廃クラさんが通る

おまえ

005 怒涛の連撃

「おー」「すげー、コンボ途切れねー」
 と、人集りの中心にいる背の高い黒塗りの女生徒ギャル規格外おおきな胸が揺れる度に上がる歓声。 その女生徒ギャルは正面にある画面を見つめつつ体を激しく動かしている。 俺たちはみんなで駅の近くにある娯楽施設ゲーセンに来ていた。 学校の体育くらいでしか普段体を動かさない俺たち――と言っても動かしていないのは生徒会役員五人のうちの三人の約半分だが――が体を動かすことで何らかのダンスの着想インスピレーションを得られるのではないかと思ったからだ。 ダンスゲームをプレイしているジル。 プレイ内容もそうだが、主に目を引いているのはやはり目立ちすぎる背丈と風体おっぱいのジル自身なのであろう。
「おおー」
 ひときわ大きな歓声が上がる。 プレイが終了したようだ。 スコアはフルチェインのコンボを完成させた文句なしのパーフェクト。 特に汗もかかず、息も切らした様子のないジルがステージから降りると
「いえーい」
 とまわりのギャラリー達と次々とハイタッチを交わし、続々とジルに群がる人集り。 あ、これはやばい。 俺はある予感を察知すると
「ジル、すごかったね。パーフェクトとか」
 俺はその人集りにさりげなく割って入る。
「あ、スカイ。見てたんだ」
 と俺を見つけるとすかさず「ぎゅーっ」と抱きしめてくるジル。 俺はジルの胸に挟まれたまま人集りから引きはがすようにゆっくり後ずさる。
「なに? アレ? あれが彼氏カレシ?」「釣り合わねー。あんなちっこいのが」
 ……俺に対して愚痴やら罵声やらいろいろ飛んでくるのがわかる。 いや、俺はボディガードです。 からを護るための。 ジルのほうからハイタッチを求めるならまだいいけど、逆にあなたたちがうっかりジルに手を出したら、いったいどんな仕打ちを受けるのかわかったものではありませんから。 それから俺は決してちっこくないからね? ジルがでかすぎるから俺が相対的に小さく見えるだけだから。
「ジルってあのダンスゲーム得意だったんだね。オーストラリアでもあのゲームってあったの?」「やったのは今日が初めてだったよ?」「え? まじで? それでパーフェクトだったの?」「うん、結構簡単だったよ? スカイもやってみれば?」「いや、俺はああいうの無理だから…」
 簡単なはずがない。 あの結果はジルだからだっての。 俺も昔あのゲームやったことあるけど、結果は散々だったよ? 太鼓を叩くゲームだって碌なスコアを出したことのないくらいなリズム感だし、俺は他人ギャラリーが見ている前であのゲームをやる勇気なんてとてもない。
「他のみんなは?」「俺も探してるんだけどね、俺はさっき柏木とバスケのゲームしてたんだけど、そのあとあいつどっか行っちゃって」
 このゲーセンまではみんなで一緒に来たが、いろんなアトラクションやらゲームの筐体やらがあって、それぞれみんなの興味が違うということから、まずは好きなものから遊んでみようということで別行動となった。
 メダルゲームのコーナーに来た俺たち。 ここにも一際ギャラリーを集めている一角があった。
「おー」「すげー、またあの山を落としたよ」
 歓声が上がる。 その人集りの中心にいたのは長田さん。 筐体の中のメダルの山を真剣な目つきで見つめる。 傍らにはメダルのぎっしり入ったカップがいくつも並んでいる。
「これ、全部長田さんが獲ったの」「ちょっと今邪魔しないで」
 瞬きもせず、真剣な眼差しで狙いを定めてメダルを投入する。 そのメダルは筐体の中のテーブルに落ち、そのテーブルから溢れたメダルがさらに下のステージにこぼれ落ちる。 テーブルは前後運動をし、ステージの上のメダルを押し出し、下のポケットへと落ちる。 その落ちたメダルを遊技者プレイヤー獲得ゲットできるという簡単で単純シンプルなゲームだが――これってダンスと何か関係があるのか? 特に体を動かすわけでもないし…。
「長田さん?」「……」
