俺が主人公でなにが悪い?!

絢野悠

第16話 リターン:山田一郎

「なんで一郎くんが……」
志帆さんも北条先輩も、なんかすげー驚いてんな。当然っちゃ当然だけど。
「確かに閉じこめたはず……!」
「おいおい知らねーのか? どの階の教室も、一番端のベランダには緊急避難用の梯子があるんだぜ?」
「知らないわけがない。でも、お前を閉じこめたのは三組だ。ベランダ用のハシゴだってちゃんと隠した。一番近い非常用ハシゴがある一組までは距離がある」
「だから飛んだよ。まあ、距離が足りなくて、二回とも腕でぶらさがっちまったけどな」
おかげで腕が痛くて仕方ない。
助走をつけて飛ぶだけじゃ、向こうのベランダには着地できなかった。端に手をかけるのが精一杯で、二度も自分の身体を引き上げることになるなんて。落下の速度もあり、かなりしんどかった。下手すれば落ちてたし、もうやりたくはない。
「その鍵は、どうした」
「北条先輩は、風紀委員長からその鍵を受け取ったんだろ?」
「ああそうだ」
「それと一緒だ。俺は光啓から鍵を預かった。それだけ」
マスターキーは二本あった。校長室と、職員室だ。
「風紀委員長は校長室のマスターキーを。光啓は職員室のマスターキーを持ってた。校長室のやつを持ってこいって言ったのは北条先輩だろ?」
「いかにも。しかし、職員室の鍵は教頭が常に持ち歩いていたはずだが……」
「普通の授業時のみ、が正解だ。普段は机の中に閉まってるっぽいぜ」
これは俺の憶測だ。しかし光啓が見つけ出したってことはそういうことなんだろう。
「まさか、主人公になりたいだなんて妄想野郎に捕まるとはね」
彼女はそう言って、ニヤリと含みある笑いを浮かべた。
「知ってるんだな、俺のこと」
「私は新聞部部長、情報が命なんだよ」
この人は本当に性格が悪そうな笑い方をするな。三日月を横にしたような口をしてる。
「そうか、まあそれならいいよ。妄想でもなんでも、言われても仕方がないと思ってるし」
「認めるんだな。それも当然か。顔は十人並み、身長は低い、勉強もスポーツも並み程度かそれ以下。そんな奴が主人公になんてなれるわけがない」
「そう思うのが普通だよな。だから俺も隠してたんだ。だけど、少し考え方を変えたよ」
「考え方を変えた程度でなんとかなるのか? 弱い思想だな」
「どうとでも言えばいいさ。俺は光啓のこと、ずっとヒーローだって、主人公だって思ってたよ。それはあいつが誰よりもカッコイイからだ。顔じゃない。なんでもできて、思いやれるところがカッコイイって思ったんだ。だから光啓は、俺の中じゃ主人公なんだよ」
「自分もそうなろうって? 無理無理、君じゃ無理だよ」
「わかってるさ。でもな、俺はいろんな人にカッコイイって思われなくてもいいんだ。どこかの誰か一人にカッコイイっても思ってもらえれば、俺はそいつの中で主人公になれるんじゃないかって、そう考えたんだ」
胸に手を当て、シャツをキツく握った。
過去のことをいろいろ思い出してて、光啓だけじゃなく「他の二人にも主人公の素質あるよなー」なんて考えてた時期があった。そう考えれば簡単なこと。主人公は自分から「俺が主人公だ」なんて名乗らない。
主人公とは、気づけばなってるものだから。
「望んで掴み取れるものでもないし、求めたから追いすがれるもんじゃないってわかったんだよ」
「誰かの主人公? なに言ってるのかさっぱり理解できない。お前の中で自分が主人公にならなきゃ、一生主人公にはなれない」
「知らないのか? 主人公ってのは、 主人公を見てくれる人がいて初めて成立するんだ。初めて主人公になれるんだよ。初めて『そこに俺が主人公として始まる物語』を認知できるようになるんだ!」
「くだらない……!」
彼女が顔をしかめ、今にも殴りかかってきそうなほどの気迫を飛ばしてきた。そのとき、あの人の声が聞こえた。
「シホー!」
俺たちの生徒会長、那波菜々緒だ。
「ナナ!」
反対の渡り廊下から、ナナちゃんが飛び出してくる。
「どうやら風紀委員長もやられたっぽいな。これで北条先輩だけだぜ」
四対一の絶対的な状況。
「私は諦めない……!」
北条先輩はナナちゃんの方へと走っていく。
「勝負だ! ルリ!」
「負けるわけには、いかない!」
リボンへと手を伸ばすナナちゃんだが、北条先輩は紙一重で避けた。
「腕は二本あるんだよ!」
