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傷だらけの限界超越(リミットブレイク)

絢野悠

第15話  花峰ほのか

望未の腕を軽く叩いて体力を回復させた。
私の特技はクイックヒール。相手に触れることで回復速度を上げる。普通のヒールが三分の一程度の回復力ならば、クイックヒールは五分の一程度。その代わりに速度をあげていた。しかし、クイックヒールを使える人間はあまりいないらしい。
これは発勁の応用であるため、そう簡単に使えてもらっても困る。
元々花峰流は、体内を巡る気の力を使うことを前提としている。相手の気と同調するというのは上位の技だが、私には才があったのだろう。
「使えるぼっちびね」
「黙りなさい陰湿メガネ」
こんな戯れをしている時間はない。待ってはやらないと、麻耶先輩の瞳が語っている。
「さて、どうしようかしらね。メガネとぼっちが頑張っても勝てるような相手じゃないわって、そんなの知ってるか」
「初めて見た瞬間から、この人はマズイと思ってた。一人だけ、空気が違う」
断真先輩のような邪悪さ、レイナ先輩のような楽観性、玲司先輩のような静けさ、ガルド先輩のような狂気。皆雰囲気は違うものの、一貫して根本にあるのは『意思』や『自我』というものだ。普通の人間は必ず持っているそれらを、彼女は持っていないような、そんな気がした。それはリズともまた違う。リズには明確な感情があるから。
「来る」
望未の言葉に合わせ、拳を軽く握って身構えた。が、遅い。当然私の挙動がだ。
胸元を思い切り押され、そのおかげで麻耶先輩の攻撃は回避できた。させてもらった、が正解だけど。
「お礼は言わないわよ」
「行動で示しなさい」
瞬動。薫のものとは全く違うそれは、風が吹くなんて優しいものじゃない。暴風がぶつかってくるような、凶悪な速さだ。
もう一度鞘に収め、相手は突撃の準備に入った。この人の攻撃は直線的で、しかも一振りで終わり。でもたぶん、一撃もらった瞬間に終了だ。
防戦一方、回避だけに集中。私も望未も、攻撃に転じることができない。
望未は武器という武器は持っていないが、私と違って盾を持っていた。それでもなお、あの速度で攻撃されては捌ききれない。半分くらいは防御できているが、半分は避けても避けきれなかった。プラス、私を守るために余計な攻撃もその身に受けていた。
「隠れてなさい。アンタがやられたら、味方を回復できなくなる」
「なら隙を作って。打突だけなら自信ある」
避けきれずにいれば望未が助けてくれる。盾になり、私を守ってくれていた。それが悔しくて、悔しくて仕方がない。
この学校に入る前もそうだった。私はずっとリュートに守られていた。ケンカで負けたことはないけれど、昔から小柄でイジメられていた。そして今もまた、誰かに保護されてでしか存在できないこんな自分が、あまりにも情けなかった。
目を開けよ。この身体は私の物だから。
耳を澄ませ。ここはもう私の居場所だ。
腕を上げろ。一瞬だけ私の時間になる。
「ゲイナーエンハンス!」
望未がシールド張ると、麻耶先輩の速度が落ちる。シールドとしては弱いが、その皮膜のように薄いシールドは、普通のシールドとは扱いが異なる。使った側も、使われた側も。
私は見逃さない。この一瞬を、見逃してなるものか。
「奥義! 衝牙一芯!」
低姿勢で相手の懐に忍び込む。胸の前で右手を握り、左手で支える。肘を相手に向け、鳩尾へと打撃を加える。そしてそのまま上へと擦り上げた。目標は、相手のアゴだ。
身体の正面を走る肘が、アゴにクリーンヒットした。それは、感触でわかった。しかし――。
「ぬるい」
小突く程度の軽い体当たりなのに、なんて重いんだ。
麻耶先輩が抜刀する姿が、スローモーションみたいだった。
「させるわけないでしょう!」
襟元を掴まれて、無理矢理背後へと引っ張られる。地面に尻もちをついても目は開けたまま。幼い頃から修練を積んできた成果というべきか、癖ともいうべきか。驚いて瞼を閉じてしまうのは、戦士としてあるまじき行為だとも思っている。
「小賢しいぞ!」
蹴り飛ばされる望未。だが彼女はただでは起き上がらない。吹き飛ばされた先にエンハンスで作った球体を設置し、勢いを上に向けた。
魔法での強化、トラフィックギフトでの身体強化だけではあんなに高くジャンプはできない。そんな望未を追い、麻耶先輩は自分の意思で上空へ。
「望未……まさか……!」
ごく一部だが、エンハンスで飛べる人もいるらしい。が、攻撃する瞬間だけは接近せざるをえない。今までの攻撃をみるかぎり、麻耶先輩の攻撃はは近接専用。飛び道具はおろか、空中で軌道を変える術もない。
『頼むわよ、ほのか、カティナ』
