それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 2ーOne loss〉 二話

 前回は「なんとなく」この町に入った。でも今回は「明日に進むため」足を踏み入れる。耳入ってくる雑踏や馬車の車輪の音、商人たちの声なんかも違って聞こえる。

 ポケットからライセンスを取り出す。現在のレベルは45。たぶん向こうで死んだ時にレベルが上がったんだろう。向こうの世界、もとい現実世界で俺たちを殺した相手は俺よりも遥かにレベルが高い。だからあんなわけがわからない接触だけでもレベルが上がった。

 俺が思っているよりも、現実世界はおかしなことになってるんだなって、ようやく自覚できたような気がする。

 前回と同じように、町の住人は大人しかった。建物も廃れ、何度も見たいと思うような場所ではない。

「フレイア」
「なにかあった?」
「前回お前が戦ったヤツの魔法力とかってわからないか? それがわかれば話が早いんだけど」
「ちょっと難しいわね。あれだけ大掛かりな仕掛けをした人たちが魔法力を垂れ流すようなマネをするとは思えない。きっとなにかしらの方法で自分たちの魔法力を隠しているに違いないわ」
「なにかしらの方法……例えばどういう方法があるとかっていうのもわからない?」
「そうだな、抗魔法適正がある布で服やマントを作って身を包むとか。魔法力を隠蔽できる魔導器を使うとか」
「服やマントの方はなんとなくわかる。でもマドウキってのはなんだ?」
「例えば魔法力を隠蔽する魔法はない。結局魔法を使っている時点で隠蔽できていないから。前者も後者もなにかしらの道具を使うことになるのだけれど、前者は「魔法に抵抗がある布でなにかを作った物」で、後者は「そういった魔法を染み込ませたそれ専用の道具」ということになる。前者は先天的に力を持っているけれど、後者は人工的に作らないといけない。魔法力が高いめちゃくちゃ強い剣があったとして、それは自然発生するものではないから後者になる。それを魔導器という」
「なんとなーくわかった。つまり、どっちを使われたにせよ魔法力を感知して見つけ出すのは困難ってことだな」
「そういうこと。逆を言えば、特殊な装飾品なんかを身に着けた人はかなり怪しい。指輪とかピアスとかになると難しいかもしれないけど、マントとか腕輪とかならなんとか」
「捜してみるか?」
「それもありね、どうせ時間がきたら迎え撃つわけだし。一度捜してみるのもいいかもしれないわ」
「んじゃその方向でいってみますか」

 前回は大通りを直進したのだが、今回は左側の壁に沿って門に向かう。中央を突っ切るよりも時間がかかりそうだし、このままだと門に到着する時間が前回襲われた時間になるかもしれない。

 ということで、ゆっくり歩いているわけにもいかなくなった。壁沿いを二人でダッシュすることになった。まずは右側の壁から見ていくことにした。

 走り出すと、この町にいる人たちが皆こちらを見てくる。それもそのはず、廃れた町で男女揃って走っていたら、そりゃ周囲から見られても仕方ない。

「なあフレイア」

 周囲を見渡しながらも声をかけた。

「なに? 不安になっちゃった?」

 俺もフレイアも息は切れていない。レベル上昇と同時に体力もかなり上がるらしく、普段運動不足の俺にも割りと余裕がある。

「いや、腕とか足とか切られてめちゃくちゃ痛かったよなーとか思って」
「そりゃ痛いよ。死地で戦うのは何回かあるから、ちょっとやそっとの窮地じゃ脳内麻薬なんて出ないからね。腕も脚もってなると、ちょっと気を抜いたら気絶しちゃいそう。でもイツキだって、もう二度とお腹切られたくないでしょ?」
「切られたっていうか真っ二つな。二度とごめんだよ。痛いのと苦しいのと熱いのと気持ち悪いのとっていろいろ混ざってよくわからなくなる。だから、なんとかしよう」
「ええ、私も同じ気持ちよ」

 フレイアの方を見ると、彼女はニコリと笑ってくれた。気恥ずかしくなってすぐに顔を反らしたが、彼女の優しさや強かさが非常に心強く感じていた。

 まあ、間違いなく俺は彼女に惹かれているんだろうなと、その時改めて思った。美人だからってだけじゃない、こうやって寄り添ってくれることが嬉しかった。今までそういう経験がないから、というのは考えないようにしたい。別に童貞じゃないし、俺。

 壁沿いは日が当たらない場所がかなり多く、表通りと同じように住民が座っている。それ以外にも、いかにも「アウトロー!」って感じの強面のオジさまなんかもかなり多い。中には商人たちもいて、奴隷っぽい人たちを引き連れていた。なぜ奴隷っぽいかと言うと、首や手や足に重そうな鉄の輪を付けられていたからだ。瞳に生気はなく、その状態を甘んじて受け入れているような人も多かった。

 奴隷の人たちだけじゃない。強面の人も商人も、ここに来るまでに様々な闇を抱えていそうだ。でもきっとそれを知ることはないだろう。彼らはそうやって生きてるんだし、俺は違う生き方をしてるんだ。どんな事情があったにせよ、今は構っている時間なんてない。

 急いでいると別の見方ができるようになった。

 なにかが俺たちの後を追ってきている。後ろから、横から、俺たちの速度についてこようとしているから、自分たちも速く動かなきゃいけなくなったわけだ。これは予想以上の収穫かもしれない。

「どうする、迎撃するか?」
「今はやめておきましょう。理由はわからないけど敵の足が止まったみたいだし」

 ここで俺とフレイアが同時に足を止めた。門の前にいる商人たちに行く手を阻まれたからだ。前回と同じように、門の前には馬車や牛車がひしめき合っていた。当然、商人たちもたくさんいる。この中を全力疾走しろっていうのはかなり無理がある。

「さっきまで追われていたのに、門が近付くにつれて追って来なくなった。イツキにはこの理由がわかる?」
「んなもん通れないからに決まって――」

 商人を見てハッとした。

 通れないとわかっているのであればここまでついてくる必要すらない。

 じゃあなんで俺たちを追っていたのか。違うな、なんで追って来なくなったのか。

「門の前に追っ手の仲間がいるから、か?」
「私はそう思った。この商人の中に仲間がいてもおかしくないなって」
「でも魔法力を感知させないようにしてるんだろ? どうやって見つければいいんだ? 商人に変装してるなら、そう簡単に自分からは出てこないだろ?」
「簡単じゃなければ出て来るってことでしょ?」
「出てきたとしてもその後どうするとか考えてないだろ。突然暴れだしたりすんなよ、面倒くさそうだから」

 俺の言葉を無視し、フレイアは槍を大きく振りかぶった。こうなるような気がしてたから言ったのに。

 槍の先端が光を帯びたかと思えば、今度はその光を地面に叩きつけた。衝撃波が生まれ、人も馬車も地面も、当然のように弱々しい家屋も吹き飛んだ。俺はフレイアの後ろにいたので問題はなかったが、商人たちはいろんな意味で大打撃だろう。

 周囲を覆う土煙が徐々に晴れていく、こんな衝撃波を起こされたら誰だってびっくりするだろうな。

「案外簡単だったかもしれないわね」

 土煙の中で一人の商人が立っている。こちらに手のひらを向けて衝撃波から身を守っていた。商人を守るようにして薄い青色の壁が張られている。普通の商人だってこれくらいはできるのかもしれない。冒険者が商人になることだってなくはないからだ。ただし、無防備な状態で攻撃されれば誰だって吹き飛ぶ。つまり、用意していたってことだ。俺たちを見ていたってことだ。

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