廃クラさんが通る

おまえ

025 淡い煌めき

 今日も一日何事もなく学校生活が過ぎて行く。 そして放課後には生徒会の役員としての活動。 生徒会の仕事もなんとなくわかってきた。 生徒会の会長やそれ以下の役員に権力なんてものは存在しない。 主な仕事は先生や生徒の間を取り持つこと。 部活動や委員会等のパイプ役。 各種行事の実行委員会のサポート。 何のことはない、会長も副会長もそれ以下も、全員そろってこの学校の主役になることなんてありえない、ただの裏方なのである。 俺だってそうだ、会計だからって実際にこの学校の財務おかねを自由にできるというわけではない。 それ以前に紙幣や硬貨などの現金も目にすることもない。 ただ書類かみきれが送られてきてチェックと計算をする簡単なお仕事――ならいいのだがこれが結構しんどい。 そして俺の後ろでは新しいおニューのパソコンで生徒会の書記としての仕事をするジル。 柏木は今日は早々に帰った。 おそらくまた「ねーちゃん」に何らかの仕事を頼みに行ったのであろう。 家にネット回線を引くために。 長田さんと美麗さんの二人はそろって外回り――とはいっても学校の構内だが――で、出払っている。 昨日から美麗さんと俺たちとの間に距離ができた気がする。 昨日のあの出来事について、美麗さんに聞いてみたが一切答えてはくれなかった。 それ以前にSNSで美麗さんから来たメッセージの意図するところについて、昨日すぐに返信を求めたが、それに対する美麗さんからの返事はなかった。
「ねえ、スカイ。これでいいかな?」
 ジルがパソコンの画面ディスプレイを指さし俺に声をかける。
「え? なにが?」
 俺は画面を覗き込む。そこにはこの前撮った生徒会の引き継ぎと就任式の時の写真。 俺たち新しい生徒会のメンバーが横に一列で並んでいる。
「会報に使う写真、これ使えばいいかな?」
 ジルは生徒会の会報に載せる写真を選んでいるらしい。 みんなが横に一列で並んでいるが、ジルだけ頭一つ二つほど高い。 てかみんなで並んでみると俺が一番背が低く見える? いや、これはジルの隣だからそう見えるんだ。 錯覚ってやつだ。 俺が一番背が低いなんて事は絶対にない。絶対だ。
「でもこれ、長田さんと美麗さんの顔がちょっと引きつってない?」
 俺が指さした写真の中で並んで立っている二人の笑顔が引きつっているように見える。 この日はTFLOのパッチ初日で、この二人は非常にそわそわしていた。 こんな写真を撮っている場合ではない。 と、それが表情に表れたのであろう。
「え~、そうかな?」「ちょっといい? 他にはどんな写真があるの?」
 俺は他の写真を確認するため、ジルを退かせてパソコンの前に座る。 決して俺の背が低く見えるから違うものを選ぼうとしているというわけではない。 マウスを操作してまずは写真を閉じる。 開かれたフォルダの中には画像ファイルがいくつも並んでいた。 とりあえず適当に選んで開いてみる。 長田さんが前任の会長から任命証書を受け取っている写真だ。
「これでいいんじゃない?」「え~? みんなが写ってる写真がええんちゃう?」
 みんなが写ってる写真…。 とりあえずいくつか選んで開いてみるが、全員が揃って写っている写真はない。 う~ん、みんなで写ってるのはあれしかないのか…。 俺はなんとなくフォルダの上の階層を調べてみる。 そこには年度数が書かれたフォルダが並んでいた。 おそらく歴代の生徒会役員の任命式の写真が入っているのであろう。 ここは関係ないか。 俺は前のフォルダに戻ろうとすると
「ねえ、スカイ。 もしかしたらRIMUの写真もここにあるんちゃう?」
 とジルが俺の後ろから覆い被さり画面を覗き込む。 柔らかい感触が俺の頭を包み込む。
「あ、そういえばRIMUも副会長やってたんだっけ?」