右腕の直線的な攻撃は、二回目の攻撃を通しやすくするための複線だった。
左手で引っかけて、リボンを手に掴んだ。
「まだ十秒ある!」
「おっとそうはいかねーんだな」
ナナちゃんと北条先輩の間に立ち、進行を遮る。左には録輔、右には志帆さん。
「くっ……!」
どうやっても手は出せない。俺たちが戻ってこられなかったら、こうはならなかった。
北条先輩は俺たちをすり抜けようと何度か試みるが、さすがに三対一では無理があった。
『じゅうううううびょおおおおおおおおおおおう! 勝者! マスターアジア!』
「私が! マスターだあああああああああああああああ!」
会場からは離れているはずなのに、これでもかというほどの大歓声が聞こえてくる。
「行きましょう、一郎くん」
「おう」
ステージに戻ると、校舎にいたときとは比べものにならないほどの歓声だ。優勝したのは俺たちじゃないけど一緒に戦ったんだ。素直に嬉しい。
『第二十五回、校内ナンバーワン選手権優勝は! マスターアジア! 代表者にはこのトロフィーを授与します! これからも学業に励んでくださいね!』
トロフィーを受け取ったナナちゃんは、やたらと嬉しそうだ。不名誉と言われるこの称号も、ナナちゃんにとっては勲章なんだろう。どんなときでも楽しくおかしく生活しようとする、そんなナナちゃんだからこそなのかもしれない。
優勝が決まって一時間もしないうちに、ステージの解体が始まった。
祭りも終わってしまえば、もの悲しさだけが残ってしまう。
「優勝おめでとう、奈々緒」
「準優勝おめでとう、ルリ」
最初は笑顔だった北条先輩が、鬼の形相でナナちゃんに襲いかかる。
「どうどう」
「落ち着けよ、瑠璃」
紡と城尾のコンビが腕を押さえ込んだ。
「ナナちゃんもそういう言い方しなくても……」
「ちょっとした戯れだよー!」
「そういうのはいらないんだよ!」
「でも負けたのは事実でしょ?」
「そうだけど! そういう物言いをするから腹が立つ! 今度は負けないからな!」
「ちゃんと約束は守るんだぞ!」
「わかっている! この北条瑠璃に二言はない!」
なんかキャラ変わってるじゃねーかこの人。いや、紡と城尾の反応を見る限り、元々こういう感じなのかも。
二人は北条先輩を連れていった。最後まで北条先輩はナナちゃんに噛み付いていたけど、それは気にしない方がいいんだろうな。
こうして、学校の平和は守られた。
の、だが。
「ごたごたしててはぐれてしまった……」
俺って、ホントバカ。
表彰式のあと、人気者のナナちゃんや光啓は人の群れに消えていった。だが、人の群れはその二人だけでなく、俺たちすらも離ればなれにした。
まだ携帯返してもらってないぞ。早く磯谷先輩を見付けないと。
校舎内を探してみるが、生徒の姿はまったくない。キャンプファイヤーが近いためか、生徒たちは皆グラウンドなんだろう。
「なんか不用心だなぁ。校舎ぶらついてる俺が言うのもなんだけど」
階段の方から足音がして、慌てて身を隠す。特にやましい所はないんだが、こういう場所だとどうしても身体が反応してしまう。
「話ってなんだい?」
「話なら屋上でするってば」
「そうカリカリするなって。イチローに話があるっていうならわかるけど、俺に話があるって珍しいからさ」
「カリカリなんかしてないわよ。いつも通りでしょう」
「ふーた、自覚あるんだね」
「転がすわよ」
光啓と双葉じゃねーか。取り合わせとしては結構珍しいな、確かに。
俺がいる階をスルーして、二人はそのまま階段を上っていった。
「………………!」
よし、つけよう。
人気がない場所でする話。ダメだダメだとわかりつつ、気にならない方がおかしい。
足音が一度途切れたのを見計らって、俺も階段を上った。
このまま行くと屋上か。つくづく、聞き耳を立てるのに縁がある場所だな。
二人が屋上に出るのを確認し、ドアに張り付く。隙間を開けて様子をうかがった。
デジャブすぎるけど気にしたら負けだ。
双葉はフェンスに指をかけ、グラウンドを見下ろしていた。立ち位置的に、ここからだと二人の表情がわからないな。
「先日ね、偶然聞こえちゃったの。ナナちゃんが解消部を作った理由と、ヒロがイチローを誘った理由」
「それってどんな話?」
「平然とノータイムで返してくるあたりはさすがね。でも、別にカマをかけたつもりはないわよ?」
みんなの前でしない話ってことは、光啓的には聞かれたくない話ってことか?
