。
「無理だからなんなんだよ」
「なんだ、まだやる気なのか。まあ無理矢理動いたら肩が外れるだろうけどな。めちゃくちゃ痛いぞ? それに外れた肩の直し方とか知らないだろ? ここは大人しく――」
「んなことはどうだっていいんだよおおおおおおおおおおおおおお!」
フーゴが太っているせいかやたら重い。でも、ここを抜けられればなにかが変わるはずだ。
ギリギリと骨同士が噛み合い、でも無理をしている音が耳元で鳴っていた。耳元だけじゃなくその振動が体中を伝わってくる。
痛い痛い痛い痛い。そんなの当然だ。わかってたことだ。でもまだましな方だ。
「死ぬよりは痛くない!」
無理矢理身体を捻ってフーゴの元から抜け出した。ずっと歯を食いしばっていたせいか、もうすでに口内の感覚がないに近い。左肩が外れたはずなのに全身が痛くて、誰でもいいから助けて欲しいって心の底から叫びたい。
フレイアが声をかけたその人物は、前回俺たちが話しかけた商人だった。腕輪や指輪が何個かなくなっているところを見て、装飾品で魔法力を隠していたんだとわかった。
「ちっ、面倒なことになったな」
そう言いながら、商人だった男は右手を上げる。すると、黒装束を着た人たちが一瞬にして彼と俺たちの間に割り込んできた。顔には黒い仮面、黒いマントを羽織り、マントの下には薄そうな黒い鎧。下半身は膝当てくらいなもので、ほぼただのズボンと言ってもいいがこれもまた黒い。
「てめぇ、俺たちと接触できるように商人たちの最後尾にいたんじゃねーだろーな」
「ふん、なにも知らないガキだと聞いていたが勘が鋭いな」
妙な違和感が頭の中をグルグルし始めた。緊張感のせいか聴き逃しそうになったが、今の話は絶対におかしい。
「今お前『なにも知らないガキだと聞いていた』って言ったな? どういうことだよ。どこで俺のことを知った? 誰に俺のことを聞いたんだよ」
俺は元々この世界にはいないはずの人間だ。だから俺のことをある程度知っているのはフレイアだけと言ってもいい。なのに俺の情報を誰から聞いたんだ。フレイア以外にいないけど彼女はずっと俺と一緒にいたんだ。
「そんなもの、俺たちの誰かを捕まえて聞けばいいだろ。まあお前らが生きてる保証はないけどな」
商人は腕時計に目をやった。なんだか焦っているような気がしないでもないが。
「イツキ、一気に畳み掛けるわ。大丈夫?」
「ああ、了解」
なるほど、この町が黒い膜に覆われる前になんとかしようってことか。逆に商人はその黒い膜が発生するを待っているはず。
フレイアが動き出した。全力疾走の彼女についていくのは不可能だから、必然的に背中を追いかける形になる。
あの黒いのは前回俺たちを攻撃してきたヤツだ。動きが速く、レベル100を超えるフレイアでさえ手足を切断された。暗闇の中じゃないにしてもまともに相手にはできそうにない。
まともには、だけど。
「女を殺せ! 男は連れ帰る! 五体満足で捕獲しろ!」
マントの連中が一斉に動き出す。かなりの速度だが日は高く、目で追えないほどではない。でもそれは冒険者だからで、一般人は間違いなく目で追えないだろう。住民に被害がいかないように、今はそれが大事かもしれない。
「イツキ!」
「わかってるよ! Aスキル、レプリカモーション!」
スキルを発動すれば、俺はマントのやつらと同じ速度で移動できる。攻撃力だってそれに近いところまで上昇するだろう。
実はこの町を走っている最中にいろいろ試していた。このレプリカモーションは「発動して相手の動きをコピーする」わけではない。目で見てきた動きをスキルによって再現する能力なのだ。だからインプットには能力を使わない。前回マントの兵士たちの動きを見続けたからこそ今それが発揮できる。
俺よりも兵士たちの方がレベルが上だ。だからアイツと完全に同じ動きができるわけじゃない。だが兵士たちも商人も面食らってる。これでいい、あとは一気に近付いて商人の方を締め上げるだけだ。
一瞬の隙をついて兵士たちをすり抜けた。