 俺はRIMUが生徒会をやっていた頃の年度を探す。 たしか長田さんは三年前とか言ってたっけ。 俺はその年度のフォルダを開く。 中には画像ファイルが十数枚ほど入っていた。 俺はその中から一枚を開く。 そこにはおそらく前任の会長であろう男子生徒が次の会長に証書を受け渡す場面を移した写真。 その前任の会長の隣に立つ長い茶髪の女生徒ギャル
「お~、これちゃう? これRIMUだよね? RIMU若~い」「え? この人?」
 メイクがおとなしめなためか雰囲気が少し違うので、たしかに普段見ているRIMUよりは幼くは見える。 てかまだ20歳くらいなRIMUに対して三年そこらで若いも何もない気がするが…。
「ガラガラ!」
 と後ろの戸が開く
「セルフィー、ミリー、おかえり~」
 俺に覆い被さったまま後ろを振り返り声をかけるジル。 ジルの胸に挟まれたままで俺は後ろを確認できないが、どうやら二人が帰ってきたようだ。
「おかえり、二人とも」「あんたらは何のプレイをしてるんよ……」
 呆れ果てる長田さんの疲れ切った声。 プレイ? 俺たちは仕事をしていたんだよ?
「ほら! これ! これRIMUだよね?」
 俺に覆い被さったまま画面を指さし小躍りする。 そのたびに小刻みに形を変え、柔らかい感触がダイレクトに伝わってくる。
「え? どれ?」
 足音がこちらへ近づいてくるのが聞こえる。 それとは別の足音がもう一つ。 その足音が止まると椅子を引く音が聞こえた。 やっぱり美麗さん昨日から俺たちと距離を取っている気がする。
「へ~、このころの先輩ってこんなんだったんだ。違う写真はある?」「あると思うよ」
 と、俺は別の写真を表示させてみる――が、RIMUらしき人物が写っている写真はない。
「う~ん、ないみたいだね」「これって、引き継ぎの時の写真だよね? だから写っていないのかな?」「あ~、なるほど」
 ジルの指摘に納得する俺たち。
「ならその前の年に……」
 俺は前年のフォルダを開け、その中の一つを表示させてみる。 そこには横一列で並ぶ生徒会役員の写真。 その中にRIMUは……いない? 長い髪の茶髪の女生徒ギャルが見当たらない。
「これちゃう? この人」
 ジルが指さした先には長い黒髪の女生徒。 他の生徒会の役員が笑顔なのに、この女生徒だけ鋭い眼光でこちらを思いっきり睨んでいる。
「…いや、さすがにこれは…」
 メイクは当然ながらしていないし、着ている制服もさっきのとは違う。 いや、この学校には決まった制服なんてないからそんなことで判別はできないんだけど……。
「いや、これ先輩だよ……。聞いたことある、生徒会やって先輩は変わったって。だけどまさかそっちの方向に変わったって意味だとは思わなかった……」「まじで!? この人があのRIMUなの!?」
 これって長田さんが憧れているような、あのギャルの格好ファッションを真似るようなあのRIMUじゃないよ? どっちかっていうとむしろ…
「なんだかミリーっぽくない?」
 そう、ジルが言ったように美麗さんぽい。 いや、美麗さんよりさらにお堅キツい。 美麗さんでさえ引きつっていたとはいえ写真を撮られる時には笑っていたのに、この人は思いっきり睨んでいる。 俺はジルの胸を押しのけ美麗さんの方を見る。他の二人も美麗さんを見つめる。 スマホを操作していた美麗さんは俺たちに気づいて睨み返してきた。
「なんだ? 私がどうしたというのだ?」
 あの女生徒があんなギャルになったんだから美麗さんもああなる可能性が……。 いや、さすがにそこまで想像できない。 この美麗さんがあのギャルファッションになるなんて、とてもじゃないが想像することができない。

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