それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 1ーCommon Destiny〉 最終話
店内を見て歩くが相変わらずおしゃれな洋服が多い。こういう場所は女子と一緒じゃないと来る機会もない。が、逆を言えばこういう場所に来る資格があるということにもなる。そう、俺は女子と一緒にこういう店に来る資格があるのだ。
「なに拳握りしめてるの?」
「え、いや、なんでもないよ? で、フレイアさんはどうしたんだい?」
「急によそよそしくなるんだね。いいけど。これなんてどうかなーって」
右手には灰色のカットソー。左手には濃い色のデニムのサブリナパンツ。でもこれだと今の服装とあんまり変わらないんだよな、見た目的に。
「もうちょっとこう、アレなのないの?」
「アレなの? 露出多いのってことかな?」
「それもそうなんだけどってそうじゃなくて。もっと向こうの世界になさそうな服を着ればいいんじゃないかと思って」
「うーん、でも私に似合わなそうだし」
「フレイアならなんでも似合いそうだけどな」
「そう思う? ならイツキが選んでよ」
「どうしてそうなるのか。俺はセンスとかそういうのある方じゃないんだけど」
「いいからいいから」
フレイアにグイグイと押されて服を選ぶことになってしまった。フレイアのレベルは俺よりもずっと上なので、コイツが強引な手に出ると抵抗することそのものが無駄になる。
背中を押されながら店内を見て回る。女物の服はよくわからないけど、ようは俺がコイツに着て欲しい服を探せばいいわけだ。
趣味全開で服を数点取り、全部フレイアに渡した。当然、ちゃんと値段も計算した上で選んだ。下着以外、靴を含めて上から下まで含めて二万円。これが今俺が出せる最大の金額。懐は痛いが「こんなすごい身体した女性が好きな格好をしてくれる」という煩悩がブレーキをぶっ壊していった。
なおそんなことでお金を使ったなどと双葉には言えない。
「じゃあこれとこれとこれ」
「はいよ、じゃあちょっと待っててね」
駆け足で試着室に飛び込んでいくフレイア。態度はいつもと変わらないが、内心結構嬉しいのかなと思ってしまう。
試着室の前で待つこと数分、カーテンが思い切りよく開かれた。時々聞こえる衣擦れ音にドキドキしてしていたことは内緒だ。
「じゃーん」
「おお、素晴らしい」
頭にはベレー帽。上は薄い青のチュニック、下はエメラルドグリーンを基調としたキルトスカート。チュニックの口から肩元が出るタイプなので黒いキャミソールを追加した。足元はちょっとだけ悩んだけど赤と白のスニーカーで。
うん、素晴らしい。胸が強調されるのがなによりも素晴らしい。体つきが体つきなので露出が多くなりすぎると夜の仕事人みたいになっちゃうし、あまりにも可愛すぎると合わなくなってしまう。ということでこうなったのだが、俺ってなかなかセンスがあるのかも、と勘違いしてしまうレベルで似合っている。
いや、素材だなこりゃ。
俺の前でクルリと回って見せた。予想以上に可愛くて、思わず右手で顔を隠してしまった。顔が熱くてたまらない。
「似合ってるかな?」
「お、おう。なかなかいいんじゃない?」
「はーん? 顔真っ赤にして言うセリフじゃないと思うけど?」
「うるせーな……それでいいのか悪いのか」
「悪いなんて言うもんか、私も気に入ったし」
「おうけい、じゃあまた脱いでくれ。支払いしなきゃ」
「お金払わないと着られない? このままじゃダメ?」
「このままって、買ったものすぐに着て帰るのってなんか恥ずかしくない?」
「全然? 私はこの世界で生まれたわけじゃないしそういう感覚はよくわからないからね。それに誰に見られたからって、見られた人にまた会う可能性は低いんじゃない? ここに来るまでもそうだったけどこの世界は人が多いもの」
「いや、まあそうなんだけど」
「よしじゃあ決まり」
と、一人で歩き出してしまった。
彼女の後ろ姿を見ているとこっちまで嬉しくなってしまう。可愛いし、フレイアが彼女だったらいいのにな、なんて考えてしまった。
