傷だらけの限界超越(リミットブレイク)

絢野悠

第17話

あー、なんと言ったらいいのか。うつ伏せのまま、限られた景色を見つめているのも飽きてしまった。俺はこのまま放置されて、最後に倒されるのかなと、そんなことを考えてしまう。
迂回するために森の中を通り、京介や霞と別れ、その後リズとも別行動をとった。直後、俺は断真先輩に襲撃されてしまった。が、戦ってはいない。軽く背後から切りつけられただけ。あろうことか「美味しそうなものは最後までとっておくタイプなんだ、私は」なんて言いやがった。
俺は『生かされた』のだ。一瞬で倒されてもおかしくない状況だったのに。
悔しくて大声を出したいのに。通信して味方に近況を伝えたいのに。身体がまったく言うことをきかない。ただ、仲間がやられていくのを聞いているだけ。俺がこうしている間にも、望未、薫、霞、カティナがやられた。
なによりも、レイナとリズの戦闘が気になって仕方がない。もちろんリュートの方も気にはなるが、あの人なら持ちこたえてくれるだろう。確証はないけれど、あの人はなにかを隠している。
「おい、一人でお昼寝か。いいご身分だな」
「…………」
京介が来てくれたが、なんか嫌な予感がする。
「なんだなんだ? なんか言えよ変態」
「…………」
喋れねーんだよ。速くヒーラーになって治せよクソ野郎が。
「はは~ん。さては俺の奴隷になりたいんだな? そういうことはもっと早く言えよな」
肩をバシバシと叩かれた。
思い切り睨みつけてやると、京介は少したじろいだ。いや、睨むこともできないはずなのだが。
「………」
「わかった、わかったから。そういう目で見るなよ」
ヒーラーにロールチェンジした京介は、俺の背中に触れた。
「ノーマライズ」
身体が軽くなっていく。数秒間そうしてもらうと、立ち上がるまで回復した。
「麻痺効果か。誰にやられたんだ?」
「よいしょっと。断真先輩だよ。あとで倒すって言われたわ」
「ライバル視されてるな」
「そうじゃねーよ。ただ楽しんでるだけだ。それよりも、さっきはよくも好き勝手言ってくれたな」
「はっはっは、まあそういうなよ。ちょっとしたお遊びだろ?」
「お前、終わったら覚えとけよ」
「その前に失神させよう」
「俺よりも力あるからってすぐ暴力に訴えるのやめよう」
またどこかで報復してやる。
京介にコンダクターを任せ、状況を確認しなければ。
「この二つの点がリュートと断真先輩。四つの点がリズ、ほのか、レイナ、マイナか。さて、どう動くか……」
「んなこと言ってる場合じゃねーだろ。さっさと行くぞ」
「どっちに!」
「リュートの方が京介、リズの方が俺だ」
「おい、俺が倒されたら終わりなんだぞ?」
「搾承紋とロールチェンジがあるだろ。男ならなんとかしてみろ」
「わかった」
やけに素直だなとも思ったが、理解が早いのはいいことだ。
京介と一緒だから流動魔法は使えない。魔法の強化だけを行い、俺たちは目的の場所へと向かった。
「あとで、ちゃんと褒めてくれよな」
とか気持ち悪いことを言うのは無視だ。
リズとリュート、両方の戦闘に耳を傾ける。一度通信を入れて二人の状況を確認するが、あまりいい感じではないようだ。
「両方とも押されてるっぽいな。リュートも苦しそうだった」
「それを打開するために早くいかなきゃならないんだ。ほれ、お前はあっちだ」
「ほいよ、仕方ないから行ってやらあ」
「絶対やられんなよ、王さま」
「そりゃこっちのセリフだ」
俺は一人、森の中を駆け抜けた。
ふと、目の端に人の姿を捉えた。小さな身体と身の丈に合わない大きなマントを見て、あれがマイナだと認識するのに時間はいらなかった。俺は急いで追いかけ、その肩を掴んだ。
「待てよ」
「語、さん……?」
「ああそうだ、鳴神語だよ。悪いけどちょっと止まってもらえるか」
こちらに身体を向け、マイナはゆっくりとまばたきを一つ。
「敵に対してこんな行為、なにか理由があるんですよね?」
「そうだ。聞きたいこともあるしな」
