廃クラさんが通る

おまえ

032 狂気の渦

 今日も生徒会室で作業をする俺。 生徒会室には長田さんと柏木がいる。 美麗さんとジルは雑用で外出中だ。 俺はジルの作った会報のチェックと修正を、パソコンに慣れていない柏木に操作を教えつつしている。
「柏木の家んちネット回線引いてもいいって?」「うん、ねーちゃんと俺で、やっととーちゃんのこと説得できたよ。来週工事に来るって」「良かったな! 柏木!」
 良かった。良いことは続くものだ。
「偽者もいなくなったし、良かったよね」
 GMが偽者について対処すると言ってくれたのが一昨日おととい。 昨日ベナリスに行って確認してみたが、偽者はたしかにいなくなっていた。 GMがちゃんと仕事をしてくれた結果であろう。
「うん、でもあたしが目星をつけていたPCはまだ出品を続けているからアカ停止バンはされてないみたいだね」
 スマホを操作しつつ答える長田さん。 TFLOのスマホ用アプリでマーケットの状況を見ているのだろう。
「長田さんの考えが違ってたって事じゃない?」「う~ん。そうなのかなぁ……」
 長田さんはまだちょっと納得がいっていないようだ。
「俺にはよくわからないけど解決したんでしょ? ならいいじゃない」
 柏木もそれに口を挟んでくる。
「そうだよ、柏木の言うとおりだって。もうそんなこと気にしなくてもいいって」
 なにはともあれTFLOでの偽者の問題も解決したんだ。 後は俺もこのジルの間違いだらけの会報の修正を終わらせて、厄介事はすべてなくしてしまおう。
「それとは別だけど、あのGM、ずいぶんあいつのこと知ってるみたいだった…」「ミレニアムさんのこと? ミレニアムさんくらいの凄腕のクラフターにもなればGMとか上の人が知っていてもおかしくないんじゃない? あの事件にほんのちょっとだけでも関わっていたってのもあるし」「う~ん……」
 と、難しい顔をしながらスマホを操作する。
「ガラガラ」
 と、生徒会室の戸が開く。 戸を開けたのは美麗さん。 顔がちょっと険しい気がするけど何かあったのかな?
「おかえり、美麗さん。早かったね」「ああ、転校生のおかげで早く終わらせることができた」
 生徒会室に入ってくる美麗さんに続く、眉を潜ませ困った顔のジル。 てかそろそろジルのことも名前で呼んであげようよ…。
「二人とも、何かあったの?」
 俺は二人に尋ねる。
「こいつらにも見せてやれ。これがお前たちのしでかした結果だ」
 と、ジルに促すと
「これ…」
 と、控え目に自分のスマホを座っている長田さんに向ける。 俺もパソコンの席を立ち、近寄ってそれを覗き込むと…

─────────────────────────────873 Selfish 20XX/09/2X(月) 15:12:35.81はっはっは! ベナリスのミレニアムは俺様が排除してやった!ありがたく思え! でもお前たちの手に木綿糸が渡ることはない。今日からは俺様の天下だ! 俺様にひれ伏すがいい!─────────────────────────────874 無属性冒険者 20XX/09/2X(月) 15:22:12.64なんだコイツ? ミレニアムもやべーと思ったけどコイツも相当やべーな─────────────────────────────875 無属性冒険者 20XX/09/2X(月) 15:30:01.44Selfishってミレニアムと同じ廃クラだろ? いつもこいつら二人マケで争ってるもんな─────────────────────────────876 無属性冒険者 20XX/09/2X(月) 15:44:15.89この二人から買うなってことだ。こんな奴らから買うような奴は、そいつも頭のおかしいガイジだからな─────────────────────────────877 無属性冒険者 20XX/09/2X(月) 15:53:27.42うはw どうしようw 俺、装備買ったことあるwww─────────────────────────────

 ……これは……。 今度はセルフィッシュさんを騙る偽者が現れた? 俺が横を見ると長田さんは下を向く。
「だから言ったであろう? 相手にするなと。こんな奴は放っておけば良かったのだ」
 下を向いて肩をふるわせている長田さんに、美麗さんは上から淡々と説教をする。
下手へたに関わるからこうなる。後先考えずに思いつきの浅知恵で行動するからこんな結果を招いたのだ」
 哀れみのような悲しみのような、愁いを含んだ目で、美麗さんは長田さんのことを上から見下ろしている。 そうだ、散々美麗さんは注意してきたんだ。 俺たちがこの件に関わらないように。 俺たちが仲間だって事を隠そうとしてまで。
「……はははは…あはははは……」
 不意に笑い出す長田さん。
「……なぜ笑う? 悔しくはないのか?」
 その美麗さんの問いかけに頭を上げる。
「……悔しいさ! 腹立たしいさ! …はらわたが煮えくりかえるくらいに。……でも、腹立たしさの中に、なにか胸をくすぐる嬉しさみたいなものがある。……なんだろう? あたしにもよくわからないけど、あんたと同じ立場になれたからかな? ……これでやっと、あんたと同じ土俵に立てた気がする……」
 震える声で美麗さんを見上げるその目には、怒りと歓喜の入り交じったほのかな狂気の炎が渦巻いていた。
「ふん、図に乗るな。きさま程度が私に肩を並べられるとでも思っているのか?」
 それを見下ろす美玲さんの目にも長田さんとは違った冷たい狂気が宿り、長田さんの炎と交錯する。
「ねえ、奥原……」
 柏木が俺の耳元でものすごく小さな声で囁く。
「なに?」「なんかこの二人ものすごく怖いんだけど……」「……」
 その問いかけに俺は目を反らし、無言で答える。 いや、俺だって怖いよ? こんな表情をする二人はあの補習の日以来? いや、あの時とはまた違う。 多分この二人は偽者に対する怒りが共有できて嬉しいのだろう。 怒りと喜びのどちらが上なのかわからない。 でも、共通の敵に対して初めて同じ感情を向けることができたんだ。 俺たちがうかつに踏み込んで良い物かもわからないが、二人だけに存在する新しい空間が生まれたんだ。

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