魔法少女リンネ ~ The world of RINNE~

絢野悠

第3話

この無意識世界に来られるようになったのは一ヶ月くらい前。強くなりたいと、世界を掌握できるくらいの力が欲しいと望んだら、この武具を召喚できるようになった。


「自力で魔法少女に魔装転身できるなんて、ホントすごいねキミは」
「魔法少女? そんな低俗な呼び方で呼ばないでもらえる?」
「でもね、管理者であるボクが名付けたんだ。それで通してもらいたいな」
「その感じだと、私以外にも私のような人がいると」


意識があり、魔法少女になれる人物が。


「いるよ。かなり少数ではあるけど、僕が魔装転身を与えた少女たちがね。この無意識世界の生物はみな意識がない。意識がないものをノーマル、意識がある者をイレギュラーと呼ぶ。無意識世界において、意識があること自体が間違いなんだ」
「で、魔装転身できる女子を魔法少女と」
「そう、しかも魔法少女には女の子しかなれない。しかもある程度年を取ると転身できなくなるんだ。条件としては想像力豊かで精神が若いこと。転身はね、完全に想像の力なんだ。意識世界ではできないことでも無意識世界ではできる」
「じゃあこの姿も私の想像によるもの?」
「そういうこと。魔法少女には『転身魔法』と『装備魔法』がある。転身魔法は転身すれば魔法が勝手に発動する。装備魔法は装備すれば魔法を使える。転身しなくても装備すれば能力は使えるんだけど、転身しないと武器を使えないと、そう脳内で定義付けてしまった場合は、結局転身しないと装備魔法も使えない」
「それじゃあ、私は知らないうちに定義してしまっていたのかもしれないわね」
「転身しないと武器を使えないか。それも良いんじゃない? そもそもキミ、転身後に爆発的な攻撃力を得ると想像したんだろうしね」
「なんで私の能力を?」
「そりゃ管理者だから、と言いたいところだけどね。実はキミのことはずっと監視してたから知ってるだけ」
「管理者だからと言っても、個々の魔法は把握できないということね」
「この世界を維持するので手一杯って感じなんだよね。ボクはこの世界そのものと言っても過言じゃない。だから、いろんば場所に出現できる。いくら殺しても絶対死なないし、意識世界に行くこともない。だけど、細かい部分までは干渉できないんだ。それにボク自身も、無意識世界の住人に危害を加えられない」
「なんのために存在してるやら……」
「いやあホントにそう思うよ。でもね、物理的には干渉できないけど、少しだけなら精神に干渉できるよ。例えばそうだな、キミをイジメている子たちの精神に干渉し、イジメを緩和することならできる」
「なぜ私がイジメられていると?」
「ある手段を使ってね、現実世界の情報を少しは得られるんだよ。どういう手段かはまだ言えないけどね」


管理者とは、一体どこまで人に干渉できるのだろう。私はそれが気になって仕方がなかった。どれだけ深い見聞があり、どれだけ私のことを知っているのか。


「管理者権限でね、多少の精神操作ならできるんだよ。ただし、イレギュラーは除く」
「だからこそ、自分がどうこうできないイレギュラーをなんとかして欲しいと。だから私に接触してきたのね」


イレギュラーの抹殺、それが目的か。


「イレギュラーをノーマルに戻すことを浄化というが、ボクにはそれができない。ボクはイレギュラーを選択し、イレギュラーに力を与えて制裁者にすることしかできないんだ」
「浄化の力を、イレギュラーに与えるということね」
「その力をキミに与えたい。ボクの右腕として行動して欲しいんだ」
「ようやく本題に入ったわね。長いわ」
「キミのために説明したんだってば……」
「そう、ありがとう。それでなにを企んでいるの?」
「キミは頭が良いから、包み隠さず話そう。現実世界で、キミのイジメをなくしてあげよう。その代わりに、イレギュラーを浄化して欲しいんだ」
「もしも断ったら?」
「精神に干渉していじめをなくすことができるのなら、その逆もできると思わない?」


