廃クラさんが通る

おまえ

019 狂乱の宴

くん!」
 俺が夕飯を作っていると、こっそり後ろから忍び寄り抱きついてきた会社帰りでスーツ姿の『お姉ちゃん』
「お帰り、お姉ちゃん」
 半身だけ振り返りお姉ちゃんに声を掛けるとそこには満面の笑顔。 俺はいつもの如く忍び寄るお姉ちゃんの気配に気づいてはいたのだが、その素振そぶりを見せず料理を続けていた。
「蒼空くん! 今日の夕飯は何?」
 俺に抱きついたまま尋ねるお姉ちゃん。
「親子丼だよ。もうすぐ出来るからお姉ちゃんは着替えてきて」
 鍋の中からは鶏肉や玉葱などをだし汁で煮込んだいい香りが漂う。
「うん! わかった」
 お姉ちゃんは俺から離れると台所から立ち去ろうとする。
「あ、そうだ!」
 台所から出ようとしたところで立ち止まり何かを思いついたお姉ちゃん。
「なに? どうしたの?」「最近涼しくなってきたからそろそろおうちのお掃除とかしにいったほうがいいかな? って思って」「ああ、そうだね。夏の間、雑草とか伸び放題だったろうからね。で、いつ行くの?」「今週の土日にお掃除しに行こうか?」「うん、いいんじゃない、それで」
 俺は何気なしに返事をし、それを聞いたお姉ちゃんは台所から出て行こうとする。 ――が、……いや、まて。 今週の土日!? 土日っていったら……。
「駄目! 今週の土日は駄目!」「え? なんで? 蒼空くん土日何かあるの?」「合宿があるから、生徒会のみんなで合宿をすることになったんだよ」「合宿? 私はそんなの聞いてないわよ?」「今日急に決まったから。土日に合宿をするって」「何の合宿なの? 何か目的があって合宿をするんでしょ?」
 台所から出ようとしていたお姉ちゃんは俺に詰め寄ってくる。
「埼高には昔から『埼高ダンス』ってみんなで踊るダンスがあって、その振り付けを考えるために合宿をするんだよ」「それって合宿をしないと振り付けが作れないようなダンスなの?」「いや…、今までのダンスはそんなにたいしたようなものじゃないっていうか、盆踊りとかそんな程度のものだったんだけど、会長の長田さんがもっといいものを作りたいって言うから……」「会長!? 会長っていったらこの前蒼空くんにメスの匂いを塗りたくって誘惑しようとした女のことでしょう?」「いや、だからあのときは誘惑されたとかじゃなく……」
 どうなんだ? あの時の出来事は? ただ単にからかわれただけのような気もするけど。 臆病者チキンハートな俺は怖くて未だにその真相を聞くことが出来ない。
「だめよ! そんな女の合宿なんかに参加したら。きっと蒼空くん骨も残らないくらい散々しゃぶり尽くされちゃうんだから!」「しゃぶり尽くされるって何? それに長田さんと二人の合宿じゃなくて他にもメンバーがいるんだから!」「他のメンバーって何人? 女はその会長さんだけ?」「生徒会のメンバーは俺を入れて全部で五人かな? 女の人はそのうち三人。あ、監督をする先生も女の先生だから…いや、それを含めていいのかな…?」「女のがだいぶ多いじゃない! やっぱりそうよ! 合宿なんて名ばかりの蒼空くんを供物とする酒池肉林の魔宴サバトが行われるんだわ!」「ちょっと! 酒池肉林とか魔宴サバトとか意味わからないんだけど! たぶん、いや、お姉ちゃんが思ってるようなことは絶対にあり得ないから!」「だめよ! 絶対に駄目! 蒼空くんがそんな合宿に参加するなんてお姉ちゃんが絶対に許さないから!」「ええ…」
 みんな楽しみにしてる合宿だったのに。 ――いや楽しみにしていたのは長田さんとジルくらい? 美麗さんは何か嫌そうだったけどどうなんだ? 柏木はわからないが百川先生も監督をするのが嫌そうな素振りだった。
「どうしても合宿に参加したいって言うならお姉ちゃんも行く! お姉ちゃんも酒池肉林の魔宴サバトに参加して蒼空くんのことをめちゃめちゃにしゃぶり尽くしてあげるから!」「だからそんな魔宴サバトは行われないから! しゃぶり尽くすとかもないから! ……ってお姉ちゃんも合宿についてくるの?」「当たり前でしょ! 蒼空くん一人でそんな危険な場所に行かせられないわよ!」「いや、危険でも何でもなくただ普通の合宿だから。お姉ちゃんが心配するようなことは絶対にないから」「断って。蒼空くんは不参加です。って、明日そう言ってきて。じゃなきゃお姉ちゃんも行くから」「ええ……」
 どうする? 合宿に参加すれば『お姉ちゃん』がもれなくついてくる。 高校生にもなって保護者おねえちゃん同伴で合宿とか恥ずかしい。 いや、それよりも合宿にお姉ちゃんが参加したら他の生徒会メンバーに対して何か良からぬ事を働かないとも限らない。 とくに長田さんに対しての敵意ヘイトは相当なものだ。 みんなのために俺は身を引いた方がいいのだろうか?

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