双葉は振り向き、その内容を話し始めた。
「ナナちゃんが解消部を作ったのは志帆先輩のため。美人だしいろいろできるけど、いつでも無表情で感情を上手く表に出せないが故、周りから距離を取られてしまう。あまり積極的ではない、そんな彼女のためにナナちゃんが作った。志帆先輩の根本をちゃんと理解できる人間を増やすためと、志帆先輩本人が他人との壁を作らないようにするための部活。そうでしょ?」
「本当に聞かれてたのか」
「だから言ったでしょ? 次は、イチローを解消部に連れて行った理由ね。イチローの願いを知っているからこそ、本当になんとかしたかった。だからこそ、志帆先輩を使って主人公にしようとした」
志帆さんを使うってどういうことだ。俺が主人公になるのと、志帆さんが関係あるってのが驚きだ。
光啓は頭を掻いた。
「そうだよ。全部、俺とナナちゃんが仕組んだ。解消部を作った理由については、志帆先輩本人も知ってる。それに同意した上で、志帆先輩も解消部にいるから」
「でもイチローの件については別だよね? 志帆先輩にも、イチローにも言ってない」
「こればっかりは、本人たちには言えないからね」
「イチローなら、志帆先輩のパーソナルスペースにも踏み込んで、彼女を理解できるだろうって思ったのね。ナナちゃんは志帆先輩の良さをいろんな人に伝えたかった。イチローの周りには、特定の人が集まるから」
「正解だ」
「ストーリーにヒロインを置いて話を展開させる。イチローの物語に志帆先輩を置いて、基本中の基本を踏襲したかったのね?」
「――正解だ」
息も吐かせぬ展開とは、こういうことを言うのだろうか。話が急すぎて、なかなか理解がおいつかない。光啓とナナちゃんが、全部仕組んだというのか。
「人の力を借りて主人公になるのと、人の掌で踊らされて主人公にさせられるのでは、雲泥の差があるとは思わない?」
「それでも俺は、イチローの願いを叶えてやりたい」
ここからでもわかる。アイツの真剣な顔が。真摯な眼差しが。見えてないけど、わかるんだ。
いつだってそうさ。
俺の自業自得で落とし物をしたって、絶対手を貸してくれた。
謂われもない罪で上級生に囲まれたって、俺の前に立ちふさがってくれた。
今回だって、アイツにはアイツなりの考えがあったはずだ。
「なかなかメンドくせぇ話になってんな」
「ろくっうぼろあっ」
「大声出そうとすんなよ、メンドくせぇな」
後ろから現れた録輔に驚き、思わず叫びそうになった。それを強制的に封じる録輔の手。男の手で唇をふさがれるなんて屈辱すぎる。悔しい……けど……いや悔しくねぇから。単純に気持ち悪いだけだわ。
「なんでお前がここにいるんだよ!」
声は抑えめに、けれど感情は満載で。
「お前らを呼んでこいって姉ちゃんが。んで探してたら二人を尾行してるお前を見付けた」
「それで俺をつけてきたと」
「ああ、なんかあんのかと思ってよ」
二重尾行かよ。
あんな静かな場所で尾行に気付かない俺も俺だけど。
「録輔、お前最初から聞いてたのか?」
「あん? 当然だろ?」
「当然かどうかなんてしらねーよ」
「てめぇ、やんのかコラ」
「お前、昔からそうやってすぐ喧嘩腰になんのな。双葉も光啓も俺も、やめろって言ってるだろ」
「仕方ねぇだろ、そうやって生きてきたんだからよぉ」
「ああそうだな。確かにな」
ケンカっ早いのは昔から。それを止めるのは俺たちの役目だけど、こいつがいたから荒事はなんとかなったようなもんだ。前に出るのは光啓だけど、その光啓と一緒に前に立って身体を張ってたのはコイツだ。
「でもそんなお前だけど、良い部分もたくさん知ってる。だから十年以上一緒にいられたんだ」
「……だな」
録輔は俯き、そう言った。
もしかして、もしかしてと思いたい。こいつも俺と同じ気持ちだって。もう一度元に戻りたいって。
会話が途切れたのを誤魔化すように、もう一度双葉と光啓に視線を戻した。
「光啓アンタ、ちょっと過保護過ぎるんじゃない?」
「ははっ俺もそう思ってるよ」
「それなら、今すぐにでもやめるべきだわ」
「ふーたはやっぱり、イチローのことが嫌いなのか? まだ、許せないのか?」
「そうは言ってない。ちょっと前までは、口も聞いてやるもんかって思ってたけど、イチローと話してて、もうどうでもよくなってきてる。ロックやヒロと一緒にいて、居心地が良いなって思ってる」
「それなら――」
「別にイチローを主人公にするっていうのは問題ない。けれど、無理矢理ストーリーを作るのはやめろってこと。イチローを思うのなら、自身の手でなんとかさせるべきだと思う」
