廃クラさんが通る

おまえ

002 不思議な踊り

 昨日は日付を跨いでなおインフェルノに挑み続けたが、状況は悪化する一方、結局攻略は叶わなかった。 久々の夜更かしで朝起きるのもつらく、日中も授業に身が入らなかった。 いや、身が入らないのはいつものことではあるかもしれないけど。
「柏木んやっと今日ネット開通するんだ」「うん、これでみんなと一緒にゲームできるよ」
 生徒会の廃棄されるはずだったパソコンを拡張パワーアップさせてTFLOができるまでになったが、ネット回線がなく俺たちと一緒に遊べなかった柏木。 何のトラブルもなければ今日からTFLOにログインするのかな? 生徒会の雑用で一仕事終えた俺と柏木。 俺は会計だけど、それ以外の活動の方がどちらかというと多い。 むしろ庶務の柏木の方がデスクワークが多い気がする。 ただ単にパソコン初心者な柏木が、練習を兼ねてネット巡回やらなんやらでパソコンをいじってるだけなんだけど。 最近ようやく日本語入力にも慣れてきたらしく、やほーでいろんなものを検索しぐぐっている。
「ガラッ」
 と、生徒会室の戸を開け中に入る俺たち。
「ただい……ま?」
 俺は室内の異様な空気を感じ取る。 頭を抱えてふさぎ込む長田さんと美麗さん。 ジルはパソコンの画面を見つつなにやら体を動かしている。
「何かあったの?」
 俺は頭を抱えている二人に尋ねる。
「まさかこんな事になろうとは…。こんな仕事があるとわかっていれば生徒会には入らなかった…」「あたしだってそうだよ…。どーしろっつーんよ、これ…」
 ……? 話が一向に見えてこない。
「ジル。いったい何があったの?」
 パソコンの画面を見つつ体を動かすジルに聞いてみる。
「ほら、これ」
 と、画面を指さす
「これ、うちらが作るんだって」
 俺はパソコンに近寄り画面を覗いてみると、そこには奇妙なダンスを踊る埼高のジャージを着た生徒たち。 ……この生徒達は確か前任の生徒会役員のメンバーだったかな。
「作るって何を?」
 やはりまだ話の先が見えない。
「このダンス。うちらが作るんだって」「え?」
 画面に映る生徒達のダンス。 手を叩き、くるっと廻っては腕を振り、脚をあげる。 盆踊りとも、どこか遠い国の部族の踊りともつかない奇妙な踊り。 ――いや、俺はこの踊りダンスを知っている。
「埼高ダンス?」
 そうだ、この高校に入ってすぐの歓迎会の時、俺たち一年生はこの埼高ダンスを覚え込まされて全校生徒で踊ったんだった。
「なぜ私たちがこんなふざけたダンスを作らなくてはいけないんだ」「まさかこれを生徒会で作るなんて、聞いてねえっての…」
 なるほど、このダンスの振り付けを俺たちでやれって事なのか。
「べつに悩む必要ないんじゃない? こんな感じに作ればいいんでしょ?」
 柏木が脳天気に画面を指さす。
「お前はこれを見てどう思った? 実際に踊ってみてどうだった?」「え? 普通に楽しかったよ?」
 相変わらず脳天気な柏木の返答に「はぁ」とため息をつく美麗さん。
「お前に聞いたのが間違いだった。蒼空、お前はこのダンスをどう思った?」「う~ん、ちょっとおかしなダンスだなとは思ったけど。毎年やってるらしいし、こういうことをする学校なのかなって」「そうだ、おかしな学校だろう? そう思うのが普通だ。こんなおかしなダンスを踊る学校だと」「いや、おかしな学校だとまでは…」「だから、下手なもんはつくれない。これはあたしらだけじゃなく、この学校の名誉に関わることなんよ…」
 ……う~ん、そこまで深刻に考えるようなことなのか?
「だったら作ればいいんじゃないの? これよりももっと格好いいのを」
 やはり脳天気にいかにも簡単にさらりと言ってのける柏木。
「簡単に作ることができればこんなに悩んではいない! ダンスだぞ!」
 パソコンの画面を指さし柏木に怒鳴りつける美麗さん。
「ダンスなんて授業でちょっとやったくらいで、とても振り付けを考えたりとかあたしらには無理だっつーの…」
 長田さんも愚痴をこぼす。
「二人ともダンスは苦手なの?」
 俺の問いかけに無言で下を向き俯く二人。 美麗さんはともかく長田さんはダンスとか得意そうな気もしたんだけど…。
「でも作るしかないんでしょ? 大丈夫、みんなで力を合わせれば多分いいのができるって」「その前生徒会役員達の力を合わせた結果がこれだぞ? 素人の私たちが作ろうとすれば、それこそこんな盆踊り以下の奇妙なものしかできない」
 画面の中では美麗さんの言うような奇妙なダンスを踊るジャージ姿の前生徒会役員達。 あらためて見てみると、たしかにMPが吸い取られそうな不思議きみょう踊りダンスだ。
「柏木の言うように作るしかない…、最低でもこのダンスよりは上のものを作らないと…」「ねー、うちが振り付け考えてもいいかな?」
 画面を見つつ、踊りに合わせるかのように体を動かしていたジルが突然提案する。
「え? ジル、できるの?」「格好いい振り付け考えればいいんでしょ? 多分できると思うよ?」
 確かにジルのずば抜けた身体能力を鑑みればダンスは得意そうだし適任なのかもしれない。
「よし、ならこの件はジルに任せた」
 ジルに任せれば大丈夫、きっといい振り付けを考えてくれるに違いない。 とても俺たちにはダンスの振り付けを考えることなんて無理だ。
「俺も振り付け考えていい?」「え?」
 突然の提案に驚きの声を上げる一同。
「柏木も? あんたこういうの得意なの?」「う~ん、得意ってか…ほら」
 と、柏木はその場でステップを踏み、ターンをする。 ほんのわずかな一連の動きではあったが、そこにダンスの真髄エッセンスが凝縮されていた。 その様はテレビで見るダンスグループの一員のようだった。
「おお~」
 柏木の意外な特技に驚嘆の声があがる。
「柏木、なんで踊れるの? ダンス習ったりしてしてるの?」「習ってないけど、よくテレビのまねしたりとかしてるから」
 なるほど、最新のゲーム機やらパソコンやらスマホやら持っていなくて、あまり娯楽のなかった柏木の家はテレビが最大の娯楽なんだな。 小学生のように虫やら魚やらを捕ったりと、そこらを駆け回っている柏木は体もそこそこ動かしているのだろうし、少なくとも家に帰ればTFLOゲーム三昧な俺たちよりはよっぽど動けるのであろう。
「なら二人に任せれば大丈夫かな?」「うん、任せておいて」
 と、大きな胸を張るジル。
「ジルちゃん。一緒に振り付け考える?」「あ、それは結構やわ」
 柏木の提案を即座に拒否する。
「そうですか……」
 とがっくり肩を落とす柏木。 よかった、ダンスの得意な生徒会役員なかまがいてくれて。 この二人に任せておけばき大丈夫。 ――だよね? きっと大丈夫だと今は信じておきたい。

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