廃クラさんが通る

おまえ

045 Special Task Force

 とある喫煙室。 日の落ちた窓の外を見ながら白髪交じりの男性が紫煙を燻らせる。 窓の外の建物あかりの大半は目線より低いことから男性のいる建物ビルの高さがうかがえる。
「穏便に済ませようと思ってたってのに……」
 咥えたものをゆっくりと吸うと、ひとつ大きく「ふう」と煙を吐き出す。
「スペシャルタスクフォースなめんじゃねーぞ…」
 一人呟く男性が発した『スペシャルタスクフォース』という名称。 この男性が名付けたTFLOのサポートチームの名前だ。
(ソフトウェアトークンにあいつが言ってたようなやばい機能は仕込んでねえっての。まあ、どうやってあいつのパソコンやスマホに侵入したかなんて知られたら確実に俺の首が飛ぶけどな)
 喫煙室の自動扉ドアが静かに開く。
「部長」
 男性を呼ぶ声。 ――しかし気づかないのか男性は何の反応も示さない。
「部長! 正堂部長!」
 窓の外を見つめる男性のおそらく部下であろうその声が大きくなる。 嫌煙者なのか、喫煙室に入ったとたん顔をしかめる。
「私は部長ではない、主任チーフだ。正確に言えば最主任マスターチーフだ」
 窓の外を見つめたまま後ろの部下に言い放つ。
「あなたが管理職であることを良しとせず、今も現場に立っていることは我々としても尊敬しますよ? でも実際、肩書きは部長なんですからそんなこだわりはどうだっていいじゃないですか…」
 うんざりした表情の部下。
「どうでも良くはない。やり直しだ。この部屋に入ってくるところからやり直せ」
 後ろに立つ部下はため息をつくと振り向き、部屋の外へ歩を進める。
「めんどくせー…、この人ほんとめんどくせー…」
 小声で呟くその声に気づいているのかいないのか、紫煙を燻らせる窓の外を見つめたままの男性。 喫煙室の自動扉ドアが静かに開く。
主任チーフ! 最主任マスターチーフ!」
 半ばやけっぱちの部下の声。
「なんだ? 何があった?」
 やっと振り向く窓際に立つ男性。
「今回の件にかかわらず被疑者だけではなく、通報者側の身元も調べることはあるのですが、ちょっと気になるものを見つけましたので…」
 と手に持つクリップで留められた書類を差し出す。
「そうだな。高額のモノが絡む場合は通報した側が商売敵でRMTに絡んでいる場合もあるからな。そのチェックは大切だ」
 部下からその書類を受け取るとぱらぱらと軽く確認する。
 (セルフィッシュさんとスカイとジル、それにミレニアムさんか)
 煙草をくわえたままその書類を上から順に詳細に確認していく。
(あの時に気になる言動があった。スカイがミレニアムさんに対して「長く人生を生きてはいない」と言ったこと。その時に二人は現実世界リアルで接点があるのではないかと思っていたが、なるほど、二人の住所が近い。しかし、この名前、『灰倉』って『はいくら』って読むんだよな? ……いや、名前の事なんてどうでもいい、まさかミレニアムさん、高校生だったとは……。)
 さらに書類をめくる。
(ジルも高校生……いや、それは知っていた。オーストラリア在住で最近日本に来たとは言っていたが、やはり二人と近い場所から接続している。…まさかジルも?)
 疑問を抱きつつさらに書類をめくる。
(セルフィッシュさんも高校生……やはり住所が近い。みんなリアルで逢っていたりするのか? ……いや、この住所…しかも長田!?)
 驚く男性のくわえている煙草から灰がぽろりと落ちる。
「おい! これってまさか?」
 目を大きく見開き、部下に問いただす男性。
「そうです、住所とIPが一致しています」
 と、もう一枚の書類を差し出し、それを受け取り確認する。
「……なるほど、そうだったのか……。まさかセルフィッシュさんが長田さんの……。おい、まさかこれ、長田さんには言っていないよな?」「いえ、言っていません。言えませんよ。今回の件を報告したら最主任マスチフが被疑者に対してどんな所行を働いたのか公になりかねませんから」
 突き出した両腕を横に振り大げさに否定する部下。
「そうか、絶対に長田さんには言うなよ。それから今回の件がバレたとしても責任は俺にだけだ。お前を巻き込むことだけは絶対にない」「部長…いや、最主任マスターチーフ……」
 目を潤ませ、目の前の白髪の部長を見つめる部下。
(しかしセルフィッシュさんと長田さんがそういう関係だったとは…。そういえば長田さんのデスクに女の子の写真が飾られているのを見たことがある。あれがおそらく……)
 白髪の男性は短くなった煙草を灰皿に捨てると窓の方を向き、肩を落とす。
(はあ…、ギルドの中で俺だけ年寄りかよ…。いや、それより俺、いつも通りみんなと接することができるのだろうか……?)

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