 再び呼びかけてみたが無言の長田さん。 長田さん、こういう地味なゲームが好きだったのか…。 TFLOでも製作クラフトとか地味な作業をメインに遊んでるし。 見た目はいかにも派手な、このギャルファッションなのに……。 しかしその一方いかにも長田セルフィッシュさんらしいとも思った。 現実世界では使えないメダルをあれだけ貯め込んで。 まるでTFLO内の製作業クラフトでせっせとお金GOLを稼ぐセルフィッシュさんそのものの姿だ。 長田さんってお金を稼ぐってか貯めるのが好きなんだろうか?
 真剣にプレイする長田さんを邪魔したら悪いとメダルコーナーを離れた俺とジルはレトロゲームのコーナーに来た。 ちょっと古いタイプのゲーム、主に2Dタイプのゲームが多い。
「ねー、スカイ、これやらない?」
 ジルが指さしたのは対戦のできる落ちものパズルゲーム。
「え? これやるの? 俺、ルール知らないけど…」
 と、俺の視界の向こう側に見覚えのある後ろ姿。 奥の方の大型筐体のコーナーにあるコックピット型のゲーム筐体に髪の長い女性が座り、二本のレバーを握りしめ、そのゲームをプレイしている。
「ちょっと待って。あれ、美麗さんじゃない?」
 俺はジルに呼びかける。
「おー、ほんとだ。なんやろ? あのゲーム」
 俺たちはその筐体に近寄ると、プレイしていたのはやはり美麗さん。 ロボットを操作する対戦ゲームなのかな? 隣にもう一人座れるシートがあって、正面にはやはり同じゲームの画面が映し出されている。
「お前たちどうした? もう飽きたのか? ここへ来るなんて」
 俺たちの方を見ずに真剣な顔つきでレバーを操作しつつ俺たちに話しかけてきた美麗さん。
「いや、みんなどんなゲームしてるのかな? って気になって。てか美麗さんよく俺たちだって気づいたね」
「お前たちは目立つからな」
 いや、目立つのはジルの方で、俺はあまり目立たない気がするけど…。
 相手のロボットを倒し、ステージクリア。 次のステージへと進む。
「美麗さんうまいね。このゲームやったことあるの?」「いや、初めてだが、操作方法とルールさえ覚えればどうとでもなる」
 そういうもの? 俺なんて初めてのプレイで操作方法すら覚えられそうにもない。
 ダッシュをしつつ相手の機体に攻撃を加える美麗さんの操作する機体ロボット。 相手の機体が変形をし、金色へと色が変わると極太のレーザーを射出し、それが自機へと向けられる。 美麗さんはそれをかわそうとしたが見事に直撃。 警告音とともに自機のHPが大きく削られた。 そして敵の機体は再び通常状態へと戻る。
「大丈夫? 美麗さん、直撃食らったよ?」「なるほど、今のような変形状態じゃないと攻撃を加えても効かないのか。だが簡単にそうもさせてくれない、と。残り時間的に変形をするとしたらあと一回のみだろうな。その時に全力で攻撃をしないと倒せない。まるでどこかのゲームのDPSチェックと同じだな」
 冷静に状況を判断する美麗さん。 再び相手の状態が変わる隙を窺う。 相手が金色になり状態が変わったのを確認するとダッシュで攻撃をしつつ相手の懐に潜り込み、怒濤の攻撃を相手にぶち込む。 敵機は先ほどと同じように砲塔からレーザーを発射するが、美麗さんの操作する自機はその後ろに回り込んでいるのでレザーが当たらない。 残り時間がわずかになり警告音が鳴り響く。 そしてタイムアップ目前というところで美麗さんの斬撃がHPを削りきり、相手の機体は大破し爆散。 美麗さんの勝利だ。
「やった、倒したよ!」「ミリーすごーい」
 そして画面に流れるエンドロール。
「なんだ、もう終わりなのか。まあ、そこそこ楽しめたかな?」「初めてなんだよね? すごいよ、それなのにこのゲームをクリアするなんて」「そうか? きっと難易度を易しめに設定していたのだろう」
 美麗さんはさっきこのゲームをTFLOにたとえていたけど、もしかしたら美麗さん、ヒーラーじゃなくて攻撃職DPSの方が向いているんじゃないだろうか?

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品