廃クラさんが通る
008 片刃の鞘
「柏木は? 柏木はどうなったの?」
俺は柏木のことを思い出すと、ワゴン車の後ろに隠れつつ半身だけ乗りだし、ジルの「お父さん」に問いただす。「柏木? あの子、柏木君言うんかいな。ああ、なるほどな……。その子ならほら、君らの後ろにおるよ」
と、俺たちの方を指さすお父さん。
「え?」
後ろを振り向くとそこには植え込みがあった。 辺りが暗く光が届いていないので目をこらして覗き込む。 店の壁を背に頭をうなだれ座らせていている物体。
「柏木!?」
俺はその物体に近づいてみると確かにそれは柏木。 触れてみると――よかった、ちゃんと息をしている。
「ジル、あんた『柏木をヤった?』って聞いたらしいけど、このこと知ってたの?」
そうだ、ジルがそう言ったのを俺は確かに聞いた。 ジルは柏木がこんな目に遭わされていたのを知っていたのか?
「お父さんいるの何となくわかってたから、もしかしたらお父さんが何かやったのかなぁ? って思って」
俺たちの方向に歩きつつ答えるジル。 わかっていた? ジルはお父さんがいるのに気づいてたってことなのか? こんな巨体なら目立つと思うんだけど、俺はまったく気がつかなかった。
「さすがジルちゃんや、しっかり気配殺してたつもりなんやけどワシもまだまだやな」
ジルの横を歩くお父さん。
「あなたはなぜこいつのことを狙ったのだ? こんな奴だが理由もなく乱暴を働いたとなれば、申し訳ないが見過ごすことはできない。こいつがあなたに何か失礼なことをしたのだろうか?」「ああ、それな。古い知り合いによー似とったんよ。後ろ姿が。で、挨拶代わりにぽーんとやったら、ご覧の通りや」
振り上げた手を振り下ろしてみせる。 いくら軽くだろうがあんな手で『ぽーん』とやられればただじゃすまないだろう。
「お父さん加減知らないから。ほんとにもー、困っちゃうよ」
いや、ジル。 そう言うけどジルも大概だからね?
「みんなジルちゃんの友達になってくれておおきにな!」
長田さんに手を差し出すお父さん。 長田さんはそれに答え、でぶ馬鳥を抱えたまま片手を差し出すとお父さんは両手で握り、長田さんの手がすっぽりと隠れる。
「あんたはんが長田はんでんな? ジルちゃんから聞いたとおりエエ面構えやわ」「い、いえ、こちらこそ、ありがとうございます…」
顔を引きつらせ、ぎこちない返事をする長田さん。 いい人なんだろうけど、さっきジルと壮絶な格闘を繰り広げていた相手だと思うとどうしてもね…。
「こちらが灰倉はんでっか? キレーな目ぇしてはりますわ」
同様に美麗さんの手をとるお父さん。
「…どうも…」
綺麗な目と言われ恥ずかしそうに顔をそらす美麗さん。 あまり褒められることには慣れてはいないのかな?
「で、君がスカイ君やな、ジルちゃんからよーけ話は聞いとるで」
と、俺に向かい、笑顔で手を差し出すお父さん。 長田さんや灰倉さんは名字で呼んでたのに俺だけスカイってTFLOでの名前か…。 ジルは俺のことをいったいどんな風にお父さんに説明をしていたんだろうか? 俺も手を差し出し、握手をしようとするが
「ばちん!」
と、なにやら手に衝撃が走り
「うわっ!」
と、俺は手を引っ込める。
「ほう?」
手を差し出した姿のままニヤリと微笑み、何かを察したかのようなジルのお父さん。 別に叩かれたわけではない。 手を伸ばしたのは俺の方だし。
「奥原、どうしたの?」「静電気かな? 何かバチッときた」「そうか、こんな日に起こるのは珍しいな。冬とか乾燥している日によく起こるものだと思うのだが」
たしかに涼しくはなってきたがまだ秋の夕方だ。 こんな日に静電気が起こったりとかは俺の記憶にはない。
「はっはっは、そーか、そか。せやったか。うん、なるほどなぁ…」
向こうを向き、急に笑い出すジルのお父さん。 なんだ? 頷いて何かに納得をしたようだけど。
「ジルのお父さんっていつもこうなの? ジルといつもあんなすごい格闘してたり…」「うん、いつ襲ってくるかわからないから注意してないといけないんやけどね。でも最近は人のいるところは迷惑になるからやめてねって言ってあるから、こういう広いとこでしかやらないよ?」「……」
絶句する俺たち三人。 この親子は俺たちの常識の範疇を超えている。 ジルの規格外な身体能力だったり、不意に襲われた時にジルの体が勝手に反応してしまうのはこのお父さんに鍛えられたためなのか…。
「あ、そうだ、ジル、これ」
長田さんは抱えていたでぶ馬鳥を差し出す。
「ああ、それセルフィーが持ってて、うちはやっぱこっちのが落ち着くわ」
と、後ろから俺に覆い被さるジル。柔らかな感触が俺の頭を包み込む。
「え? ちょっと? ジル?」
お父さんがいるよ? すぐ目の前に。 俺にこんなことしてるの見られたら…。 ジルのお父さんが振り返り俺たちを見るなり
「よかったなぁ、ジルちゃん。そーか、見つけたかぁ」
…この状況を特にお父さんは気にしてはいない? いや、むしろ喜んでいる?
「ん? 見つけたって何が?」
ジルのその反応に
「はっはっは、さすがジルちゃんやで、気づかんでもちゃんと選んではるわ」
と、さらに豪快に笑うお父さん。 見つけたとか何を? ジルがいったい何を選んだっていうんだ?
