それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 1ーCommon Destiny〉 一話
「うわああああああああああああああ!」
布団を跳ね除けながら、俺は勢いよく起き上がった。
スズメの泣き声。差し込む朝日。首を左右に動かす。青いカーテン、あまり使われてない勉強机、爺ちゃんがくれた古いちゃぶ台、漫画ばっかりの本棚、背が高めのタンス、制服にカバン。間違いない、俺の部屋だ。
腹を触る。ガチャリと音がした。ボロボロの服に胸当て。ガントレットまではめてる。あれは夢じゃないのか。
それよりも血もないし、穴も空いてない。頭が混乱してきた。
「どうなってんだ、これ」
額の汗を拭った。俺は確かに死んだ。自転車で車に轢かれて、異世界に行って、そこで剣に貫かれてまた死んで。
「夢か? いやいや夢じゃねーよ。あんなにリアルな夢があってたまるか」
深呼吸をしてから右手をベッドについた。はずだった。
ふにゅん、という柔らかい生き物のような感触が右手に伝わってきた。俺のベッドはウォーターベッドじゃないし、それにしてもしっとりとして温かい。
なにごとかと右手を見れば、俺の右手の下には人肌があった。正確には大きなメロンだった。いやどっちも正解なんだがなんかめちゃくちゃだ。
フレイアの服は俺と同様にボロボロだった。最後の一撃のせいか胸当てはしていなかった。ふっ飛ばされたのか。
ゆっくりと視線を移動させて顔を見た。
「お前、フレイアか」
やっぱり夢じゃなかった。
と、メロンを楽しむ余裕もなく、階段を上る軽快な足音が聞こえてきた。そしてドアがノックされる。規則正しく四回。ドアの前にいる人物が誰なのか、俺はよく知っている。
「おう、入っていいぞ」
そう言いながらフレイアに毛布をかけた。
遠慮がちにドアが開かれて一人の女の子が入ってきた。黒くて長い艶やかな髪の毛。全体的に小さな顔のパーツは、お世辞抜きでも可愛いと言える。背もそこまで高くなくてメガネが似合う。
深山双葉。俺の、自慢の妹だった。
「お兄ちゃん大丈夫? かなり大声だったけど怖い夢でも見た?」
「だだだ、大丈夫だ。そうだな、嫌な夢を見ただけだ」
「そう、ならよかった。朝ごはんできてるから早く食べちゃってね。遅刻しちゃうから」
「いつもありがとな。そうだ、今日って何日だっけ?」
「今日は七月二日だけど、それがどうしたの?」
「いや、なんでもない。できるだけ早く行く」
「うん、わかった」
優しく微笑み、双葉は部屋を出て行った。
大きなため息と同時に変な汗も出てきた。
「ホントに、夢じゃなさそうだな」
毛布を剥ぐとフレイアが寝息をたてている。
「いやでも夢かもしれない」
俺は躊躇なくメロンを掴む。見事な大きさ、なんという弾力、それでいて柔らかい。指に力を入れても押し返してくる。手を離せば元の位置に戻ろうとする。
「そうか、生き物なんだ……!」
そうとしか思えない。たしかにフレイアは生きているがそうじゃない。これはこれ単体で生き物なのだ。
つまり女性は生まれながらにして生き物を飼っている……!
