それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 1ーCommon Destiny〉 三話
「おいおい勝手に」と俺が言っても気にしない。
「ちなみにそれ、妙なオッサンとぶつかった時にオッサンが落としたやつだ。俺が落としたもんだと思って拾ってきちまったんだよ」
「泥棒じゃん」
的確なサダのツッコミがたっつんの心をえぐった。現に頭を抑えて下を向いてしまった。
「で、中身はなんなんだよ」
サダの手元を覗き込む。たっつんが地面に置いたのは財布ではなく革のケースだった。中身はなにかの注射器。一本針の注射器ではなく、患部に押し当ててから小さな針を数本出すタイプの注射器だ。血を取るのには向かないが、外部から摂取するのには向いている。と思う。詳しくないのでそれっぽい解釈をしているに過ぎない。
「注射器か、これ。小さいのが五本入ってるな」
「おいサダ、勝手に触って大丈夫かよ」
一本取り出して太陽に透かしている。内容液が若干だが見えるようだ。
「つかショウはこれ警察に持ってけよ。イツキと一緒に」
「んで俺も一緒に行かなきゃいけねーんだよ」
「仲良しだろ、行ってこいよ」
「たっつんと俺が行くならお前も一緒だろ」
「ヤダよ、クソと一緒なんて」
「まだそれ引きずるんだ。勘弁してよホント……」
「それは冗談だけど持ってかなくていいのか?」
「持ってくよ、学校終わってからな」
「部活終わってからだろ、何時になるんだよ」
「八時、とか?」
「おっせーなおい」
「派出所なら開いてるんだからいいだろーが」
二人の会話を聞きながら、パンをかじってフェンスの向こうを見た。どうして見たのかはわからない。でも、なんとなくそうしなきゃいけないような気がしたんだ。
脳の奥底で、ザラザラとした砂嵐が吹き荒れた。その中に映像が映る。映像と、今俺の目の前にある光景が重なった。
校門のところに誰かがいる。七月に入ったってのに黒いコートを羽織った男。サングラスをかけている。
「なあ、たっつん」
「どうした?」
「お前さっき妙なオッサンつったよな」
「おお、言ったけどそれがなんだよ」
「なにが妙なのかって、まだ聞いてないんだけど」
校門の方を凝視しながらそう訊いた。
「いやな、夏場だってのに黒いコートを着てたんだよ。トレンチコートだなありゃ。グラサンもしてたしいろいろ怪しかったぜ。それよりお前なに見てんだよ」
肩の向こうから二人が校門を見下ろす。
「あれ? 俺とぶつかったオッサンじゃねーか」
「やっぱりそうなのか」
わかったぞ、俺が今日なにをすべきなのか。
少しずつ思い出される記憶が、まるでパズルのようにはまっていく。
このままいくと、放課後を迎えて俺とサダは帰る。たっつんは部活で、そのまま八時になる。九時頃にたっつんから電話がくる。怯えるたっつんの声、いきなり切れる通話。それで、サダに電話してから俺は学校に向かうんだ。
そこでまたパズルのピースがなくなった。学校に行ってからの記憶が朧げになっていくのだ。
「どうしたつっきー」
「いや、なんでもないよ」
味気ない返答に、たっつんは首をかしげていた。なにか感じ取ったのか、サダの眼光は鋭かった。
それから放課後までは早かった。
授業なんて一切覚えていない。白いノートに事実を書き込み、死を回避することだけを考えた。それと同時に、なぜ俺が急いで坂をくだらなきゃいけなかったのか。そしてなぜ自転車のブレーキがきかなかったのか。それだけが引っかかっていた。
家に帰る途中に双葉からメールが来た。夕飯の材料を買ってきて欲しいというものだった。可愛い妹の言うことなので俺は断れない。
俺と双葉は年子だ。俺が高校二年で双葉が一年、しかも同じ学校。気立てがよくて優しい、そして可愛い。そう、俺は誰が見てもシスコンだ。
スーパーで買い物を済ませて家に帰ると、家の前で優帆と出くわした。クラスが違うので、学校ではあまり喋らない。顔を合わせてもコイツの方から顔をそむけるので俺も声をかけないようにしている。教科書なんかを忘れて、仕方なく借りる時にメールするくらい。メールをしておくと、廊下にあるロッカーの上に教科書を置いといてくれる。
