廃クラさんが通る

おまえ

022 虚影の真実

 古いパソコンが片付いてちょっとだけすっきりした生徒会室。 しかし、すっきりしない問題がまた一つ浮上した。
 わかっていた。 多分そうなんじゃないかと思ってたけど、やっぱりそうだった。
「柏木の家んちネット繋げられないのかよ…」
 柏木の家にはパソコンもなく、柏木の持っている携帯電話ケータイもガラケー、しかも相当古い機種だ。 というか、ぱっと見ただけで傷だらけな上、塗装も所々はげていて、かなり長い年月使い込んでるものだというのがわかる。 パソコンもスマホもないのならネット契約なんてする理由もない。 いくらTFLOをプレイ出来るほどの性能のパソコンを手に入れたとしてもネットに繋げられないならそれはただのパソコン。 今の時代、ネットに繋げられないパソコンに何の価値があるというのか。
「うん…、電話線引っこ抜いて挿せばいいのかなぁ? とかやってみたけど、微妙に挿さらなかったよ」「いや、挿さったとしても無理だから」
 電話線じかに挿してネットとか、いつの時代のネットだよ? 昭和かよ。
「うちんちも引っ越したばっかの時ネット使えなかったけど、契約したらつかえるようになったよ」「そうだな、ネットに繋ぎたければ、TFLOがしたければ、どこか適当な通信会社と契約しろ」「え~? お金かかるんだよね?」「掛かるって言ってもそう大した額じゃないっしょ? 電気代とか水道代とか生活に必要なもののお金は毎月払ってるっしょ? そんなのと一緒で、今の時代、ネットだって生活に欠かせないものなんだから」「いや、うち、電気代はともかく水は井戸水使ってるから…」「ああ~……」
 と、柏木から目を反らす長田さん。
「てか柏木のお姉さんが稼いでるんじゃないの? テレビにも最近よく出てるし。お姉さんに頼ったりしたら駄目なのかな?」「!? なんで奥原知ってるの?」
 柏木が俺の質問に飛び上がらんばかりに驚く。
「ここにいる全員知ってるから。昨日長田さんに教えて貰ったよ。だから柏木も、もう隠さなくていいよ」「え? かなちゃん知ってたの? ねーちゃんが生徒会やってたってことを知ってただけじゃないの?」「え~と……うん、昨日見た時RIMUだって気づいて、それが柏木のねーちゃんって知ってマジでびっくりした」
 昨日の長田さんの驚きようというか緊張しキョドりようはたしかに今まで見たことのないほどだった。 …いや、美麗さんがミレニアムさんだって知った時の驚きようもあれに負けてはいなかったかな?
「なんだ~、みんな知ってるのかぁ。絶対に他の人には言わないでよね?」「うん、言わないよ!」
 この中ではジルが一番危ないんだが…。 いや、俺も人のことは言えない。気を付けなくちゃな。
「おとーちゃんが頑固だから「俺が五体満足なうちは娘の世話にはならん!」ってねーちゃんが助けようとしてもお金とか一切受け取ろうとしないんだよ」「ずいぶんと、威勢のよさそうなお父さんだね」
 俺は一瞬自分の親のことを思い出そうとしかけるが、すぐさま頭の中から消す。 今、思い出したら駄目だ。
「うちのおとーさんもすごく元気のいい人だよ!」
 ジルのおとーさん…、うん、なんとなく想像できる。 このジルのおとーさんはそれはもう、ものすごく豪快な人なんだろう。 このジルを飼い慣らすてなづけることができるくらいに…。
「俺が代わりに貰おうとしても「お前は自分で稼ぐことのできないヒモにでもなるつもりか!」ってすっごく怒るし…。そもそもヒモってなんなんだよ?」
 ヒモ? ひものこと? 糸とか? いや、糸よりは少し太くて丈夫なイメージ? 何かをくくりつけたり縛ったりするような。そんな感じなもの? でも「ヒモ」になるって、そういうことじゃないだろうし、どういう意味なんだ?
「ねえ、長田さん」
 俺は小声で聞く
「なに?」「ヒモになるってどういう意味?」
 俺の質問に長田さんはため息をつく。
「あとでやほーでググれ!」「うん。わかった」
 便利だよね。やほー。 そうか、柏木はパソコンもスマホもないしやほーでぐぐれなかったんだな。 後で柏木と一緒に見よう。
「そういえばこの前、どうやって一万円稼いできたの?」
 俺はこの前思った疑問をついに聞いてしまった。 どう考えてもこんなに貧乏な柏木が一日足らずで一万円を稼いでこられるようには思えなかったからだ。
「え~と、それは、ねーちゃんに頼んで…」「ん? ならお父さんに怒られたの?」「ちゃんと仕事をして稼げばおとーちゃんも怒らないから…」「なら何の仕事をしてお金貰ったの?」「え~と……」
 柏木は俯いて考え込む。
「言いづらいこと?」
 やっぱりやばいことなのか? お姉さんに頼んだっていっても。
「いや、もうみんなに隠すことじゃないし、ちゃんと言うよ」
 と、顔を上げると迷いのない吹っ切れた顔をしている。
「かなちゃんて、もしかしてねーちゃんのブログ見てたりする?」
 と、長田さんに尋ねる。
「見てるけど。それが関係あるん?」「この前、パソコンのパーツ買いにいった時の前の日のブログになるのかな? もしかしたら写真載っけてなかった?」「ん~? そういえば……」
 と、スマホを操作する。
「これ?」
 長田さんがスマホの画面を俺たちの方に向ける。 画面には笑顔でピースサインをするRIMU。
「普通にRIMUの写真? これを撮ってあげたってこと?」
 いつもテレビで見るRIMUよりは少しカワイく撮れているような気もする。 まあこういうのは加工されてるのが普通だからね。
「それ、写ってるの俺なんだ…」
 柏木の発言に一瞬時が止まり
「ええええ~~~~!!!!!!」
 と、みんなが一斉に驚く。 だって柏木コイツだよ? いや、たしかによく見れば柏木はRIMUにちょっと似ているような気がする。 姉弟なんだから当たり前なのかもしれないけど。 俺にはよくわからないが、きっと化粧メイクをすればあんな感じになるのだろう。
「最初の写真集出す時、撮影に俺も一緒にいて、俺は関係ないのに周りがおもしろがって俺にもメイクをして撮られて、そのときの一枚がなぜか写真集に載っかっちゃって、それが『奇跡の一枚』とか騒がれちゃって…」「あー! あれも柏木なん!?」
 長田さんが驚いて叫ぶ。 俺はその『奇跡の一枚』を知らないが長田さんは知っているようだ。
「そのとき以来たまに俺がメイクして写真撮られたりしてるんだ。その時のブログのアクセス数が俺の写真の時は増えるからって」
 なるほど、それは言えないよな。 どうやってお金を稼いだかなんて。 RIMUと柏木の関係を知られたくないというならばなおさら。
「まじか…たまにすごくカワイイなってのがあって、あれ、撮ったやつ加工してるんだろうなって思ってたのに……」
 長田さんは目をむいて驚いている。
「あれを参考にあたしもメイクをいろいろ試してみたりしてたのに……それが…それが柏木コイツだったなんて…」
 自分の目指していた一端が柏木コイツだったってのは、 たしかにそれはそれでショックではあるだろうな。

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