式の口端が釣り上がった。これは取り引きではない。取り引きの皮さえもかぶれない、ただの脅迫だ。


「はあ……じゃあもう一つ訊くわ。なんでイレギュラーを元に戻さなきゃいけないの?」
「イレギュラーがノーマルを殺すと、ノーマルは現実世界で目覚める。それを続けると、ノーマルは眠れなくなって、ノイローゼになる。それは現実世界にも、無意識世界にも影響が出るんだ。それと同時に、もう既に死んでいるノーマルを殺すと、現実世界に転生すると話したよね。本来はもっと後に転生するはずの精神が転生してしまう。それは、こちらの世界とあちらの世界の均衡を崩すということにも繋がるんだ」
「両方の世界を保つために、極力イレギュラーを排除したいのね」
「そういうこと。やってくれるね?」
「わかったわ。それで、どこの誰をノーマルに戻せばいいの?」
「最終的な目的は『ダークストーカー』……DSを抹消すること」
「ダークストーカーというのは名前?」
「女の子なのはわかるけど、それ以外はわからないんだ。この世界に来るときは、もうすでに魔法少女の姿でね。一度対峙したことはあるんだけど、そのときに彼女が自分で言ってた」
「管理者のくせに重要な部分がわからないのね」
「ボクはね、目がたくさんついているわけじゃないんだよ。常に全ての場所を監視しているわけじゃない」
「そこそこテキトーな管理者だこと」
「面目ないね、ホント。というかDSは見付け次第消してくれていい。ただ、DS以外のイレギュラーも、ノーマルに戻して欲しい。イレギュラーをノーマルに戻すたびにいじめを緩和しよう。家庭内暴力もね。もちろんDSを倒してくれれば、一発で全部チャラだ」
「――了解。そうだ、一つだけ私からお願いがあるんだけど」
「どうしたの? 世界を征服させろって?」
「ええ。世界が欲しいとまではいかないけれど、私をこのままにして欲しい」
「ちゃんと言うことさえ聞いてくれるなら、ボクからキミを攻撃することはない。むしろ、ちゃんということを聞いてくれたらもっといいものをあげてもいい」
「もっといいもの?」
「ああ。さっき「二つの世界は繋がっている」と言ったね」
「でもこっちは夢、あっちは現実でしょう?」
「しかし繋がっていることは事実なんだ。やり方さえ間違えなければ、キミは魔法少女として現実に君臨することができる」
「またそんな与太話――」
「世界を征服したくはないかい?」
式の目は本気だった。
「できるの?」
「ボクはね、兄のことが嫌いなんだよ。明らかにあちらの方が位が上だ。いつも思ってたんだ、なぜボクが無意識世界の管理者で、兄が意識世界の管理者なのか。いつかぶっ潰してやろうって、そう思ってたのさ」
「それをなぜ私に言うの? もっと適役はいるでしょうに」
「キミの目的が僕の目的と一緒だからさ。どうだい、この場で手を取り合うこともできると思うんだけど」


顎に手を当て考える。これが本当ならば両方の世界を手中に収めることができる。が、式に他の目的があったとすれば私はただ利用されただけで終わる。


だがそのときはそのとき。後ろから斬りつけてやることだって、きっとできるに違いない。


「いいわ。私はなにをすればいいの? イレギュラーを倒し続けるだけじゃダメなんでしょう?」
「ボクが持っている鍵を使えば、二つの世界同士を隔てる壁に穴を開けることができる。そうすれば、キミは意識世界でも魔法少女になれるんだ」
「そんなことができるのなら、アナタ一人でもなんとかなるんじゃない?」
「ボクには戦闘力がないんだ。穴を開けたうえで、手の平で転がってくれる人がいないとね」
「はっきり言うのね」
「ハッキリ言ってもキミは気にしないでしょ? で、やるの? やらないの?」
「答えはイエスよ。こっちではイレギュラーを退治。向こうでは破壊活動って考えでいいわね。」


こちらでイレギュラーを退治する意味があるのかどうか、という質問は野暮だろう。いくら意識世界を手にしても、その世界が荒れてしまっていては意味が無いからだ。


「そういうこと。魔法少女で破壊活動を行えば、きっと兄だって姿を現すはずだ。そしたらその兄をボクが殺す。これで二つの世界は僕の物で、キミは世界征服を完遂できる」
「オーケー、よろしくお願いするわ。私の野望のために」
「ボクの野望のためにも、よろしくお願いするよ」


差し出された小さな手を握った。冷たく、生気が通わない手だった。

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