俺は柏木のことを思い出すと、ワゴン車の後ろに隠れつつ半身だけ乗りだし、ジルの「お父さん」に問いただす。「柏木? あの子、柏木君言うんかいな。ああ、なるほどな……。その子ならほら、君らの後ろにおるよ」
と、俺たちの方を指さすお父さん。
「え?」
後ろを振り向くとそこには植え込みがあった。 辺りが暗く光が届いていないので目をこらして覗き込む。 店の壁を背に頭をうなだれ座らせていている物体。
「柏木!?」
俺はその物体に近づいてみると確かにそれは柏木。 触れてみると――よかった、ちゃんと息をしている。
「ジル、あんた『柏木をヤった?』って聞いたらしいけど、このこと知ってたの?」
そうだ、ジルがそう言ったのを俺は確かに聞いた。 ジルは柏木がこんな目に遭わされていたのを知っていたのか?
「お父さんいるの何となくわかってたから、もしかしたらお父さんが何かやったのかなぁ? って思って」
俺たちの方向に歩きつつ答えるジル。 わかっていた? ジルはお父さんがいるのに気づいてたってことなのか? こんな巨体なら目立つと思うんだけど、俺はまったく気がつかなかった。
「さすがジルちゃんや、しっかり気配殺してたつもりなんやけどワシもまだまだやな」
ジルの横を歩くお父さん。
「あなたはなぜこいつのことを狙ったのだ? こんな奴だが理由もなく乱暴を働いたとなれば、申し訳ないが見過ごすことはできない。こいつがあなたに何か失礼なことをしたのだろうか?」「ああ、それな。古い知り合いによー似とったんよ。後ろ姿が。で、挨拶代わりにぽーんとやったら、ご覧の通りや」
振り上げた手を振り下ろしてみせる。 いくら軽くだろうがあんな手で『ぽーん』とやられればただじゃすまないだろう。
「お父さん加減知らないから。ほんとにもー、困っちゃうよ」
いや、ジル。 そう言うけどジルも大概だからね?
「みんなジルちゃんの友達になってくれておおきにな!」
長田さんに手を差し出すお父さん。 長田さんはそれに答え、でぶ馬鳥を抱えたまま片手を差し出すとお父さんは両手で握り、長田さんの手がすっぽりと隠れる。
「あんたはんが長田はんでんな? ジルちゃんから聞いたとおりエエ面構えやわ」「い、いえ、こちらこそ、ありがとうございます…」
顔を引きつらせ、ぎこちない返事をする長田さん。 いい人なんだろうけど、さっきジルと壮絶な格闘を繰り広げていた相手だと思うとどうしてもね…。
「こちらが灰倉はんでっか? キレーな目ぇしてはりますわ」
同様に美麗さんの手をとるお父さん。
「…どうも…」
綺麗な目と言われ恥ずかしそうに顔をそらす美麗さん。 あまり褒められることには慣れてはいないのかな?
「で、君がスカイ君やな、ジルちゃんからよーけ話は聞いとるで」
と、俺に向かい、笑顔で手を差し出すお父さん。 長田さんや灰倉さんは名字で呼んでたのに俺だけスカイってTFLOでの名前か…。 ジルは俺のことをいったいどんな風にお父さんに説明をしていたんだろうか? 俺も手を差し出し、握手をしようとするが
「ばちん!」
と、なにやら手に衝撃が走り
「うわっ!」
と、俺は手を引っ込める。
「ほう?」
手を差し出した姿のままニヤリと微笑み、何かを察したかのようなジルのお父さん。 別に叩かれたわけではない。 手を伸ばしたのは俺の方だし。
「奥原、どうしたの?」「静電気かな? 何かバチッときた」「そうか、こんな日に起こるのは珍しいな。冬とか乾燥している日によく起こるものだと思うのだが」
たしかに涼しくはなってきたがまだ秋の夕方だ。 こんな日に静電気が起こったりとかは俺の記憶にはない。
「はっはっは、そーか、そか。せやったか。うん、なるほどなぁ…」
向こうを向き、急に笑い出すジルのお父さん。 なんだ? 頷いて何かに納得をしたようだけど。
「ジルのお父さんっていつもこうなの? ジルといつもあんなすごい格闘してたり…」「うん、いつ襲ってくるかわからないから注意してないといけないんやけどね。でも最近は人のいるところは迷惑になるからやめてねって言ってあるから、こういう広いとこでしかやらないよ?」「……」
絶句する俺たち三人。 この親子は俺たちの常識の範疇を超えている。 ジルの規格外な身体能力だったり、不意に襲われた時にジルの体が勝手に反応してしまうのはこのお父さんに鍛えられたためなのか…。
「あ、そうだ、ジル、これ」
長田さんは抱えていたでぶ馬鳥を差し出す。
「ああ、それセルフィーが持ってて、うちはやっぱこっちのが落ち着くわ」
と、後ろから俺に覆い被さるジル。柔らかな感触が俺の頭を包み込む。
「え? ちょっと? ジル?」
お父さんがいるよ? すぐ目の前に。 俺にこんなことしてるの見られたら…。 ジルのお父さんが振り返り俺たちを見るなり
「よかったなぁ、ジルちゃん。そーか、見つけたかぁ」
…この状況を特にお父さんは気にしてはいない? いや、むしろ喜んでいる?
「ん? 見つけたって何が?」
ジルのその反応に
「はっはっは、さすがジルちゃんやで、気づかんでもちゃんと選んではるわ」
と、さらに豪快に笑うお父さん。 見つけたとか何を? ジルがいったい何を選んだっていうんだ?
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