「もう一度」
「まだ気は済まない感じ?」
凛とした声に言われてフレイアの顔を見た。目が合った。しかし俺の手は止まらない。
「そろそろ手を離して貰えるとありがたいんだけどなぁ」
「わ、悪い!」
急いで手を離した。彼女は上体を起こして毛布で前を隠す。
「まあ減るものでもないし今回だけは許してあげよう。それよりここどこ?」
キョロキョロと部屋を見渡している。
「ここは俺の部屋だ。そうだな、お前の前に現れる前に俺がいた場所、俺がいた世界だ。どういうことかわからないけど、お前は俺と同じように異世界転生したってことになる。異世界転移なのか? よくわからんけどそういうこと」
「異世界転生……」
「そう。とにかく俺は学校に行ってくる。明日は休みのはずだし、今日一日留守番してくれれば明日明後日と俺は家にいるから」
「私はどうしたらいい?」
「家にいてくれりゃいいさ。飯とかは用意しておくから、トイレに行く以外は部屋から出ないで欲しい」
「はいよわかった」
聞き分けがよくてこっちが困ってしまう。聞き分けがいいというよりも疲弊しているという言葉の方が正しいかもしれない。
タンスから新しいスウェットを取り出してフレイアに着させた。フレイアが着替えるのと一緒に俺も着替えた。もちろん後ろを向いて。結構堪能したから心残りはない。いや嘘だ。
その時気付いた。ズボンのポケットの中にある、カード状のなにかの存在に。
間違いない、ライセンスだ。
いかんいかん、驚くのは着替えてからだ。
ワイシャツに腕を通してライセンスを見た。レベル20、PスキルやAスキルをタッチしてもちゃんと文字が浮き出てくる。つまりこの世界であっても機能自体は残っているということだ。
「イツキ」
「おう、どうした?」
後ろを振り向くと、スウェットを着たフレイアがなにかを持っていた。
「おま、それ」
「これ、私のライセンス」
他にもフレイアの私物と思われる物もある。でもかなり少数で、彼女が持っていたバッグなどは含まれない。せいぜいポケットに入る程度の私物だ。
「持ってこられたのはポケットに入ってた物くらいね。武器もないし」
「なにかの法則性があるのかもしれないな」
「ここは私が住んでいた場所とは違うけど、ライセンスがあれば身分を証明できる。なにかに使えない?」
「こっちじゃ保険証とか運転免許証とかじゃないと身分証明は成立しないんだよ。でも向こうじゃキャスターライセンスで身分証明できるのか」
運転免許証と同じって考えていいのか。
ちなみに俺も一応免許は持っている。原付きだけど。
「キャスターライセンスは元々パブリックライセンスって呼ばれてる物なの。パブリックライセンスは生まれてすぐに政府から発行される。冒険者になった物はキャスターライセンスに上書きされ、冒険者をやめればパブリックライセンスに戻される。それだけの話」
「なるほどな、最初から最後まで元ある価値はかわんねーのか」
それを知ってどうなるかはわからないけど、異世界に関しての知識がまた一つ増えたのはいいことだ。
布団を跳ね除けながら、俺は勢いよく起き上がった。
スズメの泣き声。差し込む朝日。首を左右に動かす。青いカーテン、あまり使われてない勉強机、爺ちゃんがくれた古いちゃぶ台、漫画ばっかりの本棚、背が高めのタンス、制服にカバン。間違いない、俺の部屋だ。
腹を触る。ガチャリと音がした。ボロボロの服に胸当て。ガントレットまではめてる。あれは夢じゃないのか。
それよりも血もないし、穴も空いてない。頭が混乱してきた。
「どうなってんだ、これ」
額の汗を拭った。俺は確かに死んだ。自転車で車に轢かれて、異世界に行って、そこで剣に貫かれてまた死んで。
「夢か? いやいや夢じゃねーよ。あんなにリアルな夢があってたまるか」
深呼吸をしてから右手をベッドについた。はずだった。
ふにゅん、という柔らかい生き物のような感触が右手に伝わってきた。俺のベッドはウォーターベッドじゃないし、それにしてもしっとりとして温かい。
なにごとかと右手を見れば、俺の右手の下には人肌があった。正確には大きなメロンだった。いやどっちも正解なんだがなんかめちゃくちゃだ。
フレイアの服は俺と同様にボロボロだった。最後の一撃のせいか胸当てはしていなかった。ふっ飛ばされたのか。
ゆっくりと視線を移動させて顔を見た。
「お前、フレイアか」
やっぱり夢じゃなかった。
と、メロンを楽しむ余裕もなく、階段を上る軽快な足音が聞こえてきた。そしてドアがノックされる。規則正しく四回。ドアの前にいる人物が誰なのか、俺はよく知っている。
「おう、入っていいぞ」
そう言いながらフレイアに毛布をかけた。
遠慮がちにドアが開かれて一人の女の子が入ってきた。黒くて長い艶やかな髪の毛。全体的に小さな顔のパーツは、お世辞抜きでも可愛いと言える。背もそこまで高くなくてメガネが似合う。
深山双葉。俺の、自慢の妹だった。
「お兄ちゃん大丈夫? かなり大声だったけど怖い夢でも見た?」
「だだだ、大丈夫だ。そうだな、嫌な夢を見ただけだ」
「そう、ならよかった。朝ごはんできてるから早く食べちゃってね。遅刻しちゃうから」
「いつもありがとな。そうだ、今日って何日だっけ?」
「今日は七月二日だけど、それがどうしたの?」
「いや、なんでもない。できるだけ早く行く」
「うん、わかった」
優しく微笑み、双葉は部屋を出て行った。
大きなため息と同時に変な汗も出てきた。
「ホントに、夢じゃなさそうだな」
毛布を剥ぐとフレイアが寝息をたてている。
「いやでも夢かもしれない」
俺は躊躇なくメロンを掴む。見事な大きさ、なんという弾力、それでいて柔らかい。指に力を入れても押し返してくる。手を離せば元の位置に戻ろうとする。
「そうか、生き物なんだ……!」
そうとしか思えない。たしかにフレイアは生きているがそうじゃない。これはこれ単体で生き物なのだ。
つまり女性は生まれながらにして生き物を飼っている……!
