廃クラさんが通る
041 約束と契約
昨日、俺は美麗さんの弁当を作ることを約束し、早速今日それを実行した。 昼休み、俺の方から美麗さんに声をかけ、教室で一緒に食べようと提案したが、恥ずかしいからなのか断られ、昨日と同様、屋上手前の階段まで移動した。 俺は自分と美麗さんの弁当を取り出そうとしたところで
「お前もこちらへ来たらどうだ? そんなところでこそこそとされていたら落ち着いて昼食も摂れない」
と、階段の下の方に語りかける。 え? 誰かそこにいるの?
「…あんた、気づいてたんかよ…」
踊り場の陰から現れたのは長田さん。 自分の弁当を持ってきている。
「長田さん? 長田さんも俺たちと一緒に弁当食べたかったの?」「そういうわけじゃねーし…」
少し顔をうつむけ、もじもじと体をくねらす長田さん。
「素直になったらどうだ? 私としてはそこで一人で食べていてもらっても一向に構わないが」「誰がお前に見下ろされながら食うかよ」
と、長田さんが階段を上がり、俺の隣に座る。
「ごめん、長田さんも誘った方が良かったかな?」「いや、別にそんなんどーでもいーし…」
仏頂面でふて腐れる長田さん。
「私たちが一緒にいるということが気にくわなかったのであろう? まったくこのストーカー女にも困ったものだ」「誰がストーカーだっつーの……」
俺は鞄から弁当を取り出すとそれを美麗さんに渡す。
「はい、これ」「すまないな、蒼空。ありがたくいただくとしよう」「は? なんで奥原がこいつの弁当作ってきてるの?」
長田さんが俺たちのことを横から覗き込む。
「昨日も言ったであろう? 私たちはすでにそういう関係なのだと。蒼空がわざわざ私に弁当を作ってきてくれるような関係だということだ」
俺から受け取った弁当を開封する美麗さん。
「いや、同じものをちょっと量多めに作ればいいだけだから」
俺は必死に弁解する。
「なんでこいつなんかのために……」
自分の弁当を開く長田さん。
「第一、一人分余計に弁当作るのにだってその分金がかかってるっしょ? あんたちゃんとそれ払ってんの?」「まったく無粋なことを気にする女だな。蒼空が折角私のために厚意で作ってきてくれているというのに。それに金なら払った。昨日カンスト額をな」
俺の作った玉子焼きを箸で摘まみ口に運びつつ長田さんに答える美麗さん。
「え? あれってそのためのお金だったの?」「RMT…、いやRLTかよ……」「リアルマネーで換算していくらになるのかは知らない。長田がゲーム内の金の価値をなくしたせいでレートも低いと聞く」
いや、金の価値がないって言ったって上限額だよ 俺が多分一生かかったって自力じゃ稼ぐことのできないような額だよ? 価値がないって言うけど、俺は欲しいものがありすぎて何から手を付けていいかもわからないくらいだ。 昨日はそのことばかり考えて木綿糸をマーケットから一掃するくらいにしか金を使ってはいなかった。
「あんたRMTに興味はないん? どうせ使い道がないって愚痴をこぼすくらいならいっそ換金しちゃった方が…」「見くびるな! 私がそんな悪行に手を染めるとでも思うか? きさまが私の立場ならRMTをするのか?」
俺の頭越しに長田さんを怒鳴りつける。
「そんな怒んなっつーの。ちょっとあんたを担いでみただけだって。あたしだってしねーよ。第一RMTは規約違反だ。アカウント停止の対象になる。奥原も絶対すんなよな?」「しないって、絶対」
美麗さんに答えつつ自分の弁当を食べる長田さん。 二人の間で俺も弁当を口に運ぶ。 …でも、もし上限額をRMTで円に換算したらいったいいくらになるのか、ちょっと興味がないこともない。
「あー、そのハンバーグおいしそう。もらっていい? もらうね!」
と、長田さんが横から箸を延ばし俺の一口サイズのハンバーグを掻っ攫い口に入れる。
「ああー、いいって言ってないのに」
そんな俺にはお構いなしに笑顔でハンバーグを頬ばる長田さん。
「まったく浅ましいな。自分の分だけでは足りないのか?」「一緒に弁当食べるなら普通やるっしょ? 奥原もあたしのなんか食べる?」
と、自分の弁当を差し出してみせる。
「え? う~ん、じゃあ、これ」
と、俺はウインナーに箸をのばすが…
「あ、これね?」
長田さんは弁当箱を引っ込めると箸でそのウインナーを摘まみ、自分の口へ運ぶ。
「はい、奥原」
と、それを咥えたまま、口を俺の方に突き出す。
「え? なに?」
突然のことに俺は戸惑う。
「ほら、早く」
