廃クラさんが通る

おまえ

014 蹴りたい小動物

Selfish:んなもんほっときゃいいんだっつーの
 TFLOにログインし、パーティチャットで話す俺たち。 俺は一部の生徒達が俺と柏木の関係に誤った認識を持っていることについて独自に探りを入れてみた。 すると原因は柏木が脱ぎたての体操着を俺に渡していたところを見られた事が契機きっかけらしかった。 そういえばそんなことが入学したての時にあった。 柏木が体操着を忘れたから俺がたまたま予備に持ってきたやつを柏木に貸したんだ。 あの時突然教室に入ってきた女生徒クラスメイトが俺たちのことを目撃すると、軽い嬌声を上げてその場を立ち去った。 ただ単に上半身裸の柏木を見たため恥ずかしがってその場を立ち去っただけのものかと思っていたら、まさかこんなことになっていようとは。
Sky:でも長田さんだって悪く思われてるんだよ?
 そして長田さんにも俺たちに付随して物語が作られているらしい。 生徒会の会計に立候補した俺と柏木。 結果は俺が当選して柏木が落選。 生徒会の役員になった俺は会長の長田さんに頼み込み柏木も庶務として生徒会に入ることを許された。 だがその代償として俺の体を長田さんに差し出すこととなり、性的な略取をされている。 この前目撃されて噂になっている出来事もその結果だ。 ――というのが彼女ら俺たちの信奉者によって作られた物語ストーリーだ。 自分を犠牲にしてまで柏木との友情を深めたとされるその姿が、彼女らにとっては非常に尊いということらしい。
Selfish:あたしはもう懲りたんだっての、この前のあの掲示板のことで。そんなのに反論したって無駄だっつーの
 この前の掲示板のこと――ミレニアムさんを騙った偽者に対して長田さんは掲示板上やゲーム内で対抗したが、長田セルフィッシュさんの偽者まで生み出すというさらに事態をこじらせた結果になったんだった。
Selfish:あいつの言ってたことが今ならあたしにも理解できるわ。放っておけばいい。ああいうのは相手にするだけ無駄なんだって
 掲示板で悪く言われようが偽者が現れようが美麗ミレニアムさんは無視を決め込んだ。 きっと今まで何度も同じようなことがあって、その体験からそうすることが一番だということをすでに学んでいたのであろう。
Sky:え~? でも今回はちゃんとすぐ近くにいて顔も見える同じ学校に通う生徒達だよ?Selfish:いいんだって、そう思いたければそう思わせとけば。あたしとしてはむしろそう思ってくれてたほうがいくらか安心できるわSky:安心? なんで?
 いったい何が安心なんだっていうんだ。 俺と柏木にあらぬ噂が立てられ、長田さんにだって変な目が向けられているっていうのに。
Selfish:ところでスカイの後ろにいる蹴りたくなるような小動物はいったい何なんだ?Sky:ああ、そうだった
 今日ログインして、製作スキルを上げるために材料を仕入れに町まで行ったらコレが居てつきまとわれたんだった。 俺はチャットウィンドウのタブを切り替え、パーティチャットを解除する。
Muto:おーい、聞こえてるのか? いつまでお前らは俺を無視するんだ?
 チャットウィンドウにはSayで発言されたログがずらりと並んでいる。
Sky:ごめん。パーティチャットのタブにしてたから発言が見えなかったMuto:なんだよタブって? 訳のわからない言葉使うなよ
 この前と違い小さい「っ」等の拗音や漢字の変換をちゃんと使いこなしているようだ。 俺は目の前の『小動物』をパーティに誘い、チャットウィンドウのタブの切り替え方法を教える。
Selfish:おい、スカイ。こいつが柏木なのか? 俺はガルド族だって聞いていたが
 この前あった時、この小動物は確かに体が大きいガルド族で全身白くて頭の禿げている所謂『精霊さん』だった。 だが今は体の小さい子供のようなタタルル族だ。
Sky:確かにこの前はそうだったんだけどMuto:変えたんだよ、あのサイト嘘教えやがって
 確か柏木は事前に下調べをして『精霊さん』をTFLOを代表するキャラクターだと思い込んであのキャラを作ったとか言ってた。 そういえば初めてキャラクターを作成してから一週間以内ならキャラの外見は変えることが出来る仕様システムなんだよな。 この仕様システムのおかげでいろんなキャラを納得がいくまで試すことが出来る。 まあ外見だけなんだけど。
Muto:ところでこのイケメン誰なの? 俺のこと知ってるってことは俺の知ってる誰かなんだよね?Sky:ああ、セルフィッシュさんのこと? この人は長田さん。俺たちが所属しているギルドのマスターでもあるんだよMuto:え? かなちゃんなの? かなちゃん男の子でプレイしてるんだSelfishはMutoを蹴り飛ばした。
 蹴りのエモートをするセルフィッシュさん。 目の前の小動物かしわぎが吹っ飛ぶ。
Selfish:だまれ! 俺がどんな格好でプレイしようが自由だっつーの!Muto:痛い! 何か痛みが伝わってきた! なるほど、これがVRってやつなのか。最近のゲームはすごいんだなSky:いや、このゲームにそんな機能はないし、痛みが伝わる事なんてないと思うんだけど…
 柏木は何かを錯覚した? それとも本当に回線を通じてなにやら不思議な力が柏木に届いた? これは不具合としてサポートに連絡した方がいい案件なのだろうか?

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