「もう一度」
「まだ気は済まない感じ?」
凛とした声に言われてフレイアの顔を見た。目が合った。しかし俺の手は止まらない。
「そろそろ手を離して貰えるとありがたいんだけどなぁ」
「わ、悪い!」
急いで手を離した。彼女は上体を起こして毛布で前を隠す。
「まあ減るものでもないし今回だけは許してあげよう。それよりここどこ?」
キョロキョロと部屋を見渡している。
「ここは俺の部屋だ。そうだな、お前の前に現れる前に俺がいた場所、俺がいた世界だ。どういうことかわからないけど、お前は俺と同じように異世界転生したってことになる。異世界転移なのか? よくわからんけどそういうこと」
「異世界転生……」
「そう。とにかく俺は学校に行ってくる。明日は休みのはずだし、今日一日留守番してくれれば明日明後日と俺は家にいるから」
「私はどうしたらいい?」
「家にいてくれりゃいいさ。飯とかは用意しておくから、トイレに行く以外は部屋から出ないで欲しい」
「はいよわかった」
聞き分けがよくてこっちが困ってしまう。聞き分けがいいというよりも疲弊しているという言葉の方が正しいかもしれない。
タンスから新しいスウェットを取り出してフレイアに着させた。フレイアが着替えるのと一緒に俺も着替えた。もちろん後ろを向いて。結構堪能したから心残りはない。いや嘘だ。
その時気付いた。ズボンのポケットの中にある、カード状のなにかの存在に。
間違いない、ライセンスだ。
いかんいかん、驚くのは着替えてからだ。
ワイシャツに腕を通してライセンスを見た。レベル20、PスキルやAスキルをタッチしてもちゃんと文字が浮き出てくる。つまりこの世界であっても機能自体は残っているということだ。
「イツキ」
「おう、どうした?」
後ろを振り向くと、スウェットを着たフレイアがなにかを持っていた。
「おま、それ」
「これ、私のライセンス」
他にもフレイアの私物と思われる物もある。でもかなり少数で、彼女が持っていたバッグなどは含まれない。せいぜいポケットに入る程度の私物だ。
「持ってこられたのはポケットに入ってた物くらいね。武器もないし」
「なにかの法則性があるのかもしれないな」
「ここは私が住んでいた場所とは違うけど、ライセンスがあれば身分を証明できる。なにかに使えない?」
「こっちじゃ保険証とか運転免許証とかじゃないと身分証明は成立しないんだよ。でも向こうじゃキャスターライセンスで身分証明できるのか」
運転免許証と同じって考えていいのか。
ちなみに俺も一応免許は持っている。原付きだけど。
「キャスターライセンスは元々パブリックライセンスって呼ばれてる物なの。パブリックライセンスは生まれてすぐに政府から発行される。冒険者になった物はキャスターライセンスに上書きされ、冒険者をやめればパブリックライセンスに戻される。それだけの話」
「なるほどな、最初から最後まで元ある価値はかわんねーのか」
それを知ってどうなるかはわからないけど、異世界に関しての知識がまた一つ増えたのはいいことだ。
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