廃クラさんが通る

おまえ

020 屋敷裏の盗賊

「ざしゅ! ざしゅ! しゅばばばばば!」
 ログインするなりギルドハウスの裏からけたたましい斬撃音が聞こえてくる。 俺はハウスの裏に回りその音の発生源を確認しに行くと、身軽な軽装で案山子カカシ相手に短剣を振り回す盗賊シーフがいた。 ――その名前を確認してみると――
Sky:セルフィッシュさん!?
 俺の呼びかけに手が止まるセルフィッシュさん。
Selfish:ああ、スカイか。ログインしているのに気がつかなかったSky:なんでセルフィッシュさんがシーフやってるの? タンクやめちゃうとか?Selfish:タンクはやめねえよ。ただ、ちょっと初心に戻ってみようと思ってSky:初心に戻る? そういえばセルフィッシュさんはシーフで始めたんだっけ?Selfish:ああ、そうだ。この前ムトがむーたんの悲劇を繰り返したおかげであの時のタンクの気持ちがわかった自分が悔しくてな。もう一度外から自分を見つめ直してみようと思ったんだSky:そうなんだ。でもセルフィッシュさんいつの間にシーフのレベルカンストしてたの?
 セルフィッシュさんはおそらく自分で製作クラフトしたのであろう最新鋭の装備を着込んでいる。 当然上限カンストレベルでないと装備できないものだ。
Selfish:暇を見つけてはミッションで上げていたんだ。だから当然スキル回しなんかも適当だからこいつをメインで使ったりはできねーよ?
 このゲームには任務ミッションをこなすことにより経験値やアイテムをもらえるシステムがある。 一日にこなせる任務ミッションには限りがあったりインスタンスダンジョンなどに行って稼げる経験値よりは少ないのだが、レベル上げの手段としては重宝する。 俺も当初は製作クラフト任務ミッション製作クラフトレベルを上げたのだが、製作クラフト系の任務ミッションはただ単に製品のアイテムを納品するだけで上げることが可能なので競売で安く出品されているものを買って上げることが出来た。 だからスキルをどのように使っていいのかもまったくわからず失敗を繰り返すこととなり、その結果美麗ミレニアムさんと知り合いになるきっかけが生まれたんだよな……。
Selfish:週末の合宿が楽しみだな、スカイSky:え? うん、そうだね
 ……しまった。 本当は合宿を辞退するつもりだったのに、まさかこの場で、長田さんとしてではなくセルフィッシュさんとして合宿の話題を不意に出されて、さらにはいかにも楽しみにしているような口ぶりだから思わず俺も同意してしまった。
Selfish:同じものを一緒に食べて、同じ風呂に一緒に入って、同じ部屋の同じ布団で一緒に寝るんだ。スカイも楽しみだろう?Sky:ちょっと!? 何言ってるの? セルフィッシュさん!? てか合宿に行くのはこのゲーム中のスカイとセルフィッシュさんじゃなくリアルの俺と長田さんだよね? 一緒に同じものを食べることはあっても一緒に風呂に入ったりとか一緒に寝るとかはないんだよね?
 しまった。 言ってしまってから気づいたが、まだ俺には合宿を辞退するタイミングはあった。 だがセルフィッシュさんがおかしなことを言うものだから俺は自分が合宿に行くものと仮定した発言をしてしまった。
Selfish:なんだ? スカイは俺とそういうことをするのは嫌なのか?Sky:嫌とかじゃなく、セルフィッシュさん、それ、どこまで本気で言ってるの?
 この目の前にいるセルフィッシュさんとスカイならそんなことをしてもまあ普通だし許されるんだろうけど、実際に合宿するのは現実世界リアルの俺であり長田さんだよ? いや、そもそも俺は合宿を辞退しなくちゃいけなかったっていうのに完全にその機会を失ってしまった。

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