それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 1ーHello World〉 二話

 前の右ポケットにはスマフォ、左にはペンライト。後ろの右ポケットには財布、左ポケットにはなにやらカードのようなものが入っていた。

「なんだこれ」

 表にはイツキ=ミヤマと俺の名前が書かれていた。他にはレベル、ジョブ、Pスキル、Aスキルなど書いてある。レベル1、ジョブは拳闘士、Pスキルはハローワールド、Aスキルはレプリカモーション。なにがなにやら。

 裏を見るとバーコードみたいなものと、その下には十六桁の数字。他にも文字やら絵が書いてあるけど文章は読めない。英語の筆記体のようにも見えるが……。

「それ、キャスターライセンス」
「これがライセンスなのか。はー、なるほどな」
「でもライセンスは取りに行かなきゃもらえない。つまり自動的に付与されるわけじゃないと思うんだけど。もしかして記憶喪失?」
「それはない。記憶はちゃんとあるよ。でも、よくわからないな。ライセンスの見方とか教えてくれない?」
「うん、いいよ。名前はそのまま、アンタの名前。レベルは……レベル1……?」
「おう、らしいな。で、そのレベルってのは戦ったりして上げるのか?」
「ま、まあそういうこと。モンスターと戦うと、レベルの下にある赤いゲージが溜まるんだ。そのゲージがいっぱいになるとレベルが上がる。で、ジョブっていうのがアンタの職業。職業によって武器の扱いなんかが上手くなったりする。ちなみに私は槍術士」
「槍を使うんだな」

 まあ、さっき見てたから知ってるんだけどね。

「で、このPスキルはダンジョン内で常に発動しているスキルで正式名称はパッシブスキル。Aスキルはメンタルポイントを消費して使うスキルで、正式名称はアクションスキル。メンタルポイントは大体一日寝れば回復する。それを強制的に回復する薬もあるけど、レベル1だとキツイかな」
「どういうこと? 飲むとゲロっちゃうとか?」
「まだかなり高いと思う。値段的な意味でね」
「あー、そういう。レベルが高くないとそこまで稼げないからか」

 この辺も妙にゲーム的だな。わかりやすくていいのだが。

「むしろ気になったのはスキルね。レベル1で両方のスキルを持っていること自体が珍しいわ」

 彼女は「ここ、触ってみて」とカードのスキルの部分を指差した。その言葉にしたがって、俺はPスキルの部分を人差し指で触れた。

 すると、空中に文字が現れた。

「こうやって触ると自分のスキルが見られる。ジョブの欄も同じように触れると詳細が見られる。けど、このPスキルは……」

 スキルの文章を読み、彼女が息を飲んだ理由がわかった。

「ハローワールド。死んだ際に経験値や記憶を引き継いだままその日を繰り返す。なお身体は成長しない。って、なんだよこれ、めちゃくちゃじゃねーか」
「滅茶苦茶なんてレベルじゃない。元々時間に作用するスキルはかなり貴重なのに、その時間すらなかったことにできるなんてあり得ないわ……」

 その瞬間、俺の身体から黒い靄が出現した。身体から出た靄は、俺と彼女の胸元へと吸い込まれ、なにごともなかったかのように消えてなくなった。

「スキルの項目が追加されてる。セカンドワードね」
「なにそれ」
「ある条件を満たすことで、別の能力が発動したり制約がついたりすることよ」
「説明ありがとう。で、追加事項はっと」

 ハローワールドの詳細を本人から伝えられるのは一人だけ。もしも他の人間に伝えようとした場合は、伝えられた人間が死亡する。たった一人だけ真実を知っているものが伝えても同じである。

「うそ、だろ」

 つまり知られると俺たちが死ぬんじゃなくて、知った人間が死ぬってことだ。突き通さねば、他人を殺してしまうということ。

「なるほど、これで私は迂闊なことが言えなくなったわけね。でも別に問題はない。言わなければいいだけの話だから」
「おいおい、そんな淡白でいいのかよ」
「言うつもりはないから安心しなさいって。このスキルはきっと呪いの類だから、解呪系のスキルとか魔導術で無理矢理引き剥がすこともできるはず。それまで余計なことはしないよ。外に出てからそっち系に精通してる人でも探そうかね」
「キミがそう言うならいいんだけど……」

 そういえば、俺はまだ彼女の名前を聞いてない気がする。

 顔をじっと見つめると「どうかした?」と言わんばかりに首をかしげていた。

「えっと、今更で悪いんだけどキミの名前は?」
「おっ、ようやく聞く気になった? 私はフレイア=フランジュ。レベルは125で、メインジョブは槍術士だけど、魔術師と投具士のジョブも上げてある」
「まあなんだ、ジョブの件はよくわからないけどキミの名前はわかったよ」
「それならよかった。アンタはまだレベルが低い。どうしてここにいるのかはわからないけどこのままじゃ危険だと思う。ここから一番近い転送装置までついていってあげる」
「転送装置ってのはどっかに移動できるのか」
「ウィンザー古城の外に移動できるわね」
「おーけー。それじゃあ頼むよ」

 Pスキルってやつのせいでどうなるかとは思ったが、彼女があまり気にしていそうにないので俺も気にしないでおこう。本当はもっと考えなきゃいけないんだろうけど、今重要なのはこの世界の知識を増やすことだ。

 城の中を進んでいくと、ゲームで見たことがあるようなモンスターと遭遇した。一度きりではない、何度もだ。

 城内にはマンティコア、レッドキャップ、ヘルハウンド。城外の庭や噴水の前なんかにはハーピー、ドラゴンスタチュー、ワイバーン。どれもこれも強そうで、俺がどうこうできるような相手じゃないことは一目見てわかった。そんなモンスターたちだが、フレイアの前では攻撃さえもできずに倒れていく。「死にかけのモンスターに攻撃して」と言われたので何度か攻撃した。そのおかげか、転送装置にたどり着く頃にはレベルも20まで上がっていた。

 地面には人が四、五人入れる大きさの魔法陣があった。フレイアがその魔法陣に触れて数秒、魔法陣が青白く光りだした。

「それじゃあこの中に入って」
「これが魔法陣?」
「そういうこと。はい」

 背中をポンっと押され、戸惑う暇もなく魔法陣の中へ。当然といわんばかりに彼女も入ってきた。彼女が軽装のせいか肌と肌が若干ふれあう。あれだけ動き回ったというのにサラサラしていてそれでいて柔らかかった。

 目の前が真っ白になり、かと思えば森の中にいた。

「あ、私も出ちゃったわ」

 額を抑えながら、彼女は「あははっ」と軽く笑って見せた。

「ま、いいでしょう。ついでにいろいろ教えてあげる」
「ありがたいんだけど、フレイアにもフレイアの事情があるんじゃないの?」
「時間だけはあるから大丈夫だよ」
「あ、暇なんだ」
「暇じゃないから! 親切だから!」
「そういうことにしておこう。で、ここからどこに行くんだ?」
「はぁ……まあいいか。基本的にダンジョンの近くには町がある。そこにはダンジョンを管理する営業所があって、モンスターを倒した時に出るクリスタルを交換したりしてくれる。クリスタルは換金してお金になったりするから、これから冒険者としてやっていくなら覚えておいた方がいい。他には――」

 森の中を歩きながら、彼女はこの世界のシステムについて説明してくれた。冗談交じりに物事を説明してくれるのだがそれ以上に面倒見がいい。俺のこともなぜか信じてくれている。

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