さらに「ん~」と口を突き出し、挙げ句の果てには目を瞑る長田さん。
「え? え…?」
どうすればいいの? 食べればいいの? それ…? 俺は意を決して、その目標に向けて口を開く。 ――がそれを遮るように横から黒い影が現れ、長田さんが咥えたウインナーに齧り付くと半分を奪い取る。 目を瞑っていたので何が起こったのか把握していない長田さんは目をぱちくりさせ、状況を確認する。
「あー! なんであんたが食べてるんよ!」
口のものを咀嚼し飲み込む美麗さん。
「あまり蒼空を困らせてやるな。ほら、こいつが盗み食いをしたハンバーグなら私のをやろう」
と、自分の弁当からハンバーグを箸で摘まみ取ると俺の口元へ差し出す。 う~ん、これは食べた方がいいのかな…? 俺は口をあけ、ハンバーグを食べようとする。 ――が今度は反対側から割り込まれ、そのハンバーグを口で奪い去っていく。
「やっぱり奥原のハンバーグ美味しー」
奪い取ったハンバーグを頬ばり満面の笑顔の長田さん。
「お前はなんということしてくれたのだ! たった一つずつしかないハンバーグを二つとも奪い去るとは!」
立ち上がると、烈火の如く長田さんにまくし立てる美麗さん。
「ふーんだ。二人ともぼさっとしてるのが悪いんですよ~」
長田さんはまったく悪びれる様子もなく自分の弁当を口に運ぶ。
「ねえ、二人とも、仲良く食べようよ。ね?」
俺は二人を必死になだめる。
「まったく、こいつはいつも碌なことをしない。私たちの間に割って入ってきたと思ったら邪魔ばかりして…」「『私たち』のって、いつからあんたのものになったんだっつーの…」
険悪な雰囲気に挟まれ、口に入れた物の味なんかほとんど感じられない。 俺は弁当箱を空にすべく中のものをせっせと口に運ぶ。
「なあ、蒼空?」
美麗さんが小声で俺に尋ねてくる。
「なに?」「やっぱり、弁当の材料費くらい払った方がいいのだろうか?」「え? いや、いいよ。俺が好きで作ってるんだし」「そうか、すまないな。もし、金銭的に厳しくなったとしたらちゃんと言うのだぞ?」
じつはちょっと余裕がなかったりもするけど、まあなんとかなるだろう。 無駄遣いは極力控え、それでも、もし厳しくなったとしたらこっそり弁当の内容を減らしておこう。 大手のコンビニとかだってやってる手法だ。 きっと気づかれはしないだろう。
「お前もこちらへ来たらどうだ? そんなところでこそこそとされていたら落ち着いて昼食も摂れない」
と、階段の下の方に語りかける。 え? 誰かそこにいるの?
「…あんた、気づいてたんかよ…」
踊り場の陰から現れたのは長田さん。 自分の弁当を持ってきている。
「長田さん? 長田さんも俺たちと一緒に弁当食べたかったの?」「そういうわけじゃねーし…」
少し顔をうつむけ、もじもじと体をくねらす長田さん。
「素直になったらどうだ? 私としてはそこで一人で食べていてもらっても一向に構わないが」「誰がお前に見下ろされながら食うかよ」
と、長田さんが階段を上がり、俺の隣に座る。
「ごめん、長田さんも誘った方が良かったかな?」「いや、別にそんなんどーでもいーし…」
仏頂面でふて腐れる長田さん。
「私たちが一緒にいるということが気にくわなかったのであろう? まったくこのストーカー女にも困ったものだ」「誰がストーカーだっつーの……」
俺は鞄から弁当を取り出すとそれを美麗さんに渡す。
「はい、これ」「すまないな、蒼空。ありがたくいただくとしよう」「は? なんで奥原がこいつの弁当作ってきてるの?」
長田さんが俺たちのことを横から覗き込む。
「昨日も言ったであろう? 私たちはすでにそういう関係なのだと。蒼空がわざわざ私に弁当を作ってきてくれるような関係だということだ」
俺から受け取った弁当を開封する美麗さん。
「いや、同じものをちょっと量多めに作ればいいだけだから」
俺は必死に弁解する。
「なんでこいつなんかのために……」
自分の弁当を開く長田さん。
「第一、一人分余計に弁当作るのにだってその分金がかかってるっしょ? あんたちゃんとそれ払ってんの?」「まったく無粋なことを気にする女だな。蒼空が折角私のために厚意で作ってきてくれているというのに。それに金なら払った。昨日カンスト額をな」
俺の作った玉子焼きを箸で摘まみ口に運びつつ長田さんに答える美麗さん。
「え? あれってそのためのお金だったの?」「RMT…、いやRLTかよ……」「リアルマネーで換算していくらになるのかは知らない。長田がゲーム内の金の価値をなくしたせいでレートも低いと聞く」
