上司、同僚、人間関係

ノベルバユーザー219590

上司の見方 現場の声

  茉莉花は新卒で保育士になって、必死に走り続け気がつけば20年。
  もちろん、山あり谷ありで、辞めたい、辞めてやる!と思った時期も何度も乗り越えてきた。あっと言う間と言ってしまうには、長すぎる年月である。
  
 恋も婚活もそれなりにしてきたが、私には好きな仕事があると保育に没頭していく茉莉花。
  対人スキルがそれほど高くなく、不器用なほど、真面目な性格の茉莉花。真面目だからこそ、間違っていると感じたり、園児にしわ寄せがくると感じたことは、その場でストレートに伝えていた。
  茉莉花にとっては、そういう対応をしてもらった方が、自分としても有難いからということも大きい。要は良かれと思っての言動だった。
   そんな言動が仇となり、茉莉花は周りの同僚や後輩から距離を置かれていた。
  そして、20年目の初夏の面談。園長から
  「茉莉花先生は損してるよ。言い方がきついっていろんな先生から話を聞いてるよ」
   副園長からは
  「ちょっと茉莉花先生のクラス覗きにいって、クラスの花ちゃん抱っこした時、あなた私になんて言ったか覚えてる? ちょっと抱っこしないでもらえますかって。それも相当嫌な言い方だったわよ」
 というクレームを言われた。正直、副園長がクラスに来た時のことは覚えていたが、茉莉花はそんな言葉は言っていない。
  「あ、花ちゃん眠くなっちゃうかな。抱っこで寝ちゃわないでね」
 と、その後すぐにお昼ご飯だったことや、午睡で熟睡できず、夕方愚図ることを考えて唄ちゃんに声をかけていたのだ。
そんな茉莉花の言葉に、副園長が
「何?抱っこしないでってこと?」
と言ったので
「いえ、抱っこは大丈夫ですよ」
と応えたはずだ。

 
  なのに、副園長の中で何故そんな言葉に変換されたのか…理由はわかっている。
  先日市役所に園への苦情があったと報告があった。なんでも、お迎えに行った保護者が保育者が泣いている子を抱っこしようとしているのを止めて「その子抱っこしないてください」と言ったというのだ。これは虐待ではないのか…と。

  そして、匿名でクラスも保育者も特定のされない内容のことだが、副園長はそのことと、茉莉花のとやりとりを頭の中で同じ出来事のように仕立てたのだ。
  いや、意図的ではないにせよ、その苦情を聞いて、茉莉花とのやりとりが頭に浮かび、気づかないうちに変換してしまったのだろう。

  そこに、同僚や後輩からのクレームが決定打となり、今茉莉花は大好きな職場にも居場所がなくなってしまった。

  その面談以降、茉莉花は子どもたちや同僚へ向ける笑顔の下で苦しんでいた。自分の存在意義とは、自分はいてはいけない存在なのでは…と。
  茉莉花に向けられる周りの目は、全て茉莉花を責めているように感じ、また、監視するように光って見えてしまう。

  その状態が1ヶ月続き、頭痛、耳鳴り、めまいなどが出始め、ついに吐き気で早退、その後2、3日熱のため休むことになった。

  その時、しっかり休めという普段なら優しい言葉も、自分はいない方がいいから…と感じるほど茉莉花が病み始めていることを、誰も気づいていなかった。
  

コメント

  • たかし

    忙しすぎると病んでしまいますよね…
    上司ももう少し考えてくれたら、、、

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