その後、レジを通す時にちょっと苦労したのは言うまでもない。だって値札が服についてるんだもん、当たり前だよね。
買い物をして、小さなカフェでお茶を飲んで、フレイアの気が済んだところで帰宅した。
「疲れたねー」
「誰のせいだよ。いいか? 俺と双葉の会話が聞こえたらジャンプして二階に上がるんだぞ?」
「大丈夫、まかせておいて」
二人して玄関から入るわけにはいかない。俺が玄関から入って双葉の気を引く、その間にフレイアが俺の部屋のベランダに上がる。俺が出かける時にはいなかったけど、さすがに夕方だから帰ってきてるだろう。
「ただいまー」
案の定鍵はかかっていなかった。
が、ドアを開けた瞬間に鉄の匂いが鼻先をつついた。同時に臭う強烈な生臭さ。
心臓の鼓動が強くなった。
ドアが完全に開くよりも前に血の跡が見えた。玄関から、おびただしい量の血が床に垂れている。それは風呂場へと続いていて、そこでようやく現状を理解した。
「……っ! 双葉っ!」
両親はいない。それならこの血を流したのは誰だ。考えるまでもない、一人しかいないじゃないか。
「双葉! 双葉!」
床に広がる血液に足が取られた。滑って転んで服が汚れた。でもそんなことを気にしている場合じゃない。
脱衣所に入る。息が苦しくなくほどの血の臭い。床だけじゃなく、入り口まるごと、燃えるように真っ赤になっていた。
その頃には、もう外は暗くなっていた。そのため風呂場の中がどうなっているのかわからない。電気をけようとしたが、脳のどこかでそれを拒否した。
心臓の鼓動が全身に回る。飛び出してきそうだった。
手をかけて、風呂場のドアを開けた。
ガチャリという音と共に、見たくない光景が目に飛び込んできた。
「そんな……うそだ……」
あまりにも現実離れしていて、夢というには現実的すぎた。
双葉と一緒にいた時間が反芻されるようだ。一緒に遊んだこと、一緒に風呂に入ったこと、一緒に寝たこと。俺が叱ることもあったけど、じょじょに俺の方が叱られるようになっていった。それも嫌じゃなくて、むしろいつまでも仲がいいことが嬉しく思っていた。小さい頃も可愛かったけど、大きくなるにつれて美人になっていった。メガネも似合っていたし「可愛い」と言うと赤くなる。そんなところも好きだった。
そんな可愛い俺の妹は無惨な姿になってしまった。風呂場の壁に貼り付けられて、内臓を腹から垂らしていた。
「あ、ああ……」
両手で頬を覆う。可愛かった顔がぐちゃぐちゃだ。口なんてこんなに裂けて、目まで潰されて。目から垂れてくる血が涙のようだ。
「なんで、なんでだよ……」
服はボロボロで、小ぶりの乳房が片方切り取られていた。
「おにいちゃんて、呼んでくれよ……」
手足の指が切り取られていた。よく見れば、排水口に詰まっている。
俺のせいか、俺のせいなのかよ。俺が死ねばこんなことにならなかったとでも言うのかよ。
「誰のせいだよおおおおおおおおおおおおおお!」
双葉の身体を抱きしめた時、暖かな感触が腹部を満たしていく。
「あれ……?」
気がつくのが遅れた。
自分の腹から下がないことに。
力が抜けて、風呂場の床に横たわる。激しい痛み、掻きむしっても消えそうにない熱さ。急な嘔吐感に襲われて血反吐を吐いた。
「イツキ!」
フレイアが俺の身体を抱き上げた。
「にげろ、ふれいあ」
「イツキを置いては逃げられない」
「そういうわけにも――」
そこまで言いかけた時、フレイアの背後に影を見た。黒い影、間違いない、人の影だった。
しかし、そんな思考も意味がなかった。
フレイアの口から血が溢れてきた。
そうか、逆か。
向こうでは俺がフレイアの立場だった。
「ごめん、な、ふれいあ」
「ええ」
最後の力を振り絞ってフレイアの手を握った。痛いし辛いし、一刻も早くこの状況から開放されたいという気持ちはある。でもそれ以上に、彼女を送り返せるという気持ちの方が少しだけ勝っていた。
目を閉じる。
友人たちの顔に双葉の顔、優帆の顔。そしてフレイアの顔が浮かんで来る。