麻耶先輩の抜刀術を自身の身体で受けながら、思い切り抱きついた。その瞬間、一筋の光が望未と麻耶先輩の身体を通り過ぎた。二本、三本と、キラキラと輝く糸のように、二人の身体を結っていく。
『お前、こんなことを考えていたのか……!』
摩耶先輩が、切迫した様子でそう言った。
『最高のやられ方だろ? 道連れよ』
その会話を最後に、二人の身体は空中分解した。
不謹慎かもしれないが、私はそれをキレイだと感じていた。
「望未さんはやられたのか」
市街地の方から現れた薫。いつも通りで、なんだか安心した。
「そっちは?」
「終わったよ。辛勝って感じかな」
薫へと歩み寄り、胸元に拳を当てた。クイックヒールで回復させる。
「とりあえずリゼットさんのところに行こう。まだ市街地にいるはずだ」
「そうね。アスティクト姉妹とリズなら、姉妹に軍配が上がりそうだし」
そう言って横を向いた瞬間、風が髪の毛を揺らした。ちょうど薫がいる方からだ。
「逃げろ……」
「……え?」
薫の胸元から腕が伸びている。その背後にはアイツの姿があった。
「武闘家のキミでも、狙撃手のカティナくんでも気づかなかった。カティナくんは今コンダクターだよね? 目に見えるものだけに囚われてしまったようだね」
腕を引き抜かれ、薫の身体が地面に落ちた。徐々に空気に溶ける彼を、私は見ていることしかできなかった。
「霊法院……断真……!」
出会った瞬間の立ち位置が悪すぎた。あまりにも近すぎたのだ。物理的にも精神的にも逃げられるような状況でも、状態でもなかった。背を向ければ薫の二の舞い。このまま後退しても追いつかれる。なによりも、今目の前にいる『恐怖』と向き合うことができない。
コミュニティストラグルなんだ、死ぬことはないはずだ。それなのになんで、こんなにも恐怖を感じているのだろう。
伸ばされた手に、肩を掴まれる。断真の卑しい笑みが、すぐそこにあった。
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
固まっている私の目の前を、なにかが通りすぎた。そのなにかは、断真の身体を吹き飛ばし、数メートル離れた場所に停止した。
「大丈夫かほのか!」
「あ、え、ええ。なんとか。それよりもリュートがなんで……」
「前線には誰もいなかったから、カティナの指示で戻ってきたんだ。狙いが後衛だなんて思わなかった。断真なら真正面から叩き潰してくと思ったんだが」
「真正面からもいいけど、じわじわと後ろから迫っていくのもありだと思ってね」
無理矢理会話に入っくる断真はダメージを感じさせなかった。感じさせないというよりも、本当にほとんどダメージを受けていない。
「ようやく捕まえたぞ、断真」
「捕まっちゃったね。でも後悔しない? 私は強いぞ?」
「知ってる。だからこそ、ケリを付けにきた」
私と断真を遮るかのように、リュートは腕を出した。
「一年の頃は負けたが、二年からの私は負けなしだ。勝てると思っているのか?」
「勝てるか負けるかじゃない。俺はお前に負けたことで本当の負けを経験した。そして自分を磨き、また公の場で戦うことを望んでいた」
「キミが所属していたコミュニティを壊したのが、そんなに癪だったか?」
「それもある。あいつらはお前の力に畏怖を覚え、絶対にたどり着けない領域の人間だと知った。そして、この学校から去っていった」
「三年のときだったっけ。確かにあれは申し訳ないと思っているよ」
リュートが三年のとき、一時期すごく落ち込んでいた次期があった。詳細は知らないが、なにか関係があるんだろう。
あのとき、私はなにもしてあげられなかった。ずっと私を守ってくれた彼を、私は一度も守ることができない。
子供の頃、イジメられたときだって助けてくれたのに、そう思うと苦しくて仕方がない。
「申し訳ない? 本当にそう思っているか?」
「自分の欲望のまま、殴っては回復させ、殴っては回復させ。何度でも苦痛を味あわせた。正直楽しかったよ」
「それがお前の本音か。これで躊躇なく殴れる」
「さっき思いっきり殴ってたじゃないか」
「まだまだだ。あんなものじゃ足りない。お前に膝をつかせるのが目的だからな」
「本当に勝てなくてもいいと思ってるんだな」
「あのときの雪辱を果たしたいだけなんでね」
私に戦わせる気がない。リュートの背中はそう言っていた。
「ここにいるわ。ヒーラーとして、アンタを支援する」
「好きにするといい。なにを言っても無駄だろうし」
「いくぞ、リュート」
「ああ、苦渋の味を教えてやる」
強風を巻き起こし、リュートは一歩で大きく前進した。
守るんだ、彼を。いや違う。彼の思いを果たす場であるこのコミュニティを全力で守る。
今からでいい、この気持ちを力に変えるんだ。

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