「ご苦労様、使いっ走り」
「うるせーよ、さっさと家入れクソビッチが」
「あん? 誰がビッチだクソキモオタ」
「はあ? 誰がクソだって? 短いスカート穿いて媚び売ってるようなヤツがなに言ってやがる」
キモオタの部分は否定できないのでサッと流そう。
「別に媚びてねーから。私は私が着たい服を着て、やりたいようになってるだけなの。言い寄ってくる男は全員振り払ってるし、アンタが思うようなことはしてないから」
「はー、どうだか」
そろそろビニール袋を持つ手が疲れてきた。なのでこのへんで離脱しよう。
ドアの方に身体を向けると、何か堅い物が投げつけられた。腕にあたって地面に落ちる。下に視線を落とすと、透明なビニールに包まれたクッキーが落ちていた。
もう一度優帆を見た。
「なによ」
「いや逆でしょ。なに、これ」
「クッキー」
「お前が作ったの?」
「だからなに?」
「なんで投げんの?」
「アンタが私と話しようとしないからでしょ! もう知らない!」
そう言ってダッシュで家の中に入っていってしまった。なんなんだよホント。よしんばこれがツンデレだったとしても迷惑極まりないんだが。ツンデレってのは二次元だからいいんだ。三次元にいたって迷惑なだけだ。行動に振り回されることも多いだろう。それにこっちが相手の顔色を伺っていないといけない。だったらもっとこう、双葉みたいな女の子がいい。
そんなことを考えながら家に入ると、エプロン姿の双葉が出迎えてくれた。
「おかえりお兄ちゃん。ちゃんと買って来てくれた?」
「おう、ここにあるぞ」
「ありがとう」
と言って手を差し出すもんだから「俺が持ってくよ」と言うしかない。そいうかそれくらいさせて欲しい。家事は全部やってもらってるわけだし。
夕飯ができるまでは風呂に入ってから自室で待機。これもまたいつものことだ。
そして、俺はこの時まで忘れていたんだ。ドアを開けてから気づくなんて俺もアホだけど。
「ちなみにそれ、妙なオッサンとぶつかった時にオッサンが落としたやつだ。俺が落としたもんだと思って拾ってきちまったんだよ」
「泥棒じゃん」
的確なサダのツッコミがたっつんの心をえぐった。現に頭を抑えて下を向いてしまった。
「で、中身はなんなんだよ」
サダの手元を覗き込む。たっつんが地面に置いたのは財布ではなく革のケースだった。中身はなにかの注射器。一本針の注射器ではなく、患部に押し当ててから小さな針を数本出すタイプの注射器だ。血を取るのには向かないが、外部から摂取するのには向いている。と思う。詳しくないのでそれっぽい解釈をしているに過ぎない。
「注射器か、これ。小さいのが五本入ってるな」
「おいサダ、勝手に触って大丈夫かよ」
一本取り出して太陽に透かしている。内容液が若干だが見えるようだ。
「つかショウはこれ警察に持ってけよ。イツキと一緒に」
「んで俺も一緒に行かなきゃいけねーんだよ」
「仲良しだろ、行ってこいよ」
「たっつんと俺が行くならお前も一緒だろ」
「ヤダよ、クソと一緒なんて」
「まだそれ引きずるんだ。勘弁してよホント……」
「それは冗談だけど持ってかなくていいのか?」
「持ってくよ、学校終わってからな」
「部活終わってからだろ、何時になるんだよ」
「八時、とか?」
「おっせーなおい」
「派出所なら開いてるんだからいいだろーが」
二人の会話を聞きながら、パンをかじってフェンスの向こうを見た。どうして見たのかはわからない。でも、なんとなくそうしなきゃいけないような気がしたんだ。
脳の奥底で、ザラザラとした砂嵐が吹き荒れた。その中に映像が映る。映像と、今俺の目の前にある光景が重なった。
校門のところに誰かがいる。七月に入ったってのに黒いコートを羽織った男。サングラスをかけている。
「なあ、たっつん」
「どうした?」
「お前さっき妙なオッサンつったよな」
「おお、言ったけどそれがなんだよ」
「なにが妙なのかって、まだ聞いてないんだけど」