心の中でもう一度「ごめん」と呟いた。それが、俺の最期だった。
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「なに拳握りしめてるの?」
「え、いや、なんでもないよ? で、フレイアさんはどうしたんだい?」
「急によそよそしくなるんだね。いいけど。これなんてどうかなーって」
右手には灰色のカットソー。左手には濃い色のデニムのサブリナパンツ。でもこれだと今の服装とあんまり変わらないんだよな、見た目的に。
「もうちょっとこう、アレなのないの?」
「アレなの? 露出多いのってことかな?」
「それもそうなんだけどってそうじゃなくて。もっと向こうの世界になさそうな服を着ればいいんじゃないかと思って」
「うーん、でも私に似合わなそうだし」
「フレイアならなんでも似合いそうだけどな」
「そう思う? ならイツキが選んでよ」
「どうしてそうなるのか。俺はセンスとかそういうのある方じゃないんだけど」
「いいからいいから」
フレイアにグイグイと押されて服を選ぶことになってしまった。フレイアのレベルは俺よりもずっと上なので、コイツが強引な手に出ると抵抗することそのものが無駄になる。
背中を押されながら店内を見て回る。女物の服はよくわからないけど、ようは俺がコイツに着て欲しい服を探せばいいわけだ。
趣味全開で服を数点取り、全部フレイアに渡した。当然、ちゃんと値段も計算した上で選んだ。下着以外、靴を含めて上から下まで含めて二万円。これが今俺が出せる最大の金額。懐は痛いが「こんなすごい身体した女性が好きな格好をしてくれる」という煩悩がブレーキをぶっ壊していった。
なおそんなことでお金を使ったなどと双葉には言えない。
「じゃあこれとこれとこれ」
「はいよ、じゃあちょっと待っててね」
駆け足で試着室に飛び込んでいくフレイア。態度はいつもと変わらないが、内心結構嬉しいのかなと思ってしまう。
試着室の前で待つこと数分、カーテンが思い切りよく開かれた。時々聞こえる衣擦れ音にドキドキしてしていたことは内緒だ。
「じゃーん」
「おお、素晴らしい」
頭にはベレー帽。上は薄い青のチュニック、下はエメラルドグリーンを基調としたキルトスカート。チュニックの口から肩元が出るタイプなので黒いキャミソールを追加した。足元はちょっとだけ悩んだけど赤と白のスニーカーで。
うん、素晴らしい。胸が強調されるのがなによりも素晴らしい。体つきが体つきなので露出が多くなりすぎると夜の仕事人みたいになっちゃうし、あまりにも可愛すぎると合わなくなってしまう。ということでこうなったのだが、俺ってなかなかセンスがあるのかも、と勘違いしてしまうレベルで似合っている。
いや、素材だなこりゃ。
俺の前でクルリと回って見せた。予想以上に可愛くて、思わず右手で顔を隠してしまった。顔が熱くてたまらない。
「似合ってるかな?」
「お、おう。なかなかいいんじゃない?」
「はーん? 顔真っ赤にして言うセリフじゃないと思うけど?」
「うるせーな……それでいいのか悪いのか」
「悪いなんて言うもんか、私も気に入ったし」
「おうけい、じゃあまた脱いでくれ。支払いしなきゃ」
「お金払わないと着られない? このままじゃダメ?」
「このままって、買ったものすぐに着て帰るのってなんか恥ずかしくない?」
「全然? 私はこの世界で生まれたわけじゃないしそういう感覚はよくわからないからね。それに誰に見られたからって、見られた人にまた会う可能性は低いんじゃない? ここに来るまでもそうだったけどこの世界は人が多いもの」
「いや、まあそうなんだけど」
「よしじゃあ決まり」
と、一人で歩き出してしまった。
彼女の後ろ姿を見ているとこっちまで嬉しくなってしまう。可愛いし、フレイアが彼女だったらいいのにな、なんて考えてしまった。
その後、レジを通す時にちょっと苦労したのは言うまでもない。だって値札が服についてるんだもん、当たり前だよね。