そしてトントン拍子にことが運び、俺は商人の後ろに周り腕を捻り上げた。無理矢理速度を上げたせいか、若干だが身体が重く感じる。
でもなんだろう、こんなに簡単に拘束できていいのだろうか。抵抗もほとんどなかったような気がする。
「これで形勢逆転だな。黒い鎧のおっさんはお前らの指揮官かなにかか?」
「ディートリヒを知ってるのか? ああ、なるほど。しかしヤツは俺の指揮官というわけではない。俺もヤツも地位は一緒だからな」
「地位が一緒……? あのイカツイおっさんとアンタが?」
「お前はなにか勘違いをしているな。俺は商人の格好をしているだけだぞ? むしろこうやって近付いてきてくれたことをありがたく思ってるくらいだ」
ブワッと、商人から空気が吹き出したような気がした。空気じゃない、この感じはめちゃくちゃ濃度が濃い魔法力だ。
急いで腕を離して後退するが、商人が振り向いて追ってきた。
「本当に、近付いてくれてありがとうよ」
腕を掴まれた。瞬時に全身を駆け巡るビリビリとした感覚。目の前がチカチカして、電気を流されたのかとわかるのに少しだけ時間がかかってしまった。その間に、俺は地面に組み敷かれてしまった。うつ伏せの状態、腕を後ろで締め上げられてしまっている。少し力を入れられただけで肩を外されてしまうだろう。現状でもかなり痛い。
「あの女はどうでもいいんだよ。必要なのはお前だ。だがまあ、よく見ればいい女じゃないか、いろいろと使い道がありそうだ。殺そうと思っていたがもったいないな」
商人が舌なめずりをした。視線の先にはフレイアがいる。彼女の身体を見て辱めているような気がした。
「ふざけんな……! お前らの好きになんてさせてたまるかよ!」
「目上に対してお前ってのは酷いだろ、俺にはフーゴって名前があるしな。で、どうする? レベルも低い、筋力も魔法力もない、スキルも中途半端。一体お前になにがあるんだ? どれだけ吠えても、吠えるだけじゃなにも変わらない。お前にはなにかを変える力なんてないんだよ」
気がつけばフレイアも地面に組み敷かれてしまっている。俺が人質になってるからだと、奥歯を強く噛み締めた。
前回も今回も、結局俺が足を引っ張った。少しレベルが上がったからって、少しスキルの使い方を学んだからって、少し相手の情報を持ってるからって、そう簡単に未来を変えることなんて出来やしないんじゃないか。こんな状況じゃ、そうやって自分を追い詰めることしかやれることなんてない。
目の前がぼやけていく。また彼女を殺してしまう。それ以上に彼女を辱めてしまう。俺のせいで、また誰かが不幸になる。
「下を向くな! お前はまだ生きてる!」
叫び声が俺の元に届いた。
顔を上げる。フレイアがマントの男に顔面を蹴られていた。サッカーボールを蹴るようにして振り抜かれた足。鼻血も出てるし、口内が切れたのか口端から血も出ていた。
カーっと顔が熱くなった。今すぐにでも振りほどいて彼女の元に走って行きたい。でもそれは無理だ。
「無理だからなんなんだよ」
「なんだ、まだやる気なのか。まあ無理矢理動いたら肩が外れるだろうけどな。めちゃくちゃ痛いぞ? それに外れた肩の直し方とか知らないだろ? ここは大人しく――」
「んなことはどうだっていいんだよおおおおおおおおおおおおおお!」
フーゴが太っているせいかやたら重い。でも、ここを抜けられればなにかが変わるはずだ。
ギリギリと骨同士が噛み合い、でも無理をしている音が耳元で鳴っていた。耳元だけじゃなくその振動が体中を伝わってくる。
痛い痛い痛い痛い。そんなの当然だ。わかってたことだ。でもまだましな方だ。
「死ぬよりは痛くない!」
無理矢理身体を捻ってフーゴの元から抜け出した。ずっと歯を食いしばっていたせいか、もうすでに口内の感覚がないに近い。左肩が外れたはずなのに全身が痛くて、誰でもいいから助けて欲しいって心の底から叫びたい。
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