魔法少女リンネ ~ The world of RINNE~

絢野悠

第18話

学校が終わり、昨日と同じくワクドナルドにやってきた。どうしてここなのかと、来る時に縁に訊いてみた。


「安いから! それと女子高生っぽいから!」と言われた。まあ、わからなくはない。それっぽいのは事実だから。


途中で合流した真摘、それと縁が隣り合わせ。その正面に私だけが座る。


「それでなにかわかった?」


縁がポテトを食べながら、さもどうでもよさそうに訊いてくる。あまり興味がないのか、期待していないのか。


「特にこれといって情報は得られなかったわ。式からもなにもない。私が遠距離から観察しようとすれば、逆に悟られるだろうって言われたわ」
「それはそれは、余計なことはできませんね……」


真摘が頬に手を当てながらそう言った。こちらはこちらで気が抜ける。本当にこの二人と一緒でなんとかできるのだろうか。


「策がないわけじゃない。私が言う通りにしてくれれば、勝率は間違いなく上がるはずよ」
「確実、ではないんだね」
「世の中に確実なんてないのよ。十割なんてないから、できるだけ確率を上げるの」
「で、その方法って?」
「それは今日の夜話すわ。普通に生活して、普通に向こうに来てくれればいい。ただし、決戦は今夜」


二人の目が見開かれた。


「今日!? なんでいきなり今日なのさ!」
「そうですよ、急すぎます!」
「言いたいことはわかるけど、DSを倒すなら早めの方がいいのよ。他の魔法少女を食って強くなる前倒さなきゃいけないんだから」
「そう都合よく現れるとは思いませんが……」
「現れるわ、必ず。いや、現れるように仕向けてみせる」
「もしかしてリンネ、チカゲと話をするつもりなの?」
「もちろん。そして話ができる場所も知っている。私が話をして、今日の夜、決戦場所に来るようにと仕向けるわ。どう? 乗る? 乗らない?」


二人は口をつぐんだ。当然だ、いきなり今日やれと言われて、素直に頷けるはずなんてない。けれどこの二人がいなければ成立しないのは事実だ。なんとしてでも首を縦に振ってもらわなければいけない。


「わかった、ボクはやるよ」


と、縁が言った。


「リンネがそう言うなら覚悟を決める」


その瞳は凛々しく、彼女らしい快活さが見えた。


「そう言われては、私が拒否できないではありませんか」


と、真摘が言う。


「輪廻が策を練ったのでしょう? ならば、キチンと乗らせてもらいます」


その微笑みは女神のようで、清楚な彼女を尊重するようだった。


「大丈夫、なんですよね?」
「問題ないわ。なんとか策は練った。あとは、それを仕上げていくだけ」
「わかりました。全て任せましょう」
「ボクも!」


二人に向かって一つ頷いた。


私は立ち上がり、一人で出口に向かった。


「本当に、任せても大丈夫なのですね?」
「心配はいらないわ。真摘も縁も、普通に眠ってくれればいいから」
「リンネがそういうなら、私もそれに従うよ」
「ありがとう縁。じゃあ、また夜に」


ワクドナルドを出て、私はある場所に向かった。アーケード街を抜けて大通りへ。そのまま歩みを進めて駅へ。電車で二駅ほど通り過ぎ、お店などほとんどない駅で降りた。


千影は最近、前よりも一層家にいる時間が短くなった。少なくなったというのが正しいのだろう。その原因の一つがある場所は、私もよく知っている。


目的地に到着し、ゆっくりとドアを開けた。


「やはり、ここだったのね」
「来ると、思ってた」


果歩が眠る病室。ベッドの横に千影は座っていた。


「自分がなにをしているか、理解しているんでしょう?」
「当然、全部わかってやってるよ。カホ姉が意識不明になったことで、リン姉が無意識世界を認識できるようになったことも。それでも、私は自分の意志を曲げるつもりはない」


私や果歩と血のつながりがない千影。私たちよりも目付きが鋭く、それでいて顔立ちが整っている。凄まれると、私でも少しだけ足がすくむ。


「それじゃ、邪魔者はすぐに倒した方がいいんじゃないかしら?」


私がそう言うと、千影が眉をひそめた。


「勝負しろと、そう言っているように聞こえるけど?」
「さすが姉妹、よくわかってるじゃない。今夜、決着をつけましょう。逃げるなんて惨めなマネはしないわよね?」


意図的に笑い、口を三日月に歪ませた。


なんて安い挑発なのかと、自分でも呆れてしまう。それも含めた上での嘲笑だった。


千影は私の妹だ。血の繋がりはないけど、何年も一緒に生活してきた。だからわかるのだ。彼女は私たち姉妹の中でも一番血の気が多い。それでいて挑発に乗りやすい。特に自分の方が上だとわかっている場合、笑って突進してくる。そういうタイプだ。


そう、私は彼女のことを知っている。だって、姉なのだから。


「いずれリン姉も倒す予定だったし、別に問題ない」


彼女が笑った。予想通りだった。


DSは強い。私では太刀打ちできないくらい。それでもなお、人間と人間の対話でならば同じ土俵に立てる。


「それは好都合。今夜、無意識世界の中学校で待ってるわ」


中学校ならば、私の家からも近い。どう動いても動きを感知することができるはずだ。それは千影も一緒だが、それならそれでやりやすい。こちらが逃げても追ってくるというのは、実は悪いことだらけではないからだ。


私たちはDSを感知できない。けれどDSは私を感知できる。どこにいても、一目散に向かってくるだろう。


千影が私の目の前まで歩いてきた。


眼と眼が交わる。思考が交錯する。私は千影がなにを考えているのかを考え、千影は私がなにを考えているのかを考えているのだ。


「わかった。後悔させてあげる」


吐き捨てるようにそう言って、千影は私の脇をすり抜けていった。


「昔から変わらないわね」


彼女は挑発に弱い。自分でもわかっているようだが、感情を制御できないのは昔からだった。姉としては扱いやすくていいのだけどね。


病室を出ていった千影。その代わりに、今度は私がベッドの横に立つ。


果歩を見れば、無意識世界とは違っていた。ベッドに横たわり、静かに息をするだけ。


近付いて、頬を撫でる。あっちの世界で果歩がしてくれたように、今度は私が。


「決着を、付けてくるわね」


果歩の頬から手を離した。。


家に着くまでの間、私はずっと千影との戦闘をシミュレートしていた。


まずDSと私たちでは基礎能力が違う。敏捷も膂力も数段上。今までたくさんの魔法少女を屠ってきたということは、結局のところ経験値が雲泥の差だ。


対峙したからわかるが、魔法少女としての能力もまた、天と地の差があった。


いくら想像しても、切り込んだ次の瞬間には倒される。


「我が妹ながら、面倒なことになったわ」


そう言いながら、私は帰路を歩いた。脳内ですら、一度も倒せないままで。

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