買い物をして、小さなカフェでお茶を飲んで、フレイアの気が済んだところで帰宅した。
「疲れたねー」
「誰のせいだよ。いいか? 俺と双葉の会話が聞こえたらジャンプして二階に上がるんだぞ?」
「大丈夫、まかせておいて」
二人して玄関から入るわけにはいかない。俺が玄関から入って双葉の気を引く、その間にフレイアが俺の部屋のベランダに上がる。俺が出かける時にはいなかったけど、さすがに夕方だから帰ってきてるだろう。
「ただいまー」
案の定鍵はかかっていなかった。
が、ドアを開けた瞬間に鉄の匂いが鼻先をつついた。同時に臭う強烈な生臭さ。
心臓の鼓動が強くなった。
ドアが完全に開くよりも前に血の跡が見えた。玄関から、おびただしい量の血が床に垂れている。それは風呂場へと続いていて、そこでようやく現状を理解した。
「……っ! 双葉っ!」
両親はいない。それならこの血を流したのは誰だ。考えるまでもない、一人しかいないじゃないか。
「双葉! 双葉!」
床に広がる血液に足が取られた。滑って転んで服が汚れた。でもそんなことを気にしている場合じゃない。
脱衣所に入る。息が苦しくなくほどの血の臭い。床だけじゃなく、入り口まるごと、燃えるように真っ赤になっていた。
その頃には、もう外は暗くなっていた。そのため風呂場の中がどうなっているのかわからない。電気をけようとしたが、脳のどこかでそれを拒否した。
心臓の鼓動が全身に回る。飛び出してきそうだった。
手をかけて、風呂場のドアを開けた。
ガチャリという音と共に、見たくない光景が目に飛び込んできた。
「そんな……うそだ……」
あまりにも現実離れしていて、夢というには現実的すぎた。
双葉と一緒にいた時間が反芻されるようだ。一緒に遊んだこと、一緒に風呂に入ったこと、一緒に寝たこと。俺が叱ることもあったけど、じょじょに俺の方が叱られるようになっていった。それも嫌じゃなくて、むしろいつまでも仲がいいことが嬉しく思っていた。小さい頃も可愛かったけど、大きくなるにつれて美人になっていった。メガネも似合っていたし「可愛い」と言うと赤くなる。そんなところも好きだった。
そんな可愛い俺の妹は無惨な姿になってしまった。風呂場の壁に貼り付けられて、内臓を腹から垂らしていた。
「あ、ああ……」
両手で頬を覆う。可愛かった顔がぐちゃぐちゃだ。口なんてこんなに裂けて、目まで潰されて。目から垂れてくる血が涙のようだ。
「なんで、なんでだよ……」
服はボロボロで、小ぶりの乳房が片方切り取られていた。
「おにいちゃんて、呼んでくれよ……」
手足の指が切り取られていた。よく見れば、排水口に詰まっている。
俺のせいか、俺のせいなのかよ。俺が死ねばこんなことにならなかったとでも言うのかよ。
「誰のせいだよおおおおおおおおおおおおおお!」
双葉の身体を抱きしめた時、暖かな感触が腹部を満たしていく。
「あれ……?」
気がつくのが遅れた。
自分の腹から下がないことに。
力が抜けて、風呂場の床に横たわる。激しい痛み、掻きむしっても消えそうにない熱さ。急な嘔吐感に襲われて血反吐を吐いた。
「イツキ!」
フレイアが俺の身体を抱き上げた。
「にげろ、ふれいあ」
「イツキを置いては逃げられない」
「そういうわけにも――」
そこまで言いかけた時、フレイアの背後に影を見た。黒い影、間違いない、人の影だった。
しかし、そんな思考も意味がなかった。
フレイアの口から血が溢れてきた。
そうか、逆か。
向こうでは俺がフレイアの立場だった。
「ごめん、な、ふれいあ」
「ええ」
最後の力を振り絞ってフレイアの手を握った。痛いし辛いし、一刻も早くこの状況から開放されたいという気持ちはある。でもそれ以上に、彼女を送り返せるという気持ちの方が少しだけ勝っていた。
目を閉じる。
友人たちの顔に双葉の顔、優帆の顔。そしてフレイアの顔が浮かんで来る。
心の中でもう一度「ごめん」と呟いた。それが、俺の最期だった。
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