廃クラさんが通る

おまえ

030 不調和な謀

「ほら、ここも『N』がひとつ足りなくて『にゃ』になってる」
 生徒会室のパソコンの前に座り、ジルの書いた会報の原稿をチェックする俺。 TFLOをプレイしてる時もそうだが、ジルは日本語の「ん」をタイピングする際「N」がたまにひとつ抜ける。 ローマ字入力で「ん」を入力するには「N」を二回入力タイプする必要がある。 でもジルはそれに慣れていないからなのか、たまに「N」をひとつ入力タイプし忘れることが度々ある。
「えー、このままでええんちゃう? なんかカワイイし」「いや、生徒会の会報だから、これ。このままで載せられないから」
 後ろから覆い被さり俺の頭を包み込む柔らかい福禄を大きく揺らすジル。 この攻撃に俺は自我を失い、ジルの意のままに操られそうになる。 が、俺はそれに必死に抗い、原稿に一つ一つ修正を加えていく。
「なんであんたこんなに下げてるんよ」
 俺を後ろから胸で操ろうとしているジルのさらに後ろには、長机を二つ並べた対極に座る二人。 長田さんと美麗さんが携帯スマホを操作している。
「私はお前が下げた分と同じ額を下げているだけだが」
 どうやら二人はスマホのアプリでTFLOのマーケットを見ているようだ。
「あんたいつもあたしに値段あわせてたっしょ?」「そこからお前はさらに1golだけ安くしていたがな。自分の値下げは良くて他人は駄目とか都合が良すぎるのではないのか?」「いや、今回は偽者をあぶり出すための値下げっしょ? あんたまでそれに付き合わなくていいから」「だからこその値下げではないか。お前だけ値段を下げても不自然だとは思わないか? 私たちが争っているからこそ自然なのであろう」「そうだとしても、このままだと赤字になるから」「それはお前のさじ加減次第だ。お前が値下げをやめれば私も下げることはない」「……」
 美麗さんの指摘に黙り込む長田さん。
「こんな事にいったいなんの意味があるのか…。あんなものは放っておけばそのうちいなくなる。相手をするからこそ逆につけあがるのだ」「だからってあんたが一方的に悪者にされて、それでいいのかよ」「あんなところで喚いているだけの者たちに悪く思われようが何ら問題はない。と、前にも言っただろう。名前を晒されて悪く言われるようなことは過去にも何度かあった」「今回はあんたを騙って悪事を働いてるんだ。そいつをどうにか懲らしめてやろうとは思わないのかよ」「そのために自分の利益を減らすというのか? 前にも言わなかったか? それはクラフターにとっての敗北だと。だからお前はボンクラなのだよ」「あたしはボンクラじゃねーっての! …そもそもあんたが製品の値段を上げないからこんな事になったんだろうが……」「……」
 そのまま黙り込む二人。 カテドラさんも言ってたけど、美麗さんはこのやり方を良しとはしていないようだ。 俺にも何かできればいいんだけど、俺程度にそんな知恵も力もない。

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