こうして見ると、本当にレイナとよく似ている。特に目鼻立ちがそっくりだ。そのことに今まで気付かなかったのは、身体的特徴と性格からくる表情の変化のせいか。
「通信は?」
「切ってあります」
「よし、思念通話に切り替えるぞ」
トラフィックギフトを操作し、念話対象をマイナに設定。マイナもそれを受信したようだ。
〈これでいいですか?〉
〈それじゃあ話しをしよう。お前、断真先輩になにを言われた?〉
〈なに、とはどういうことでしょうか〉
〈アイツのことだから、どうせ妙な取り引きでも持ちかけられたんだろ?〉
〈断真さんのこと、知ってるんですか?〉
〈俺はな、元々このストラグルには乗り気じゃなかったんだよ。勝っても負けても、頑張ったって思えればいいかなって。でもな、断真は言ったんだ。お前が負ければ、アスティクト姉妹は一生奴隷だって〉
「そんな!」
彼女は手で口を覆い、また思念通話に戻った。
〈断真さんは私に約束してくれました! 私が出場して勝てば、お姉ちゃんを自由にしてくれるって!〉
〈レイナもそう言われて、断真に使われてたんだよ。断真先輩とコミュニティを組んで、一位になり続けないと支援をやめるってな。レイナの学費やマイナの医療費、あとは生活費か。それをさせまいとレイナは戦ってる〉
〈そんなの矛盾だらけじゃないですか!〉
〈でも、誰が勝っても損をしないようになってる。断真はたぶん、楽しめればそれでいいんだと思う。楽しむというか、こうやって精神をかき乱されて葛藤しながら戦う人を見るのが好きなんだよ。もしかすると俺たちが知らないような思惑があるのかもしれない。けど現状では不明だ〉
〈悪趣味ですね〉
〈じゃなきゃ、こんなことにはならない。もしかしたら他にも理由はあるかもしれないが、俺にはわからない。それでもまだ、お前は戦うのか?〉
〈戦わなきゃお姉ちゃんが――〉
〈俺がなんとかするよ〉
マイナの目が大きく見開かれた。
〈あの断真さんを倒すと? お姉ちゃんですらあしらわれてしまうんですよ?〉
〈それでもだ。俺が倒す。だから、むこうに帰るんだ〉
〈私にドロップアウトしろと言うんですね〉
〈くれぐれもレイナには言わないでくれよ。そういう約束だからな〉
レイナにさえ伝わらなきゃいい。この会話も聞こえてないはずだ。思念通話は対象を選択し、その相手が受信しなければ念話通信は成立しない。それと同時に、ギャラリーは思念通話までは聞き取れない。
デメリットと言えば、少し疲れることだろうか。結局のところは魔法な上、かなり繊細な操作が必要になる。戦闘中には行えないし、遠く離れていても不可能。本当にこういう状況でしか使えない。
〈わかりました。正直なところ、体力的に限界なんです。私病人なので〉
小さく舌を出したマイナは、レイナの妹とは思えないほど可愛らしかった。
通話を切り、拳を構えた。
「受け取ったぞ」
マイナは静かに目を閉じた。
コミュニティストラグルには棄権というものがない。敵にせよ味方にせよ、倒さなければいけないのだ。
「許してくれ」
セーフクラフトで拳だけをエンハンス。流動魔法で加速して、一気にその身体を撃ち抜いた。
病人をぶん殴るなんて、これが損な役割と言わずなんと言うんだ。
消える直前に見たのは、レイナとは似ても似つかないような、清々しい笑顔だった。
しかし、こんなところで感傷に浸っている場合ではない。早急にあいつらのところに行かなくては。
「京介、どっちにいけばいい」
走り始めながら、通信で京介を呼び出す。
『右、もうちょい右だ。そう、そのまま前進でいい』
「話してる余裕はあるいたいだな」
『バカ言うなよ、こっちはこっちで手一杯だ』
「そうかい。なら通信切って急いで行くわ」
『早く来いよ、変態』
通信を切り、足に全神経を集中させた。流動魔法を使うつもりはない。俺は元々魔法に長けているわけではないので、頻発すれば今後の戦闘にも関わる。
あと一人、残すは断真先輩だけだ。四人ならなんとかなる。今はそう信じるしかなかった。

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