校門の方を凝視しながらそう訊いた。
「いやな、夏場だってのに黒いコートを着てたんだよ。トレンチコートだなありゃ。グラサンもしてたしいろいろ怪しかったぜ。それよりお前なに見てんだよ」
肩の向こうから二人が校門を見下ろす。
「あれ? 俺とぶつかったオッサンじゃねーか」
「やっぱりそうなのか」
わかったぞ、俺が今日なにをすべきなのか。
少しずつ思い出される記憶が、まるでパズルのようにはまっていく。
このままいくと、放課後を迎えて俺とサダは帰る。たっつんは部活で、そのまま八時になる。九時頃にたっつんから電話がくる。怯えるたっつんの声、いきなり切れる通話。それで、サダに電話してから俺は学校に向かうんだ。
そこでまたパズルのピースがなくなった。学校に行ってからの記憶が朧げになっていくのだ。
「どうしたつっきー」
「いや、なんでもないよ」
味気ない返答に、たっつんは首をかしげていた。なにか感じ取ったのか、サダの眼光は鋭かった。
それから放課後までは早かった。
授業なんて一切覚えていない。白いノートに事実を書き込み、死を回避することだけを考えた。それと同時に、なぜ俺が急いで坂をくだらなきゃいけなかったのか。そしてなぜ自転車のブレーキがきかなかったのか。それだけが引っかかっていた。
家に帰る途中に双葉からメールが来た。夕飯の材料を買ってきて欲しいというものだった。可愛い妹の言うことなので俺は断れない。
俺と双葉は年子だ。俺が高校二年で双葉が一年、しかも同じ学校。気立てがよくて優しい、そして可愛い。そう、俺は誰が見てもシスコンだ。
スーパーで買い物を済ませて家に帰ると、家の前で優帆と出くわした。クラスが違うので、学校ではあまり喋らない。顔を合わせてもコイツの方から顔をそむけるので俺も声をかけないようにしている。教科書なんかを忘れて、仕方なく借りる時にメールするくらい。メールをしておくと、廊下にあるロッカーの上に教科書を置いといてくれる。
「ご苦労様、使いっ走り」
「うるせーよ、さっさと家入れクソビッチが」
「あん? 誰がビッチだクソキモオタ」
「はあ? 誰がクソだって? 短いスカート穿いて媚び売ってるようなヤツがなに言ってやがる」
キモオタの部分は否定できないのでサッと流そう。
「別に媚びてねーから。私は私が着たい服を着て、やりたいようになってるだけなの。言い寄ってくる男は全員振り払ってるし、アンタが思うようなことはしてないから」
「はー、どうだか」
そろそろビニール袋を持つ手が疲れてきた。なのでこのへんで離脱しよう。
ドアの方に身体を向けると、何か堅い物が投げつけられた。腕にあたって地面に落ちる。下に視線を落とすと、透明なビニールに包まれたクッキーが落ちていた。
もう一度優帆を見た。
「なによ」
「いや逆でしょ。なに、これ」
「クッキー」
「お前が作ったの?」
「だからなに?」
「なんで投げんの?」
「アンタが私と話しようとしないからでしょ! もう知らない!」
そう言ってダッシュで家の中に入っていってしまった。なんなんだよホント。よしんばこれがツンデレだったとしても迷惑極まりないんだが。ツンデレってのは二次元だからいいんだ。三次元にいたって迷惑なだけだ。行動に振り回されることも多いだろう。それにこっちが相手の顔色を伺っていないといけない。だったらもっとこう、双葉みたいな女の子がいい。
そんなことを考えながら家に入ると、エプロン姿の双葉が出迎えてくれた。
「おかえりお兄ちゃん。ちゃんと買って来てくれた?」
「おう、ここにあるぞ」
「ありがとう」
と言って手を差し出すもんだから「俺が持ってくよ」と言うしかない。そいうかそれくらいさせて欲しい。家事は全部やってもらってるわけだし。
夕飯ができるまでは風呂に入ってから自室で待機。これもまたいつものことだ。
そして、俺はこの時まで忘れていたんだ。ドアを開けてから気づくなんて俺もアホだけど。
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