いや、金の価値がないって言ったって上限額だよ 俺が多分一生かかったって自力じゃ稼ぐことのできないような額だよ? 価値がないって言うけど、俺は欲しいものがありすぎて何から手を付けていいかもわからないくらいだ。 昨日はそのことばかり考えて木綿糸をマーケットから一掃するくらいにしか金を使ってはいなかった。
「あんたRMTに興味はないん? どうせ使い道がないって愚痴をこぼすくらいならいっそ換金しちゃった方が…」「見くびるな! 私がそんな悪行に手を染めるとでも思うか? きさまが私の立場ならRMTをするのか?」
俺の頭越しに長田さんを怒鳴りつける。
「そんな怒んなっつーの。ちょっとあんたを担いでみただけだって。あたしだってしねーよ。第一RMTは規約違反だ。アカウント停止の対象になる。奥原も絶対すんなよな?」「しないって、絶対」
美麗さんに答えつつ自分の弁当を食べる長田さん。 二人の間で俺も弁当を口に運ぶ。 …でも、もし上限額をRMTで円に換算したらいったいいくらになるのか、ちょっと興味がないこともない。
「あー、そのハンバーグおいしそう。もらっていい? もらうね!」
と、長田さんが横から箸を延ばし俺の一口サイズのハンバーグを掻っ攫い口に入れる。
「ああー、いいって言ってないのに」
そんな俺にはお構いなしに笑顔でハンバーグを頬ばる長田さん。
「まったく浅ましいな。自分の分だけでは足りないのか?」「一緒に弁当食べるなら普通やるっしょ? 奥原もあたしのなんか食べる?」
と、自分の弁当を差し出してみせる。
「え? う~ん、じゃあ、これ」
と、俺はウインナーに箸をのばすが…
「あ、これね?」
長田さんは弁当箱を引っ込めると箸でそのウインナーを摘まみ、自分の口へ運ぶ。
「はい、奥原」
と、それを咥えたまま、口を俺の方に突き出す。
「え? なに?」
突然のことに俺は戸惑う。
「ほら、早く」
さらに「ん~」と口を突き出し、挙げ句の果てには目を瞑る長田さん。
「え? え…?」
どうすればいいの? 食べればいいの? それ…? 俺は意を決して、その目標に向けて口を開く。 ――がそれを遮るように横から黒い影が現れ、長田さんが咥えたウインナーに齧り付くと半分を奪い取る。 目を瞑っていたので何が起こったのか把握していない長田さんは目をぱちくりさせ、状況を確認する。
「あー! なんであんたが食べてるんよ!」
口のものを咀嚼し飲み込む美麗さん。
「あまり蒼空を困らせてやるな。ほら、こいつが盗み食いをしたハンバーグなら私のをやろう」
と、自分の弁当からハンバーグを箸で摘まみ取ると俺の口元へ差し出す。 う~ん、これは食べた方がいいのかな…? 俺は口をあけ、ハンバーグを食べようとする。 ――が今度は反対側から割り込まれ、そのハンバーグを口で奪い去っていく。
「やっぱり奥原のハンバーグ美味しー」
奪い取ったハンバーグを頬ばり満面の笑顔の長田さん。
「お前はなんということしてくれたのだ! たった一つずつしかないハンバーグを二つとも奪い去るとは!」
立ち上がると、烈火の如く長田さんにまくし立てる美麗さん。
「ふーんだ。二人ともぼさっとしてるのが悪いんですよ~」
長田さんはまったく悪びれる様子もなく自分の弁当を口に運ぶ。
「ねえ、二人とも、仲良く食べようよ。ね?」
俺は二人を必死になだめる。
「まったく、こいつはいつも碌なことをしない。私たちの間に割って入ってきたと思ったら邪魔ばかりして…」「『私たち』のって、いつからあんたのものになったんだっつーの…」
険悪な雰囲気に挟まれ、口に入れた物の味なんかほとんど感じられない。 俺は弁当箱を空にすべく中のものをせっせと口に運ぶ。
「なあ、蒼空?」
美麗さんが小声で俺に尋ねてくる。
「なに?」「やっぱり、弁当の材料費くらい払った方がいいのだろうか?」「え? いや、いいよ。俺が好きで作ってるんだし」「そうか、すまないな。もし、金銭的に厳しくなったとしたらちゃんと言うのだぞ?」
じつはちょっと余裕がなかったりもするけど、まあなんとかなるだろう。 無駄遣いは極力控え、それでも、もし厳しくなったとしたらこっそり弁当の内容を減らしておこう。 大手のコンビニとかだってやってる手法だ。 きっと気づかれはしないだろう。
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