突然、双葉がこちらを見た。
いや待て待て、俺たちは隠れてるんだぞ? なんで双葉がこっちを見るんだ。見ているのは光啓だろう。
「出てきなさいよ、イチロー。それにロックもいるんでしょ?」
昔から勘が鋭いやつだったな、なんて思いながらドアを開いた。
「相変わらずすげーな、お前」
「前に言ったでしょ? ちっちゃい頃から、おじいちゃんの下で武道を習ってるの。人の気配とか、そういうのには敏感なのよ」
そういや言われたような気もするな。全然忘れてたけど。それでも超人的な能力じゃないかなとは思う。
「忘れてたのね」
俺の心が読んでるかのような発言だな。能力者かよこいつ。
「違うわよ」
能力者だわ。
「でもなんでわざわざ呼んだんだ?」
「呼ばなきゃずっと隠れてたくせに。それに、ここは本人に確認取るべきだと思ったのよ」
「確認? 今の話の中で俺に確認するようなことなんてあったか?」
「あったでしょ。ヒロのシナリオ通りにことが進んで、アンタはそれでいいのかってこと」
光啓の方を見やる。
いつも笑顔が眩しいこの男も、このときばかりは苦い顔をしていた。
推測でしかないけど、俺に拒否されるんじゃないかと思っているんだろうな。
「このやり方は許せない」
光啓が、覚悟を決めたかのように目を閉じた。
「でもな、そいつは自分なりに考えてそうしたんだ。俺のためを思ってくれたんだと思う。だから全部は許せないけど、怒る気にもなれない」
「いつも通り、軟弱で優柔不断。本当にそれでいいの?」
「優柔不断で結構。主人公ってのは優柔不断なもんなんだよ」
「なんかそのわかったような口の利き方、ムカツクわね」
「ああ、ムカツクな」
今まで黙ってた録輔まで参戦。どれくらい腹立たしいんだよ。
俺は怒る気にもなれないし、責める気もさらさらない。それは本当だ。
「光啓のおかげで、自分がどうしたいのかがわかったんだ」
「どうしたいの?」
双葉が俺の顔を覗きこんでくる。不思議そうな顔をしているが、若干近い。
「主人公は独りじゃなれない。自分を認めてくれる人がいなきゃ、主人公にはなれないってわかったんだ。今までのやり方を否定しちゃったらバカみたいだから、これまでのことはこれまでのことで置いておく。けど、これからはまた別のやり方をしてきたいなって」
三人とも俺を見つめ、黙って話しを聞いてくれていた。
「喚いても騒いでも始まらない。誰かに認めさせるんだ。俺が『カッコイイ』ってことをさ」
空を見上げる。雲はなく、星空が広がっていた。
と、途端に笑い声が三つ聞こえてくるではないか。
「な、なぜ笑うか!」
「だって」
「なぁ?」
光啓と録輔が顔を見合わせ、アイコンタクトを取り合っていた。
「なんだよ! 言いたいことがあれば言えよ! むず痒いだろ!」
「二人が言いたいこと、本当にわかってないみたいね」
「わかったら聞かねーよ!」
「じゃ、それは自分で考えること」
こいつら三人イジワルだ。イジワルだけど、それがまたいいんだ。これが、望んでた形なんだ。
「また四人でバカな話できるかな」
唖然とする光啓と目があった。
「できるよ。きっとできる」
「お前のおかげだよ、ホント。ありがとうな」
「イチロー……!」
手を広げて俺に向かってくる光啓。
「でもそうはいかないんだなこれが」
躱してやった。
後方では、録輔と光啓が抱き合っていた。録輔の迷惑そうな顔が無駄に面白い。
「まあ、光啓のシナリオに関してはイチローがそれでいいって言うなら私は口出すのやめる」
「いいのかよ」
「いいんじゃない? 志帆先輩、アンタにはもったいないけどね。私がとやかく言うことじゃないわ」
「いやでも待てよふーた。イチローのことは……」
俺と双葉の会話に、もう一度割って入る光啓。その先は言うべきでないと思うが。
「ヒロ、なんか勘違いしてない? それにロックも。私、別にイチローのこと好きじゃないんだけど」
一同、驚愕である。
俺も開いた口がふさがらない。
「元々さ、私たち四人って、近所の幼なじみ二人組が合わさってるじゃない? 私とイチローは家が近くて、生まれた直後から一緒だった。ヒロとロックもそう。保育園に上がる前に、遊びに言った公園で、その二組が出会って腐れ縁の始まり。私はいわば、イチローのお姉さん的なポジションなのよ。好きだけど、それは男としてじゃない。だからヒロのこともロックのことも好きよ。友達としてね」
やめたげて! もう録輔の体力はゼロよ!
と思って録輔を見たが、逆に晴れやかな顔をしている。
「んだよ、俺の顔になんかついてんのか?」
「いやだってお前双葉のこと……」
「デジャブだやめろよ。それに、ふーたを女として見るとかありねぇし」
「ロックアンタ……!」
「待て待て! 最後まで聞けよ!」
掴みかかろうとする双葉に言い聞かせ、ロックは話を続けた。
「俺たちの中で一番つえぇのはふーただ。昔から武術を習ってたんだから当然かもしれねぇが、俺はそんなふーたの強さに憧れてただけだ」
「それじゃあ、中学のときの俺って……」
「ただの勘違いだバカヤロウ」
なんということだ。
一気に力が抜けてしまう。
全部俺の早とちりが原因で、四人の仲を壊したってのかよ。全部、完全に俺の責任じゃねーか。
「お前がバカなのは知ってる。だから、一度デカく怒って終わらそうとした。でも、時間が経つにつれて、妙に意識し始めちまったんだ。そしたらなんか予想以上にむかついてきちまってよ」
「私もだいたいそんな感じ。謝られる度に意固地になっていくのね。そのうち、どうやって接したらいいかわからなくなったわ」
「ああ、その通りだ」
「それじゃあ、許してくれるのか……?」
「それとこれとは違うわ。私は一生イチローを許さない」
「俺もだな」
「許したわけじゃないのに、和解すんのか?」
「そうね。これでまた私たちのこと理解できただろうし」
「つかな、なんかして欲しけりゃこっちから相談するっつの。相談しねぇってことは、自分でなんとかしてぇってことだろうが」
「ようは空気読めってことよ」
なるほどわからん。
相談されなきゃ行動すんなってことか。いやでも、相談したくてもできないこととかもあるだろうし。
「考え過ぎなくていいよ」
「光啓……」
「悩んでるなって思ったら、聞いてみればいい。自分勝手に過剰干渉しようとするからダメなんだ。友達なんだから、ちゃんと話し合わないと」
俺の過ちは一つだけ。自分でなんでもしようと思ったことだ。たぶん、それだけなんだと思う。
「ヒロがイチローの行動を咎めなかったのは、二人が似てたからなんでしょうね」
「俺と光啓が似てる? 全然似てないだろ?」
「気付いてねぇのかよ。バカなところがそっくりだぜ」
双葉と録輔が見つめ合った後、急に笑い出しやがる。なんか腹立たしいな。
「まあ、いっか」
グラウンドでは後夜祭が始まっている。キャンプファイヤーを中心にして、みな思い思いの行動を取っていた。ここからだと詳細はわからないけど。
毎年恒例だが、簡易ステージでは軽音部がライブをやって、調理部は食べ物を配る。
「ほら見て、花火だわ」
「毎年毎年、よくやるよなぁ」
「華岡市名物だからね。どこからそのお金が出てくるんだろうって思うけど」
「決定戦のときのステージとかな。いろいろやり過ぎだ」
そんなくだらない会話をしながら、四人で花火を見上げた。
いつか必ず四人に戻ってみせる。そう意気込んでいたときのことを思い出していた。
「簡単なことだったんだな、割と」
「なんか言ったー?」
「いや、なんでもない」
花火の音にかき消されて、双葉には聞こえなかったみたいだ。
紆余曲折あったけど、俺の望みは叶った。最後はあっけなかったけれど、これでいい。これが本来の形なんだから。
「そういや、録輔は俺たちを呼びにきたんじゃねーのか?」
「やべぇ、忘れてた……」
四人は一斉に屋上から駆け出した。これ以上遅れるわけにはいかないと、目指すのはグラウンドだ。

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